〈ムチ〉は漢字で≪鞭≫と書き表し、その名の通り非常に強い風が吹いた際の音が、鞭を振り回すように聞こえる様子からこの名で呼ばれていると伝わられている。
高岡郡黒石村(現在の佐川町)では “田んぼの上を鞭を振り回すような音をさせてやって来る” と伝わっており、当たってしまうと病気になってしまうとされる。
また土佐郡土佐山村(現在の高知市)では〈ムジ〉と呼ばれており、これは “牛馬に憑く憑き物の一種である“ とされている。
〈ムジ〉は “夜道を牛馬を連れて歩いていると、その周りをやはり鞭の鳴るような音をさせながらやって来る” とされ、もしこの音に気付いたならば、直ぐに目隠しをしてやらなければ牛馬は死んでしまうと伝承される。
一方で同じ土佐郡でも、鏡村(現在の高知市)では〈ブチ〉と呼ばれていたとされ、これは “野山を唸りながら駆け抜けて行き、皮膚に鋭利な刃物で切られた様な傷をつける鎌鼬のような存在である” と伝わっている。
上記の “強い風が吹いた際の音が、鞭を振り回すように聞こえる様子” から、この妖怪の正体は『虎落笛(もがりぶえ)』と推測される。
『虎落笛』は端的に説明すると、冬の時期に吹く強い北風が、葉のない枝や柵を通過した際に鳴る風切り音 で、この音は鞭がしなるような音を周囲に轟かせる。
そのため〈ムチ〉は『虎落笛』の概念がなかった時代の人々が、唐突に聞こえるその音に恐れを抱いて生まれたと考えられる。
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