人物
名前はモンゴル語で「祝福」を意味し、作中でも度々そのことが言及される。
10歳前後の少年。ヤラルトゥという大鷲を連れている。
尚武の気風の強いツォグ族の長の子とされながら争いを避け書物や音楽を好む性格。だが、そのせいで周囲からは浮いてしまっている。
しかし、戦時下でありながら彼の文化趣味は半ば黙認され続けていた。
実は、密かにモンゴル帝国の帝王である大ハンの落胤である疑惑が持たれていて、族長である彼の父からはモンゴル族に従属を強いられているツォグ族復権の切り札として見られていた。
(モンゴル族との抗争に破れた際に、族長の妻であるユルールの母が大ハンの慰み物になった後に産んだ子であるため。実際に、大ハンと瓜二つの容姿に「大禍の眼」を持つ。)
対照的な性格である剛毅木訥な腹違いの兄、神箭の将軍ハラバルがいる。
兄との関係は悪くはないが、侵略した国家に対して「文字など持つから弱いのだ」と言って憚らないその態度に内心ではわだかまりを感じている。
馬頭琴をいつも背負っており、演奏も得意。
自らが属するモンゴル帝国が侵略した地域の文字などの文化を根こそぎ破壊していることに心を痛めている。
物語は、新たな侵略の矛先になった西夏王国の文字西夏文字が刻まれた辞典玉音同をモンゴル軍の破壊から逃れさせるべく出奔した彼とその仲間たちの逃避行が主軸になっている。
本来、玉音同は西夏人の血を引く兄のハラバルに託されることが期待され、彼の母玉花の嫁入りの際に後世への西夏文字伝承のために密かにツォグ族の陣営内に運び込まれた。
しかし、ツォグ族はモンゴル族との抗争に破れその軍門に下ることになり、一転して西夏侵略の尖兵となってしまう。また、ハラバル本人のモンゴル帝国に対するツォグ族の復権を望む意志の強さからそれはなされずにいた。
このため、すでに病により今は亡き玉花の従者を装っていた西夏の密偵ボルドォにより「玉音同を長く運ぶ為の若い舟」として見込まれたことによって、西夏と本来は関わりを持たないユルールが亡国の文化消滅回避の為の宿命を背負うことになる。
そしてそれは、兄ハラバルとの決別をも意味していた。
玉音同を運ぶ旅の中でシュトヘルを始めとした様々な人との出会いや別れを経験し、大きく成長していく。
戦闘能力はシュトヘルやハラバル、グルシャンといった並み居る豪傑に比べれば劣るものの、その聡明さと強い意志によりここぞというところでは弓を引く。
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※ネタバレ
実は、彼の実の父である可能性がある大ハンのテムジンは、自身のとある過去を消し去るために西夏と西夏文字の抹消を目論んでいた。そのため、西夏侵略に異常にこだわることになる。
西夏はモンゴル軍の猛攻の前に滅亡するが、ユルールとシュトヘルらは西夏文字の魂ともいえる玉音同と共に隣国の金国へ逃れたため、テムジンは新たな侵略の矛先を金国へと向ける。
また、武功が高まりすぎたハラバルへの警戒感と、偽皇子ユルールという2つの不穏分子を出したことにより、ツォグ族には反逆の疑いがかけられてしまい同じモンゴル軍の手により皆殺しにされてしまった。
最終的にユルールは、実の父との対峙の時を迎えることになる。