概要
ある男が二十歳ぐらいの時に夜、外を歩いていると、向こうから頭が異様に大きく、肩が高くて背中が曲がった者がやって来たので、「お前は何者だ?」と声を掛けた。すると「オレは化け物だ。そういうお前は何者だ?」といった。そこで男が、「おれも化け物だ」と答えると、化け物は喜んで男に抱きついてきた。
化け物の体は氷の様に冷たたったのだが、驚いたのは化け物の方で、「貴公の体は暖かすぎる。さては化け物ではないな?」と男を咎めたので、男は咄嗟に「おれは化け物の中では最も血気盛んな者なんだ」と答えると化け物は納得し、男の要望に応えて様々な技を見せてくれた。
一通技を披露した化け物は今度は男に、何か芸を見せる様に言ってきたので、男は「今は腹が減って芸ができないので、紹興の町へ食物を探しに行こう」と誤魔化すと化け物は喜んで賛成し、共に紹興の町へと向かうことにした。
男は歩く道すがら、化け物に好物尋ねると「女の髪が大好きで、男の鼻洟(はなじる)が一番嫌いだ」との事。途中で、枯れ木の様に瘦せ細った化け物に出会い、これも同行する事となった。
町に近づくにつれて、夜明けが近づいて来た影響なのか2匹の化け物の足取りが重くなってきたので、男はしっかりと両方の臂(ひじ)を捉え、嫌がる化け物をかまわず引いて行くうちに夜が明け始め、明るくなって見てみると、引いていたのは2羽の家鴨であった。
化け物の正体はこの家鴨が化けたものだったのかと合点した男は、これがまた化けないようにと、鼻洟を掛けて市場へと持って行き売り飛ばしてしまったという。