概要
小説家、美嘉が「魔法のiらんど」で連載していたケータイ小説。作者のデビュー作となる。
高校生の少女の切ない恋愛を描いた作品で、サイトで連載していたころは作者の体験を綴ったノンフィクションと謳っていたが、書籍化以降は実話を元に創作したフィクションとしている。
物語は主人公・美嘉の一人称で綴られ、性描写などもソフトな表現ではあるが積極的に取り入れられている。
2005年から執筆が開始され、2006年には書籍化された。2007年には漫画化、実写映画化を果たし、2008年にはテレビドラマ化もされた。
折からのケータイ小説ブームを牽引した作品として、女子中高生を中心に大きな人気を博した。
2008年に『みんなの恋空』が発売され、作品秘話や、主人公の家族・友人からの「手紙」と称したポエムが収められている。
また、2016年に『「恋空」10年目の真実 美嘉の歩んだ道』が発売され、書籍化から10年を経て作者の思いや当時寄せられたバッシングなどについて綴られている。
ストーリー
主人公の田原美嘉は女子高生。
ある日、友人のアヤ・ユカと昼食を食べていると、隣のクラスの男子生徒、ノゾムに声をかけられる。ノゾムはいわゆるイケメンだが、遊び好きで有名であった。アヤはノゾムと連絡先を交換し、ついでに美嘉のPHSの番号も教えてしまう。強引にノゾムと「友達」にさせられた美嘉だが、ノゾムからのしつこい連絡に辟易していた。そして、ノゾムを狙っているアヤが、嫉妬から美嘉の悪口を周囲に漏らしていることにも気付いていた。
夏休みに入り、中学からの親友であるマナミと自室で過ごしていると、知らない番号から電話がかかってくる。電話に出るとノゾムであったが、彼の友人であるヒロ(桜井弘樹)の家からかけられたものであった。
ひょんなことから連絡先を交換した美嘉とヒロは、そのあとも毎日のように連絡を取り合うようになり、親しくなっていく。
ヒロは当初は本気ではなかったが、美嘉に次第に惹かれていく。また、美嘉も一見すると怖そうなヒロの隠れた優しさに惹かれ、二人は仲を深めていった。アヤとの関係も改善し、ダブルデートをすることもあった。
しかし、それをよく思わないのがヒロの元カノ・咲であった。咲は取り巻きの男に指示し、美嘉をレイプするようけしかける。美嘉は深く傷付くも、ヒロの支えもあり気持ちを立て直していく。
美嘉はヒロの子供を妊娠したが、咲に危害を加えられ、流産してしまう。困難を乗り越えていく中で、二人はさらに強い絆で結ばれていく。
しかし、突如ヒロは別れを切り出す。ヒロはどんどん荒れていき、他の女性と付き合うようになる。美嘉は悲しみの中出会った新しい男性、優と付き合い始める。
優との穏やかな日々を過ごす美嘉であったが、高校卒業を控えたある日両親が喧嘩し、離婚するかもしれないという状況になっていることを知る。美嘉は優や友人らに支えられ、バラバラになった家族の心をもう一度一つにしたいと伝えた。結果として両親は離婚せず、家族も再び仲良く過ごせるようになり「家族」を強く意識するようになった。
大学進学をきっかけに、美嘉は一人暮らしを始めた。優との交際は続き、クリスマスイブにはプレゼントとして指輪をもらった。それは、暗に「結婚しよう」という意味であった。
クリスマスの夜、流産した子供のお参りに出かけた美嘉は、ヒロとの別れ以降疎遠となっていたノゾムと再会する。ノゾムはヒロの代わりに来たのだという。そして、ヒロが来られなかった理由について、不安を感じながら聞くと、実はヒロは病に侵されていると教えてくれたのだった。
ヒロは「美嘉には幸せになってほしい」という苦渋の決断で別れを選んだのであった。美嘉はヒロと再会し、ヒロの病気が末期の癌(悪性リンパ腫)であることを知る。病院でお互いの気持ちを確認しあい、迷った末、優の後押しもありヒロとよりを戻す。
美嘉は大学を休学し、ヒロの看病を続けた。ヒロは抗癌剤治療によって三年ほど生き続けることができたものの、闘病の甲斐なく亡くなってしまう。
ヒロの死後、再びヒロの子供を妊娠していることを知った美嘉は、ヒロと自分の「家族」を守りたい、今度こそは自分の手で彼の分まで育てると決心する…。
批評
全体的な評価としては否定的なものが多い。
例として以下のような意見が挙げられている。
- 書評家の豊崎由美は、「ケータイ小説」全般における「1年間ほどにおける少女の恋愛、性交、妊娠、中絶、不治の病」という特殊な詰め込み展開を「コンデンスライフ」と名付け、「(恋空という作品における)ガン知識の欠落」や「出版社の安易な書籍化」などに警鐘を鳴らしている。
- 「実話」とのふれこみだったが、「週刊文春」2007年12月20日号で井上香織の小説「さよならの向こう側」にストーリー、全体のプロットが類似しているとして、盗作の可能性が指摘されている(※「さよならの向こう側」は2004年9月から約1年半『どこでも読書』というサイトにて連載されており、2006年7月には書籍版が刊行されている。「恋空」の連載が始まったのは2005年12月から)。その後「実話を下にしたフィクション」と改められた。
- 川原や公共施設での性行為、未成年の飲酒、無免許運転、無菌室でのキスなど、インモラルで誤解を招く描写がとても多い。
- 特に、がんやレイプに関する記述は、多くのがん経験者や強姦事件の被害者から批判が寄せられている。がんに関しては、抗がん剤などの描写があるにもかかわらず、味覚障害や生殖機能の破壊といった一般的な副作用はおろか、発熱や嘔吐と言った「抗がん剤による闘病の苦しみ」の描写が皆無である。レイプに関しては、レイプ事件の被害に遭ってから立ち直るまでの期間があまりに短すぎるという指摘があり、主人公がレイプについて容認している部分などに対し、批判も多い。
ただし、これらの(特にがんやレイプの描写について)問題点は、あくまで「本業の小説家ではなかった作者が、自分に近い存在として女子高生の視点で描いた(実話を基にした)フィクション」かつ「ケータイ小説という特殊なメディア」で発表されたことも踏まえる必要がある。
ケータイ小説は他のインターネット上の小説と比べても「短く親しみやすい文体」「複雑すぎない描写やストーリー」「キャラクターそのものの魅力」が重視されているジャンルである。上記のような指摘も、たまたま本作が書籍化・映像化されたことで本来想定されていた読者層以外に認識されただけで、似たような展開・描写の問題は他の多数の作品にも存在する。
つまり、詳細な描写やストーリーの整合性以上に、主人公が恋愛し、困難を愛で乗り越え成長する、という展開で感動を与えることが重視された結果、(作者の知識・描写力・常識的な視点の不足もあるが)このような形で執筆された…と解釈し、擁護する意見もある。
実際、書籍化まではそれほど問題が表立って指摘されることはなく、映像化を受けて本格的に意見が出されるようになった。また、大きく注目されるきっかけとなった映画版/テレビドラマ版も、原作のこのような不合理さや描写不足をカバーすることはなく、単に人気俳優を起用しただけの作品となってしまったため、余計に問題点が際立つ形となっている。
なお、書籍版のあとがきには、ラストで美嘉が身ごもった子供について「ヒロのいる天国に旅立ってしまいました」と書かれている。本作が「実話」→「体験を下にしたフィクション」と立ち位置が変化していることから、作者としての美嘉自身の経験なのか、物語の登場人物としての美嘉のその後なのかは曖昧である。
少なくとも作者としての美嘉はブログにて、ヒロではない男性と結婚し、2人の間に子供が生まれていることを明かしている。
また、『10年目の真実』や刊行に際して更新されたブログでは、現在でも読者からの感想を綴ったファンレターが送られてくると語っており、なかには内容への厳しい非難や、誤情報の訂正を求めるものが含まれていると認めている。
ネット掲示板での反応
上記の理由から、この作品を安易に出版した出版社を揶揄したり、インターネット上の一部でこの作品とこの作品を読んで感動した人達のことをスイーツ(笑)と呼ぶネットスラングが生まれている。
更には本作が商業的に大ヒット、そして複数のメディアへ展開という風に、嫌儲意識が強いネットユーザーの神経を逆撫でする状況へと発展した事もここまで批判祭り的な状況になってしまった一因かと思われる。
そのような背景もあって、ドラマ版のタイトルに「2500万人が泣いた」とあったのだが、これが恋空原作のホームページのアクセスカウンタの数字だと気づいたVIPPER達が、アクセスを繰り返したためサーバーが落ちてしまったという事件もあった。
また、この現象によってケータイ中心のネットユーザーとPC中心のネットユーザーがいわゆる「文化圏」が違うという事、趣味趣向が著しく噛み合わないという事が浮き彫りとなった。
他にもこの本とは関係ない「恋空」という書籍にこの本への批判が書き込まれるなど二次被害も発生している。
評論家の宇野常寛は「恋空の読者層が10〜20代の女性であるのに対し、バッシングを行っているのはこの層と対照的なオタクの男性が目立つ。お互いに敵視・軽蔑し合っており、バッシングが過熱化したのは『ケータイ小説は敵の文化だから批判する』(内容そのものではなく、ジャンル自体が気に入らないので批判している)という側面があるのではないか」と分析している。また、『恋空』のストーリーについて、(オタク層の好む)ライトノベルにおけるセカイ系と呼ばれるジャンルとの類似性も指摘しており、例えばセカイ系の中でも有名な作品である『イリヤの空、UFOの夏』の男女を入れ替えると『恋空』の構図になるとしている。
ネット上での批判・指摘
主に映画版の描写について。以下のリストには、原作に無い、もしくは改変された描写などもある。
- 美嘉がご飯を食べるときにグロスを塗っている。何故食べる前に塗るのか。
- 美嘉は携帯を図書館で無くし、それを拾ったヒロから電話がかかってくるようになる。今だったら完全にストーカーである。
- 美嘉は電話でしか会話したことがないヒロに恋する。なんで?
- そんなヒロからプレゼントとして摘んできた花を渡されたが「花がかわいそう」と言って拒否。その後その花を土に埋め直すのを見て優しい人だと見直す。花を埋め直すことは優しいことなのか?
- ヒロは美嘉の誕生日に虹をプレゼント。花といいずいぶんと安上がりなプレゼントである。
- ヒロは川のような人らしい。どういうこと?
- デートの次のシーンで美嘉が男たちに連れ去られる。展開が早すぎません?
- 強姦シーンのはずなのに繰り広げられるのは花畑の中で美嘉と男たちの追いかけっこ。緊張感無さすぎである。
- 美嘉が暴行を受けた後にヒロがその場所へやって来る。何故誘拐された先を知っていたかは謎である。
- 暴行事件の犯人はヒロの元カノで、学校でも美嘉を貶めるような発言をしているがその直後に美嘉とヒロが行為に及んでるシーンがある。これでは擁護のしようもない。
- そうこうしている内に美嘉が妊娠し、ヒロに報告して2人で大喜び。ちなみに場所はレストラン。客もドン引きである。
- その後美嘉は元カノのせいで流産する。ちなみにこの時高校一年生である。
- ヒロがガンになり悲しませないため美嘉と別れることを決意。でもその方法が美嘉を家に呼び他の女とキスしているところを見せつけ思い出の場所で指輪を投げる。普通に悲しむと思う。
- その後別れた美嘉は年上の優しい男、優と付き合うが、ヒロがガンになっていたと聞き、一時間前に優にもらった指輪を落としヒロのもとへ向かう。そして優は画面から消える。
- 大学を休学してヒロの介護をする美嘉。でもやってることは編み物くらいなので介護の辛さが描かれておらず、多くの人から批判を浴びた。
- 無菌室でキャラメルを口移し。
- 抗がん治療で精子が死滅してるはずなのに子供ができる。
- 結局美嘉は子供を産むことを決意し物語は終わるのだが、「将来とか考えずにとりあえず産む」と言っているようにも思える。
こんな内容のため、あの嘘八百で有名なアンサイクロペディアでも批判点に関しては結構真面目なことが書かれている。