──あの方が僕自身を見て下さったのなら、僕もその信頼に、信頼で応えなければならない。
──応えたいと、そう思う。
概要
真赭の薄の弟にあたる、西家の御曹司。
1作目の「烏に単は似合わない」から存在が示唆されていたが、4作目の「空棺の烏」から本格的に登場する。
勁草院に入峰した雪哉が作った友人の一人。
当初は貴族らしい傲慢な性格……だったが、
千早の一件以降は本来の優しさや明るさが目立つようになってきた。茂丸同様に貴重な善人枠。
奈月彦の従兄弟にあたり、空棺の烏以降は側近となっている。
とても美形。
姉の真赭の薄に似ており、美少女のようと例えられる事もある。赤みがかった黒髪で童顔である。
コミカライズ版のデザインではウェーブがかかった長髪をセンター分けにしている。
人物
真赭の薄と同様に、努力家でプライドが高く、負けず嫌い。当初は思い込みが激しい一面があったが、自らの非を認める潔さも備えており、周囲を見て己を改善していけるのが美点。
姉とはとても仲が良く、周囲に愛されて育ったため、この作品の宮烏としては珍しいほど素直で純粋な性格をしている(千早曰く「馬鹿みたいに育ちがいい」)。
癖の強い登場人物が多いため、突っ込み役に落ち着くことが多いが、結構アクティブな性質。幼少期はやんちゃで周りを振り回して困らせており、外伝では友人の妹の想い人と殴り合いでコミュニケーションをしたり、性根は男らしい。
基本的に礼儀正しいが、勁草院での生活後は、口が悪くなっており(おそらく雪哉たちの影響)、雪哉や千早に対しては冗談混じりに悪態をつくこともある。
経歴
幼い頃に奈月彦が西家を訪れたときに出会っている。
大好きな姉と未来の義兄のために何か自分にも出来ることがしたかったため、外界の遊学から帰ってきた奈月彦の側仕えに真っ先に名乗りを挙げた。外界から帰ってきた奈月彦の最初の側仕え。
が、しかし、生粋の坊であるがゆえの平民階級のものを見下す態度は、後々金烏の側近になるものとして良くないと判断され、その日のうちに勁草院行きを命じられる(勁草院は様々な階級の人が集まるいわば山内の縮図であり、そこで付き合い方を学ばせるため)。
そして、勁草院に首席で入峰した。
入峰してしばらく経ったのち、周囲との関係に亀裂が入り始めた頃、雪哉からの指摘や山烏の千早との交流で自分の振る舞い方について考え、変わっていく。
その後
※以下、「弥栄の烏」までのネタバレ注意
草牙の時からすでに実技科目で遅れをとるようになっており、これ以上勁草院にいても山内衆として奈月彦を守るだけの力はつかないと判断し、霜試には合格したが、貞木にはならずに退学。
奈月彦の近習となり、官人の道を進むことになる。
主が自分の人柄に期待をかけてくれていることを知ってからは、立場に関係なく奈月彦個人に仕えたいと決心。奈月彦が人間性を取り戻していくことについても、肯定的に捉えていた。
千早とは和解後から親しい関係を続けており、千早の義理の妹の結も含めて交流を重ねていた。立場的には千早が明留の近衛の形となっているが、精神的には対等で、ぶっきらぼうな千早と周囲の間を取り持っている。
雪哉とは奈月彦を支える同志の関係であるが、その容赦のない一面を含めて「冷血漢」「猫被り野郎」などと評している。一方で雪哉の情の深いところも理解しており、「弥栄の烏」では茂丸の死や非情な作戦指揮を切っ掛けに沈み込む雪哉を気遣っていた。
奈月彦が金烏になってからは蔵人頭として仕えている。
※以下、「追憶の烏」までの重大なネタバレ注意
"明留……?"
奈月彦が弑され、刺された現場を探している時のことだった。
藤花殿に、人の形をしたものが2つ、転がっていた。
一人は不寝番の山内衆の鹿島。
もう一人は他でもない明留であった。
右腕の肘から下は斬り落とされ、身体には2本の矢が刺さり、顔面をグチャグチャに割り砕かれていた。
直接の死因は毒。
刺された奈月彦を逃がすために庇った矢の鏃に毒が塗られていた。
その後、手負いの状態で下手人2人と交戦し、右肘から下を落とされながらも逃がすまいと噛みついた。
絶命してもなお、その歯が外せなかったため、顎を砕かれた。
感情豊かだった表情が、美しかった顔が、見る影もなくなるまで、主を守るために戦ったのである。
これ以上勁草院にいても奈月彦を護るだけの力がつかないからと中退した明留が、
最後の最後まで奈月彦のことを守るために戦い、主の退路と約束を守った末に惨殺されてしまった。
そして、死して彼の下顎の骨は、証拠として主を弑た者を暴いたのである。
──その死は無駄にならなかったが、千早や西家の面々の心に深い傷を残すことになり、最終的に千早は宮仕えを辞めることを選んでしまった。
余談(ネタバレ注意)
最期こそ凄惨であるが、何らかの闇があったり歪んでいく登場人物が多い本作の中で、真っ当に成長できた希少なキャラでもある(姉と同じく貴族社会に揉まれる前に価値観を見つめ直せたことが大きい)。
作者曰く構想段階ではコンプレックスをこじらせて敵対させるつもりだったものの、思ったより良い子だったので路線変更したとのこと。その結果がこの終わり方であるが、本人に悔いはないと語っている。