「この人だ」と
この人がいい と思ったのは
私がまだ五つか六つの時だった
概要
「烏に単は似合わない」とは、阿部智里の小説。
作者のデビュー作であり、【八咫烏シリーズ】の記念すべき第1作目。
ジャンルは宮廷物語と和風ファンタジーを軸にしたミステリー。
コミックDAYSにて、コミカライズも連載されている。単行本は全4巻。
舞台
舞台となるのは、日本神話にも登場する八咫烏たちが住む、山内と呼ばれる異世界。
この八咫烏達は卵で生まれ、人形(人の姿)と鳥形(鳥の姿)を取ることができる、オリジナルの生き物。
かつての平安時代を思わせるような世界観となっている。
この山内は、東・西・南・北にわかれており、それぞれの領地を東家、西家、南家、北家の当主らが統治している。
その主人にして、いわゆる皇族にあたる存在が宗家と呼ばれる一族である。
彼らは山内の最高身分家系で、当主は金烏と呼ばれている。
しかし、現在の宗家当主はある特別な理由から金烏代(金烏の代わり)と呼称される。
現在、宗家はさまざまな事情で兄宮派と若宮派で派閥が対立している。
今作は若宮の妻、つまり皇后にあたる存在の選出にあたって、東家、西家、南家、北家から選ばれた四名の姫君が后の座をかけて争うことになる。
用語
桜花宮…有力貴族の娘たちが后候補として選抜期間、暮らしている宮殿。それぞれの家に応じて春夏秋冬の殿を与えられる。
登殿…次期金烏への正室になるための制度。そこで見初められた者が入内し、桜花宮を統括する。
藤宮連…後宮の警護にあたる、大紫の御前に仕える存在を指す。
解説
本編の主な内容は、【次期当主である若宮の后選び】&【東西南北の家の関係】についてである。
次期当主の后は、桜の君と呼ばれる。
その桜の君になるために、東西南北それぞれを統治する当主の娘たちが桜花宮に登殿する。
一年の選定期間の後、若宮が気に入った姫が桜の君としての入内が叶う。
娘が桜の君に選ばれ、男御子を産めば山内の国母になり、宗家と太いパイプを持つことができる。それが現在の東西南北の順列や扱いにも大いに関わってくる。なので実質、四家の代理戦争になっているほど、重要な儀式である。
あらすじ
東家のニノ姫は、本来登殿するはずだった姉の双葉が疱瘡を患ってしまい、その代わりとして急遽登殿が決まった。
優しい父や、温かく見守ってくれた東家の者達に見送られ、女房のうこぎを連れ、宗家の桜花宮に到着したニノ姫だったが、他の家の姫達の迫力に圧倒されてしまう。
東家を代表する姫でありながら仮名すら持たない彼女は、大紫の御前に"あせび"という名を賜った。
しかしあせびとは「馬酔木」と書き、食べてしまった馬を酔わせる花である。
その意味するところは『馬程度の男ならお前の色香に酔うだろう』というもので、若宮に対する多大な皮肉と嫌味、侮辱が込められていた。
世間知らずなあせびの味方は女房のうこぎと、桜花宮を取り仕切る若宮の妹、内親王の藤波のみ。
東のあせび・西の真赭の薄・南の浜木綿・北の白珠。
それぞれの季節を象徴するかのように美しい四人の姫による、桜の君の座を巡る争いが始まろうとしていた。
……しかしそこで起こる様々な事件がきっかけで、后選びは混乱を極めていく。
登場人物
【春殿】東家。楽人を多く輩出する。
・あせび…異母姉の代わりに登殿した妹姫。おっとりした箱入りの姫君。琴の名手。
・うこぎ…あせびの女房。ちゃきちゃきとした初老の女性。
【夏殿】南家。商才に恵まれた一族。
・浜木綿…竹を割ったような性格の男勝りな女性。
・苧麻…浜木綿の女房。なぜか浜木綿との仲は険悪。
・早桃…宗家から派遣された元藤波付きの女房。あせびと仲良くなる。
【秋殿】西家。文化芸術に優れ、優秀な職工たちを多数抱える。
・真赭の薄…華やかで気位の高い美人。
・菊野…真赭の薄の女房。感情の起伏が激しい主に振り回されているものの、良き理解者。
【冬殿】北家。軍事武力を誇り、山内の軍を統括する。
・白珠… 表情に乏しいが、黒髪が綺麗な少女。
・茶の花…白珠の女房。ふくよかで抜け目のない初老の女性。
【藤花殿】宗家。要するに皇族。全ての八咫烏を統べる金烏の一族。
・大紫の御前…現金烏陛下の正室(赤烏)。つまり皇后。
・藤波の宮…若宮の同腹妹。あせびの母は彼女の教育係だったため、あせびを姉のように慕う。
・滝本…藤波の女房。藤花殿を取り仕切る。
・若宮(奈月彦):次期金烏であり、「真の金烏」。長らく山内の外へ遊学している。