藤波の宮
ふじなみのみや
「でもやっぱり一番お綺麗なのはおねえさまでした!」
CV:青山吉能
藤波の宮とは、【八咫烏シリーズ】の第一作目烏に単は似合わないの登場人物。
作中での呼ばれ方は藤波。
十六夜から生まれた若宮(奈月彦)の同母妹であり、内親王。年は烏に単は似合わない時点で12歳。
あせびの母、浮雲が彼女の教育係をつとめたため面識があり、姉妹同然の間柄。
あせびのことを「おねえさま」と呼び慕っている。
姉のように慕っているあせびが急遽登殿したことで、自身の兄の若宮に入内し、本当の姉になって欲しいと考えている。そのため宗家という中立の立場だが、あせびに協力したり、肩入れすることが多い。
年相応の性格。内親王という意識はやや欠けている。
桜花宮全体の雰囲気が悪くなると同時に、徐々に感情的になる面や疲弊していく面が多くなり、あせびを后に推しているということを隠しもしていない。
早桃が急死した際は、「こんなことになるなら自分の女房に取り立てるのではなかった」と憔悴し、非常に動揺していた。
※ネタバレ注意
早桃が亡くなったのは、彼女が誤って早桃を桜花宮の下の崖へ突き落としたためである。
彼女はしきりにあせびが入内することを強く望んでいた。
そのため、あせびから「早桃が私のことを嫌いになって、浜木綿に自分が下男を呼ぶこと(桜花宮内の禁止事項)を言いつけるかもしれない」「そうすれば自分は宿下りをすることになる」と相談され、あせびから「助けてほしい」と頼まれる。
それに協力し、早桃を桜花宮からなりふり構わず追い出そうとする。
彼女から「あせびはあなたの思っているような人ではないかも」という言葉に耳を貸さず激怒、勢い余って彼女を突き落としてしまったのだった。
藤波はあくまで追い出そうとしており、殺そうとは思っていなかった。早桃失踪後、徐々に彼女がおかしくなっていったのはこの為である。
そしてあせびに異常に肩入れしていた理由は、
・貴族の世界の窮屈さに、日頃から嫌気が差していた
・母親は故人、大好きな兄は不在、女房達は自分を内親王として扱う為、本当の自分を理解する人間がいない(父親は浮雲に完全に惚れ込んで彼女を諦めきれておらず、家族の情は期待できない)
・美しい母と兄に似ていない、父親似の凡庸な自分の容姿にコンプレックスを抱いていた
・おまけに自分の目指す姿として手本とされていたのは、あの大紫の御前
・育ての母浮雲と、その娘あせびは幼い記憶の中で異様に美化されていた
などの取り巻く環境も原因だったと思われる。
良くも悪くも世間知らずな年相応の少女であったため、内親王の責務を疎かにして、自分が信じていたあせびが優位になるよう、振る舞っていたのである。
しかしあせびは藤波の考えるような「真心のあるような人間」ではなく、悪意があったのかないのかは定かではないが、結局あせびに徹底的に利用され、「わたしのためにしてくれたことなのに」「自分が誤解を招くような言い方をしたから」「不運な巡り合わせ」「お可哀想に…」と、さも天女のような汚れを知らぬ顔で、責任を全て藤波に押しつけた。
藤波はそれでも利用されたことを認めず、縋っていたあせびを庇い、「あせびでなければ耐えられない」「こんな愚かな過ちを重ねた後でも、自分を嫌いにならないでほしい」と兄に懇願するが、若宮からは全ての真実を糾弾され、「早桃たちにしたことを無かったことにはしない」とばっさり切り捨てられた。
それはどんな罵倒の言葉より重かったらしく、藤波は兄に見限られたことで抜け殻のようになってしまった。
その後は大紫の御前の計らいにより、尼寺預かりの身になっている。
ある短編では大紫の御前から「鬼火灯籠」を送られるなど、意外にも気にかけられている。
※更なるネタバレ
「追憶の烏」にて、藤波に仕えていた滝本の視点から、彼女の顛末が語られる。
生まれてすぐに毒をもられて産みの母親の十六夜が頓死。その犯人に挙げられた、育ての母の候補に上がっていた浜木綿の母、夕虹が失脚。
どこまでが誰の思惑だったのかは分からないが、あの浮雲が彼女の育ての母親となる。
浮雲はひたすら藤波を甘やかし、何一つ咎めることをせず、さらに規律を破って自邸に連れ出し、自身の娘のあせびと遊ばせた。
息苦しい生活を強いられていた藤波にとってはまさしく「夢のような時間」であり、浮雲母娘に非常に懐くようになる。
一方、滝本は藤波に悪影響が出ないか心配して厳しく接していたが、それが逆に藤波と心理的な距離感を生むことになった。
そして藤波は、高飛車で、我が儘で、神経質な娘に成長していった。
またその頃から兄の若宮は藤波に会いに来るようになる。
藤波が知っている"男"は父と兄だけであり、美しく優しい実兄になんと恋情を抱いていた。
烏に単は似合わないの時点で確かに嫌われたくないような素振りはあったが……
兄に拒絶されたことに絶望したのは家族以上の意識があったためであり、兄の妻となる相手があせびでなければ許せなかったのは、美化された思い出の中で心を許していた相手であり、自分よりはるかに美しいあせびを皇后に推すことで、叶わない恋を諦めるためだったのかもしれない。
大紫の御前とは彼女が夫を見下げ果ててすらいた為、側室の十六夜には特に何の感情も持っていなかったためか、滝本を挟んで妙に乾いた関係を築いていたらしい。血の繋がった家族を愛した者同士、藤波に通ずるところがあったのだろうか?
しかしその後、目をかけてくれていた大紫の御前に切り捨てられたため(家族以外の異性と会話をしただけだが、それは大紫の御前の逆鱗に触れる行いだった)、彼女自身は何も知らされないまま、若宮殺害の犯人の濡れ衣を着せられかける。
しかし何を思ったか藤波は自ら 若宮を殺害し、かつて殺した早桃同様、欄干から谷底に飛び降りて自害した。
「どうして」