概要
ある行為を犯罪として処罰するために、立法府が犯罪とされる行為の内容及びそれに対して科される刑罰を予め、法律で明確に規定しておかなければならないとする原則のこと。
為政者や担当官吏の気分や心象、その場の専断で勝手に刑罰や罪状を決めることを防ぎ、「法に反しないかぎり、国民の活動の自由と生命を保障する」という自由民主主義国家に必要不可欠な概念でもある。
さらに、罪刑法定主義の具体的な内容として、以下のような原則もある。
慣習法による処罰の禁止
民事法では、慣習が法律の上位として裁判で用いられる場合もある。
例えば商法では、商法に規定がない場合においては商慣習法を適用し、商慣習法がない場合に民法が優先することとされている(商法1条2項)。
しかし刑法においては慣習を理由にそのまま処罰することは許されない。
類推解釈の禁止
「Aの場合はB」と定められている場合に、「Aとよく似たA’もB」とするのが類推解釈である。
しかし、罪刑法定主義上、類推解釈に基づいた処罰は許されていない。
法の不遡及
後になって作った法律を根拠に、法律制定以前の行為に遡って処罰することは、犯罪に対して処罰が予想できなくなることから許されない。
絶対的不定期刑の禁止
刑期を全く定めない刑罰は、どれだけの処罰がなされるか予想することが不可能となるため許されない。
ただし、これらはあくまで被告人の権利を守るための原則であるため、被告人に有利になる場合には罪刑法定主義違反とはならない。
例えば犯罪だった行為が法改正によって無罪となる・刑が軽くなる場合には、法を遡及させて無罪とする・刑を軽くすることも罪刑法定主義には反しない。
批判
倫理的に明らかに許されない事であっても、法律で犯罪と定められていなければ刑罰を科す事はできないし、また犯罪であったとしても法律で定められた範囲の処罰しかできない。
また一般市民が「あいつを極刑にしろ!」と署名を集めても法律で定められたその罪に対する刑罰の範囲内でしか刑罰を科すことは出来ない。
特に、法制度が十分に発達していなかった時代には、刑法を定めつつも刑法に定められていない行為について、ある程度行政官の法律に基づかない裁量任せで処罰するということも行われていた、と言うより行わざるを得なかった。
しかし、法制度の発達や法制度を扱う法律家の技量の向上によって、こうした罪刑法定主義の弊害も縮小している。
それでも、「現行法上は処罰できない」事が問題となり後追いのような法改正が行われることは現代においても行われている。
また、「国民が刑罰法規を知ることで、犯罪を実施しない機会が与えられる」ことが罪刑法定主義の前提であるが、現在の日本の刑罰法規はあまりにも膨大で一個人が全て学ぶことは到底不可能なほどであるため、「国民に対して犯罪や刑罰を知らしめられていない」という問題点もある。