「好きなモン描いて評価されたいんだったら、地元帰って身内とか少ないファンにチヤホヤされてれば?」
概要
タイムパラドクスゴーストライターの登場人物であり、主人公である佐々木哲平が新人賞の佳作を受賞して以来、四年間担当を務め続けた苦労人。主人公である佐々木に対して四年間ネームに全没を与え続けてきた張本人であり、作中で唯一悪役として描写されている。
一話の終盤にて、佐々木が未来の少年ジャンプから盗作し読切版用に書き直した「ホワイトナイト」を〆切を過ぎている為に断られていたにもかかわらず、さらには連載会議当日の会議中に持ち込みの電話をかけ、断られると警備員を振り切って集英社に侵入してまで持ち込むという暴挙に出たために「才能無いんだよ」「今までさんざん義理で見てきたがもう来ないでくれ」ととうとう堪忍袋の緒が切れた…のを逆手に取られてその場にいた編集長により主人公の担当を外され、「図々しい」と他の編集部員にも後ろ指を指される結果となった。
また、ダメ押しと言わんばかりに会ったこともないアイノイツキに「面白けりゃどうでもいいだろ!!」「読者は作家じゃなくて作品を楽しんでるんですから!!」と言われる始末。
2話の冒頭で謝罪する回想が挟まれて以降、本作連載中での出番はなかった。
最終巻の描き下ろしで登場。1話ぶりに哲平と対面する。作中のキャラで唯一時系列通りに外見が老けている。
人気の理由
一応悪役として描写されているはずの菊瀬編集だが、読者人気は高い。
悪役として魅力あふれるキャラクターであるから、とかそう言う訳では無く、この作品でほぼ唯一読者が感情移入できるまともな一般人だからである。
つまりは、彼の人気が滅茶苦茶高いというよりは、その他のキャラクター、特に主人公であるはずの佐々木哲平の人気が著しく低く、相対的に人気キャラになってしまった人物。
そもそも、菊瀬は主人公である佐々木の持ち込むネームを全てボツにしてきた人間だが、それは主人公への恨みだとか虐めだとかという理由では一切無く、シンプルに「白紙と変わらない」「箸にも棒にもかからない」「めちゃくちゃダメな部分がある訳ではないんだけど良い所が一つもなくてそれが致命的」な「空っぽ」の「没個性」なつまらないネームばかり持って来たからである。
言い方に関してはキツイ所はあるものの、最低限のフォローはしており、社会人として一線を弁えつつ、業界人として厳しい事を言う菊瀬は、作中唯一の良心と言っても良く、そもそも盗作作品で平然と連載する自分に甘い主人公よりもよほど好感の持てるキャラクターなのである。
実際、後に主人公が盗作した「ホワイトナイト」のネームを見た時は、彼の才能を見抜けなかったと謝罪を行なっており、純粋にただ、読者の誰かは楽しめる読む価値のある漫画の制作に真摯に取り組んできた人間である事が描写された。
また、菊瀬の指摘する欠点はどれも的確で具体的であり、「なるほど。これを直せば少なくとも誰かにとっては面白い、多少なりとも売れる作品を作れるだろう」と万人が納得せざるを得ないものばかりである。
例えば、「何かないの?伝えたいメッセージとか自分にしか描けないと思えるようなもの」という質問に対し「沢山の人たちを楽しませる漫画を描きたいんです」という漠然とした目標しか語らない主人公に対して、「沢山の人って誰だよ」「エログロ要素を詰め込んだトリッキーな話の方が読む価値がある」と、手厳しくも漫画編集者として真っ直ぐな言葉をぶつけている。
なお、それに対する主人公の反応が「マイナー路線を目指せと言う事ですか?」という連載も待てない程度の分際でその道で食ってる人達を完全に見下した発言だったのも火に油を注いでおり、まずいと思ったのか単行本では「そう言うものを書けと言う事ですか?」に変わっている。
キツい言い方で主人公を失意のドン底に突き落としたが、正論すぎる正論であり、「仮にこの漫画がまともな作品になっていたとしても菊瀬の評価はさほど変わらなかったんじゃないか」との声もある(失意のドン底に落ちる主人公にさらに追い討ちで正論をぶつけるコラが流行るほど)。
無論、菊瀬の指摘した部分を直す事が難しいのも確かだが、逆に言えばそこを克服する姿を見せるのが主人公の一番の見せ場であり、漫画家としての成長を見せる最初の壁である。
それを盗作などと言うクリエイターとして最大のタブーで超えてしまった主人公の佐々木よりも、純粋に佐々木の漫画と向き合っていた菊瀬の方が、漫画製作者として人気が高いのだ。
また、菊瀬がやり返されるシーンも、「編集長が哲平を気に入っていたから強権を振り翳して正当化させた」というものであり、むしろ真面目に対応していた彼を無碍にしているため言いようのない気持ち悪さを残してしまっている。
最終巻の描き下ろしで登場した際、ホワイトナイトの事を「誰でも描ける、だから売れた」と評し、その後に連載され短期打ち切りされた哲平の作品を「君にしか描けないものだから面白かった」とも評している。
ただし会話の冒頭で「どう?三回連続打ち切られた気分は」と冷めた目で聞いている事を踏まえると、打ち切られた3作品を特別に高評価しているわけでもなく、あくまで菊瀬編集が担当していた「空っぽのネーム」よりは面白い程度の評価だったのだろう。
ホワイトナイトの評価だが、当作品はアイノイツキが「透明な漫画」理論(作家性を完全に無くし、面白いシナリオと表現だけを重視して詰め込んだ漫画のこと。悪い言い方をするなら「斬新さのない絶対にウケる話だけを詰め込んだ内容の漫画」)を突き詰めた結果であり、それを哲平がただ盗作した(=哲平じゃなくても描ける)ものであるため、盗作の事実を哲平以外が知らないにもかかわらずホワイトナイト及び哲平の本質を理解していた作中唯一の人物と言える。
余談
「菊瀬にモデルはいるのか」というような質問に対し、作者は「実在する特定の編集者と勘違いさせてはまずいと思い、実在しない苗字を使った(要約)」という回答をしている。同名人物に迷惑(学校でいじめられるなど)がかからないよう、キャラクターに実在しない名前をつけるという配慮をした作品は他にもある(デスノートの夜神月などが有名)。しかしそれなら盗作行為を働く主人公こそ実在しない苗字にすべきだったのではないかというツッコミも当然ある。
そのこととリアルすぎるダメ出しの描写から、一部では菊瀬の言った事は全て作者がどこかで言われた事ではないのかと推察されている。
- この後に作者は「捉え方は人それぞれ」と書いたが、直後に「本当のジャンプの編集はみんないい人です」と述べていることから、逆説的に「菊瀬はいい人のつもりで書いていない」と自白してしまっている。
- またこのリプからは邪推ながらも「ジャンプの編集はいい人」ということから、「ジャンプ以前に掲載していたところの編集に言われたことではないか」と推測されてしまった。
他の編集が哲平の(盗作だが)作品を褒めているシーンは「うおおおめっちゃおもしれー!」「神漫画だ…!」と真逆というほど具体性が欠けていることもこの疑惑に拍車をかけてしまっている。
また薄っぺらい本作で作品としての熱を感じるシーンは現状彼のシーン位と言う声も。