虎眼流
こがんりゅう
濃尾無双と讃えられる剣の達人岩本虎眼によって掛川に興された流派で、虎眼が若い頃に用いていた我流の兵法を元としている。
真剣は折れやすいという理由から剣が衝突するのを避ける、急所を狙い最小限の斬り込みで敵を討つ、特異な構え・動作からの初見殺しを狙うなど実戦を意識した剣技に加え、当身技(打撃)や柔術(柔軟な体術)なども鍛錬・術技に取り入れている独特な剣術である。
虎眼の剣術は多指症の右手をフル活用した精密かつ大胆なものであり、そのことから虎眼流の技には握力や腕力に重点を置いたものが多い。これらを成すためには常人離れした筋肉と、それを支える皮フの強さが必要とされるため、虎眼流では常軌を逸したしごきを門弟に課している(手の皮が全部むけるのが出発点)。
他流試合の際は敢えて相手の命を奪う事無く、目や鼻、耳などを木剣にて削ぎ飛ばす(曰く「伊達にする」)事で『虎眼流強し』を世間に知らしめ、名声を高めていた。
また虎眼流は面子を重んじる流派であり、岩本虎眼や流派そのものを嘲笑するものは立場・身分に関わらず弟子達がその場で切り捨てる・場合によっては拳で打ち倒す事を良しとしていた(まだ前髪の身分である涼之介が反射的に行っている辺り、本能レベルで叩き込まれる模様)。
面子を守るためとはいえ、これらの所行は江戸時代の常識からも逸しており、影では相当の恨みを買っている。
追放された伊良子清玄によって門下生が次々と討たれ、さらに創設者の虎眼と師範の権左衛門も清玄に倒されたため、徳川忠長主催の御前試合が行われた頃には没落してしまっている。
前述の「最小限の斬り込みで敵を討つ」理念から、虎眼流の剣術は基本的に「当たれば即致命傷になりうる攻撃」を目指している。
そのため一部の上級修練者にのみ与えられる剣技は独特かつアクロバティックなものが多い。
虎眼自身が我流の剣術使いであることもあって、門弟がオリジナルの剣技を組み込むことも多い。
後述の虎拳にもあるように、素手で頸椎を捻り、頭蓋を陥没させ、顎を骨ごと吹き飛ばす凶器のレベルまで身体能力(筋力・スピード・柔軟性、耐久力もろもろ)を鍛え込む事が中級伝授への前提になっている。
流れ
刀を担ぐような姿勢で構え、振り抜く横薙ぎ。振りの途中に一瞬握りを緩め、手の中で柄(グリップ)をスライドさせ鍔元から柄頭へ持ち替えることで、相手の目測を超える間合いの斬撃をたたき込む術である。
原理自体は簡単であるが、精密な握力の調整が出来なければ刀が明後日の方向に飛んで行ってしまう。
また相手に間合いを錯覚させてこそ必殺と成り得る技である(ネタバレ厳禁)ため、中目録以上にのみ授けられる秘伝として道場試合では使用を禁じられている。
虎拳
手首を叩きつける打撃技。本編の描写では手首(手の甲側)の他、尺骨部を打ち込んでいることもある(山崎九郎右衛門が使用)。これで人間の筋骨皮をたたき壊せて一人前、という所。
手首に限定されるものでもないようで、藤木源之助は居合の構えから「存在しない刀を掴み」、裏拳を振り抜いて敵の拳を叩き割った。
秘奥の「掴み」
「猫科動物のごとく」指を丸め、人差し指と中指の第2~第3関節の間の部位で柄を挟み込む掴み。
手首の向きと刃の向きが一致し、素早い振りを可能とする。前述の「流れ」によるリーチ延伸ももちろん可能。だが、異常なレベルの指の力と皮フの強度がないと、まともには保持もできない。また、どうしても保持力は弱いため、敵の刀と衝突させない事が絶対必要であると考えられる。
藤木源之助は予想外の決闘の中、偶然これをひらめいた。本来修行者が自力でたどり着く事を想定したと思われるが、源之助は隠す事なく「仕置」シーンなどでこれを披露しており、他の高弟にも広まっている。が、本差(長刀)でこれをやりこなせるのは源之助だけで、他の高弟は脇差で使っている。
ちなみにこの「掴み」からの動作は前述の虎拳と一致しており、修行の前段階だと解釈できる。
技名不明
星流れの術理の一部を使用した技である。全身を回転させて振り抜く裏拳(スピニングバックナックル)だが、打ちこむ拳を逆の手で掴んで固定し、力を溜めてから開放する事でさらに速力を増す。空中に投げた徳利の横腹に穴を開けることが可能。
星流れ
虎眼の得意技であり、流派の秘奥義。作中では「星流れ」と「流れ星」両方の表記がある。
秘奥の掴みをとった上で、左手は刀の切っ先をつまんで固定する。左手で刀を固定した状態で右手に力を溜め、それを解き放ちながら手首関節の縦の動きを乗せ、更に流れでリーチを伸ばすことで凄まじいスピードと力を併せ持った回避困難な斬撃を放つ術である。
原理としてはデコピンのそれに近い。
伊良子清玄の秘術無明逆流れもこの技からインスパイアされている。
なお、原作では「横方向の高速の斬撃」以上の情報はなく、「片腕を失う事になる主人公が身に付けた最強の極意は、両手が無いと使えない技」と云う残酷極まりない展開は山口貴由のオリジナルである。