概要
第二次世界大戦中にドイツのハインケル社が開発した、ジェット戦闘機。
史上初めてジェットエンジンによって飛行した戦闘機だが、紆余曲折を経てMe262にその座を奪われた。
開発
当時の航空機用エンジンは専らレシプロエンジンであった。だが、レシプロ機は「プロペラを回転させる」という性質上、高速になればなるほど速度を上げるのが難しくなる。第二次世界大戦後期、レシプロ機はその速度限界(800キロ/時前後)に近づいてきていた。
そこで白羽の矢が立ったのがジェットエンジンである。ジェットエンジンはレシプロエンジンよりも構造が単純で、速度の上限もレシプロエンジンよりはるかに高い。だが、高温に耐えうる素材がないため、それまでは机上の空論に終わっていた。
しかし、1937年3月にドイツ・ハインケル社が世界初のジェットエンジン「HeS B3」の開発に成功すると、机上の空論であったジェット機は現実のものとなる。
HeSB3を搭載したHe178が世界初のジェット飛行を成功させると、ハインケル社は次にジェット戦闘機・He280の開発に着手した。
初飛行と冷遇
1941年4月2日、HeS 8A遠心式ターボジェットエンジンを搭載したHe280V1(“V”は試作機を示す)は見事、初飛行に成功する。初飛行から3日後は空軍の重役の前でも飛行を披露するが、彼らの反応は冷淡だった。というのも…………
ハインケル「どうですかこれ! 超革新的な戦闘機ですよ!」
航空省「ふーん…………で?」
ハ「え? すごくないですか?」
航「いやまあすごいんだけどね? 今要らないんよこれ」
ハ「は?」
航「だって今うちの空軍最強じゃん? んでこのあとソ連に攻め込むじゃん? なんで使えるかもわからんイロモノに手ぇ出さないといかんの?」
ハ「うっそだろお前」
終始こんな調子だったのである。
渋る航空省、粘るハインケル社
だがしかし、ハインケル社は諦めなかった。せっかくライバルのMe262がエンジン不調でもたついているのに、諦めている場合ではない。一刻も早くジェット戦闘機の有用性を証明し、He280の契約を勝ち取らなければならないのだ!
ハインケル「エンジン改良して推力上げたよ!(V2, V3)」
航空省「いやー前輪式はちょっと……」
ハ「そんならFw190Aと模擬空戦や! どうや強いやろ!(圧勝)」
航「分かった分かった量産していいから…………」
こうしてハインケル社の熱烈なアピールが功を奏し、先行量産型・He280A-0の受注に成功した。やったねハインケル。めでたしめでたし。
Me262の追撃
…………とはならなかった。ここにきてMe262のエンジン問題が解決してしまったのである。
Me262はもともとBMW 003エンジンを使用する予定だったが、うまくいかないためユンカース社のユモ004エンジンに切り替えた。ユモ004はHeS 8Aより高性能であったため、He280V2もユモ004を搭載するが、もう手遅れだった。
純粋に機体性能だけで比較すれば、He280はMe262に遠く及ばなかったのである。
それもそのはず、He280は射出座席(世界初)や前輪式降着装置など、新機軸を多数搭載していたが、主翼は後縁が丸めてあるとはいえ直線翼であり、機体設計も旧態依然としており、レシプロ機のものと大差なかった。
反対に、Me262はF-86のような後退翼を採用しており、機体断面も三角形になっているなど、空力的に洗練された形をしていたのだ。
航空省は待ってましたとばかりにHe280A-0と戦闘爆撃機型のHe280Bの発注を取り消した上で、とどめに今後一切開発契約を認めないことを宣言してしまった。
かくして史上初のジェット戦闘機・He280は、日の目を見ることなくお蔵入りとなったのである…………
スペック
乗員:1 名
全長:10.40 m
全幅:12.20 m
全高:3.06 m
翼面積:21.50 m2
自重:3,055 kg
最大重量:4,300 kg
動力:
ユンカース Jumo 004B-1 軸流式ターボジェットエンジン ×2 (He280 V2, V6)
ハインケル-ヒルス HeS109-001(HeS8A) 遠心式ターボジェットエンジン ×2 (He280 V1, V3, V5)
BMW 003 軸流式ターボジェットエンジン ×2 (He280 V4)
推進力:750 kg × 2 (ユモ004)
最高速度:790 km/h
航続距離:620 km
上昇限度:11,400 m
武装:20mm MG151/20 機関砲×3
参考文献
渡辺洋二『ジェット戦闘機Me262-ドイツ空軍 最後の輝き』光人社,2012年。
吉岡哲巨編『超精密「3D CG」シリーズ㉗ ドイツ空軍』双葉社,2005年。