開発経緯
事の始まりは1943年。空軍元帥ヘルマン・ゲーリングは3×1000計画を計画した。これは「時速1000キロメートルで1トン(=1000キログラム)の爆弾を搭載して1000キロメートルの距離を行動できる爆撃機を作る」という計画である。一見するとぶっ飛んだ計画に見えるかもしれないが、速度以外はHe111爆撃機がすでに満たしていたりする。
少年期からグライダーや全翼機に興味を持っており、当時のドイツで盛んだったグライダー競技会の少年向けスケールモデルグライダー部門で1931年~1933年に連続優勝するほどの腕前であったホルテン兄弟は、空軍での勤務の傍ら、無尾翼機の研究開発を行っていたアレクサンダー・リピッシュ博士の指導も受けて全翼機の設計・製作を続けていた。
兄弟はこの計画にジェットエンジンを動力とする全翼機を製作するというホルテンIX計画で応募した。
1943年8月ゲーリングは兄弟と面会し提案内容を承認、ドイツ空軍はホルテン兄弟に50万ライヒスマルクの援助を約束し計画は実行されることとなったのである。
開発
1944年3月1日、無動力のプロトタイプ、型式番号H IX V1の初飛行が成功。
1944年12月に完成したジェットエンジン動力のH IX V2は満足すべき性能と安定性を見せた。
ただ、V2は2月26日のテストフライト時(通算4回目、飛行時間2時間弱時)にエンジンのフレームアウトを起こし墜落、炎上した。
緊急着陸に失敗したパイロットのエルヴィン・ツィーラーは死亡してしまったが、テストフライト自体の結果は良好であり、高性能を喜んだ空軍は本機をHo229として制式化。
戦局を覆す可能性がある高性能機として軍当局の期待は高く、複座型や夜間戦闘機型といった多様な派生型が計画、製作された。
ホルテン兄弟は機体の量産能力を持たないためゴータ社とクレム社に発注しており、ゴータ社の名を取ってGo229と表記する資料もある。
しかしながら製作は間に合わず、結局ドイツは敗戦し製作も打ち切られた。
一番完成度が高かったV3はフリードリヒシュローダにあったゴータ社工場で侵攻してきたパットン将軍指揮下のアメリカ陸軍第3軍に鹵獲された。現在はアメリカ国立航空宇宙博物館のP.E.ガーバー施設にて保管されている。
なおこの機体には機体後部に鉤十字が塗装されているが、これは鹵獲したアメリカ軍が描いたもので、鹵獲時に撮影した写真には鉤十字は描かれていない。ホルテン兄弟が開発した機体のほとんどは垂直尾翼に鉤十字を描いていた。
スペック
乗員 | 1名 |
---|---|
全長 | 7.47m |
翼長 | 16.76m |
全高 | 2.81m |
翼面積 | 50.20 m² |
自重 | 4,600kg |
最大離陸重量 | 6,912 kg |
動力 | ユンカース Jumo 004B-1 ターボジェットエンジン(推力900kg ×2) |
最高速度 | 977 km/h |
戦闘行動半径 | 1,000km |
航続距離 | 1,300km |
上昇限度 | 16,000 m |
上昇率 | 22 m/s |
武装 | 30mmMK 108機関砲×2、55mm R4Mロケット弾、500kg爆弾×2 |
ちなみに、本機は塗料には炭素粉を使用しており、世界初のレーダーステルス機といえる。
また機体は鋼管フレームにベニヤ板のような戦略物資を使わない設計がなされており、 生産性は高かったと考えられる。
2009年にナショナル・ジオグラフィックは本機を復元する特別番組を制作。ノースロップ・グラマンの協力により本機の設計図を元にレプリカを作製してステルス性を検証し、「映りにくい」程度ではあったものの当時のイギリス軍レーダー網に対する十分なステルス性を確認した。
もし実際に生産され実戦投入されていた場合、レーダーで確認し辛いため奇襲しやすかったとは考えられる。 また全翼機であるためピッチングはかなりしやすかったと考えられるため、Me262とは異なりレシプロ戦闘機との格闘戦もある程度は可能だったと考えられ、30mm機関砲の火力も併せて考慮すれば強力な戦闘機になっていた可能性もある。
ただしこの頃のジェットエンジンは性能が高いわけではなく、加速が鈍い上に離着陸が難しかった。Me262がそうであったように燃費もあまりよくなかったと考えられる。
特に着陸は設計上前輪がかなり大きいため下方視界が悪いという事もあり難しかったと思われる。
登場作品
第二次大戦時に試作された全翼機という特徴から、架空戦記では多くの作品に登場する。
Ho229 V3として爆装のない夜間戦闘機型が実装されている。
同名の飛行ユニットが登場しており、実機のHo229をモチーフとしている。
発展型の「ホルテンFX」シリーズが実用化されているという描写があるほか、OVA版ではさらなる発展型のステルス爆撃機「アングルボザII」が登場している。
『旭日の艦隊』にはGo229の誤植と思われる「全翼機60229」という記述もある。
- 鋼鉄の咆哮シリーズ
ドイツ型の戦闘機Ho229として登場。30mm航空機関砲と250kg爆弾を搭載している。
爆撃機型として誘導爆弾を搭載したHoⅨ、『鋼鉄の咆哮2』以降はさらにHoⅩⅧも登場している。
『ウォーシップガンナー2』のみHo229の武装が57mm機関砲と30mmバルカン砲に変更されている。
大日本帝国海軍に配備されたという設定で「轟雷」という名前で登場。30mm機関砲と800kg爆弾を搭載している。
関連タグ
戦闘機 レシプロ機 ジェット機 ステルス機 全翼機 ヘルマン・ゲーリング