概要
国家元首とはその国の元首(代表者)のこと。この職の実態には国により大きな差が存在する。必ずしも実権を有さなければ元首とならないわけではないことに注意。
一般には皇帝、国王、ローマ教皇、大統領、総統、国家評議会議長、国家主席、最高指導者などが該当する。
一般的には、国家元首が誰であるかによって国の「政体」が決められる。君主が元首であるなら「君主制」、大統領など民選の人物が元首であるなら「共和制」とするのが一般的。
種類
君主制
君主制国家においては国王や大公(公、侯)、スルタンなどの号が一般的。後述するが世界的には日本の天皇も含まれる。
君主制国家そのものが少なく、その大半が立憲君主制国家に属するものの、君主が政治的にも絶対的権力を握る絶対君主制国家も少数ながら存在する。
特定の権限を持つ者による制限選挙で選ばれる元首
キリスト教・ローマカトリック教会の枢機卿同士の互選によって選ばれるローマ教皇が元首を務めるバチカン市国や、世襲の首長の互選によって大統領が選出されるアラブ首長国連邦(UAE。ただし、UAEでは慣例上連合トップのアブダビ首長が常に大統領に選出される)など。
一般的にはこれらも君主の一員として見なされ、君主国に分類される。
ただし、宗教指導者が元首を務めるイランにおいては、後述する理由で一般的にこの形態の君主国に見なされない。
共和制
大統領や国家主席など、共和制国家における一般的元首。選出方法は様々であるが、少なくとも普通選挙による選出を基軸することが要件となる。
例えば、直接選挙によって選出される国(アメリカ、フランスなど)、普通選挙によって選出された国会議員によって選出される国(南アフリカなど)がある。
大統領の役割も様々であり、行政における長を兼ねる実力を有する大統領制(アメリカなど)、しばしばその力が首相と分散される半大統領制(フランス、ロシアなど)、儀礼的な役割しか果たさず、実質上の権力者は首相などの政府首班が有する議院内閣制(ドイツ、イタリアなど)などがある。
なお、選挙システムが厳しく制限されているか、もしくは形骸化しているか、全く存在しない国においては後述する独裁政体に分類される。
しかしこのような場合でも、血族世襲を明記せず、更に世俗的なシステム(政治的な問題など)に起因した国家であるなら共和制に分類される。
首相公選制国家
立場上は、名目上の国家元首と、立法府(議会)の選挙結果に依らない直接選挙による政府首班(すなわち首相)が両立する国家も存在する(かつてのイスラエル、現在は一般的な議院内閣制)。
これを首相公選制というが、現在この政体を取っている国際的に認められた国家は存在しない。政府首班は立法府の勢力に依るか、大統領が直接指名することが常となっている。
イランの事例
イランは一般的に大統領制に分類される共和国と見做されているが、イランには強い宗教的権威に依る「最高指導者」がおり、これが国家元首である。
大統領は行政府の長というだけであって国家元首ではないが、通常国家元首が持つ機能のうち外交面についてのものは保有しているため、対外的には国家元首に準じて扱われる)があげられる。
また、イランの政治システムは制限された君主的な最高指導者の下に、一般国民によって公選された政府首班がいるという首相公選制に類似したものだが、前述する理由により大統領の立場が首相と少々異なるだけでなく、かつてイランには別に首相が存在したため、一般的にこの立場に扱われることは少ない。
特殊なもの
以下の事例は元首の立場における極端な事例である
- スウェーデン国王(憲法で国家元首と明記されている以外は首相の任命や議会解散の行使すら行わない完全な象徴)
- スイス(連邦参事会という内閣そのものが国家元首と明記されている稀な政体)
元首の明記の必要性の有無
そもそも国家元首とは国の長を一律に呼称するための慣例的なもので、これまでの事例を見てきたように各国で選出方法も立場も大きく異なる。
元首が憲法に明記されていない国家はしばしばある。例えば、日本やアメリカ(合衆国憲法には「執行権は、アメリカ合衆国大統領に属する。」としかない)などがある。
しばしば国内における政体との齟齬が見られるのが常であり、国家元首とは外交関係を結ぶにおいて「自国と相手国のそれぞれ立場を相対的に表した」目安に過ぎないとも言える。
特定の人物を国家元首に有さないスイスでも、国際慣例上連邦大統領(連邦参事会主席とも)を国家元首と見做して外交を行う(連邦大統領は参事会メンバーが各年持ち回りで担当する)。
日本の国家元首
上述したように、日本は「元首が明文化されていない」という点では世界的には特殊な事例の一つである。しかし法文上の様式により国家元首と明記されない事例はしばしば見られることでもある。
だが、現在の日本の天皇が「元首」であるか否かは、現行憲法(日本国憲法)における天皇に関する記載が曖昧な表現のため、憲法学上は諸説あることとされている。
説によっては内閣総理大臣あるいは内閣が元首、あるいはそもそも元首なるものは存在しないなどとという説まで存在するが、外交慣例上では他国の国王と同じく天皇は元首として待遇されており、実質的に元首として扱われている。外務省も日本の元首は天皇であるとしている。
このため、国王や大統領との儀礼会談は常に首相ではなく天皇が行い(首相が行うのは政治的な実務会談)、各国の最高勲章の儀礼叙勲も天皇に対して行われる。
上記のことから憲法改正において日本の元首を天皇として明記することが検討されているが、そもそも国家によっては元首の立場は大きく異なり、あくまで明記するかどうかは慣例によるものなので、そもそも必要ないとする説もある。
独裁者
国家元首には独裁者として実権を握っているものも存在し、実権の無い代表者に過ぎない元首を担いで専制的な政治を行っている独裁者も存在する。
なお軍事政権において以前の国家元首が排除されその役職に政権の長が就任しない場合、最高司令官が国家元首ということになるが、現在では軍事政権の最高司令官、特にクーデター等暴力により成立したものは国際的に国家元首とは認められないケースも多い。