概要
出典はVR作品『機動戦士ガンダム:銀灰の幻影』。
上記の作品に登場するモビルスーツの「ジム(アージェント・キール仕様)」と「ザクⅡ(アージェント・キール仕様)」の解説文中の「外観上はU.C.0079年頃の通常機とカラーリング以外に差異はない旧式だが、近代化改修によって性能はU.C.0096年代の最新鋭機であるジェガンやギラ・ドーガに匹敵する」という一文に由来する構文。
これを言っておけば、何でも性能を底上げできる魔法の言葉である。
ここがヘンだよアージェント・キール仕様
そもそも第一世代MSはムーバブルフレームなど無いモノコック構造なので、根本的に別物な第二世代MS以降のレベルに改修する事には自ずと限界がある。「ガンダム」作品群の劇中では兵器開発競争激化の折でもあり、ザクは伸びしろがないからこそ次世代機にその座を譲り、U.C.0088年頃には既に二線級任務へ回されているか、最新鋭機体なんて到底調達出来ないジオン残党軍などの反連邦組織で使われ続けている状態で、軍隊ですらない宙賊やテロリストにも流出しているという経緯を踏まえれば、実に頓珍漢な設定であると言えるだろう。
近代化改修で高性能化できた機体達はいずれも、高い基本性能と発展性でそれを成し得た数少ない例外なのだ。ジムもそのひとつであり、ジムⅡ、ジムⅢといった正当な改修機が存在するので、それじゃダメなのかと思われるのも無理もない話である。
加えて、独自改修機という設定の機体には少なからず変化が外見に現れるのが通例であった(例えばゲルググを近代化改修したリゲルグは肩アーマーが巨大化している)が、今回では見た目が原型機ほぼそのままで「どこがどう強くなったのかわからない」のも安直さに拍車をかけている(しかもなぜか別世界である『ORIGIN』版のデザイン)。ジムⅡでさえ外見の変化がわかりにくかったため「どこが変わったのかさっぱりわからない」と言われていた事があるのだから猶更である。旧型機を活躍させる際によくある「パイロットの熟練した技量で性能の低さをカバーしている」という設定すらない。
一応、「外見がザクⅡでありながら高性能」というコンセプト自体は、後の時代のリファイン機・RFザクにも当てはまるものの、こちらは同系のシリーズ機体共々中身は最新技術を惜しみなく注いだ新造機で、言わば「ガワだけ似せて造ったレプリカ」とでも言うべき機体であるため、アージェント・キール仕様とは似て非なるものである。
またジェガンやギラ・ドーガが主力だったこの時代は数々のMSが高性能化の代償に段々と大型化しつつあるという経緯も無視されている。実際ジムとジェガンでは大体2m程、ザクⅡとギラ・ドーガでは約3mもジェガンやギラ・ドーガの方が大きい。
兵器であるMSは戦闘や取り回しの面で当然小さいほうが有利であるが、それにもかかわらずこうして大型化してしまうということは、それがこの時点での技術の限界ということになる。
逆に、ジム・ザクⅡの大きさのままジェガンやギラ・ドーガ相当の性能が出るのであれば、最初からそのサイズでジェガンやギラ・ドーガを作れているはずということになってしまう。
- 現実の歴史の例で言えば、『第二次世界大戦時代のレシプロ機である零戦やF4Fが、外見はそのままで17年後のジェット機と同様の性能を持っている』というようなもの。
- WW2直後の朝鮮戦争ではすでに第1世代ジェット戦闘機が登場しており、17年後ともなれば第3世代ジェット戦闘機であるF-4ファントムⅡの時代である。
- 音速以下の速度で戦っていた機体を改造し、超音速で飛ぶ相手にも追いついて戦えるようにする…どう考えても無理である。
- 21世紀では十年単位で昔の機体が改良されて使われているが、それはあくまで「兵器として成熟している」から。歴史的になぞらえるなら、『MS』という一年戦争前に生まれたばかりの新種の兵器かつ最初期の機体なので、現実世界の空なら『初めて空を戦場とした複葉機』、陸なら『塹壕を正面突破した新兵器の菱形戦車』といってもいい。一年戦争ならぬ第二次世界大戦初期でもそれら複葉機や豆戦車が多数(ドイツやアメリカすら使用していた)だったのがたった数年の化け物的進化で戦後も使われたT-34やP-51マスタングが主軸となっている。上記でも触れているが宇宙世紀でも一年戦争やその後の度重なる紛争で驚異的な進化をMSは遂げてきたため、現実世界と同様と思っていい。
- 21世紀では長期運用が基本の成熟したジェット機や戦車と、それをようやく黎明期を脱したばかりのMSと同一視するのは非常に筋違いである。極端な話、宇宙世紀の人にとっては『複葉機や菱形戦車をジェット機時代に持ち出した』レベルである。
- 成熟した兵器の長期運用、という話であればジム・ザクⅡよりもジェガンの方が相応しい(実際にU.C.0093~U.C.0123の30年に渡って使われた)のは皮肉な話である。
これだけおかしな設定にもかかわらず、実際に公開されたスペックでは、ジェネレーター出力は当のギラ・ドーガに遠く及ばず、機動力の指標であるパワーウェイトレシオでも負けている。また装甲材も一年戦争当時からほとんど更新されておらず、下手をすればジェガンの頭部バルカンが致命傷になるのではと言われ、失笑を買っていた。
要するに見た目や設定画等を見てもオリジナルのMSと殆ど差異がなく、矛盾が山積みになっている所を近代化改修の一言で済ませてしまった所が手抜きや小学生の「ぼくのかんがえたさいきょうの○○」として捉えられてもおかしくない状態にしてしまったのである。
なお、同じアージェント・キール仕様でも、先に登場が明かされていたリ・ガズィ(アージェント・キール仕様)は割と新しい機体である事やちゃんと改修点が明確になっている事もあって、ここまでネタにはされていない。
ミーム化
このように、あまりにも整合性を考慮しない無理筋、ずさんな設定の盛り方など様々な理由から、これまでの設定を重んじる旧来のファンは憤慨。
一方で、このあまりにも道理を無視して”盛った”内容を当てはめることで茶化す大喜利を開催するエンジョイ勢も現れ、「構文」化。良くも(?)悪くも耳目を集める結果となった。
用法
さまざまな機体に「近代化改修」を施すことで、ジェガンやギラ・ドーガに匹敵する性能を与えるものである。
単なる言葉遊びに留まらず、ありとあらゆる機体を銀色に塗って、中身は最新鋭機という設定を与える茶化し半分、当てこすり半分といったプラモ作例も。
対象となる機体はMS以外のワッパのような一般兵器、旧式量産型モビルスーツに留まらず、ワンオフ機や遥か後世のMS等の、ジェガンやギラ・ドーガを遥かに凌駕する機体すらも対象。場合によっては違う機体が基準になる事もあるが、大抵はいかなる兵器・MSであっても「U.C.0096年代の最新鋭機であるジェガンやギラ・ドーガに匹敵する」の一文で締めくくられる。
使用例
- ザクⅠ・スナイパータイプ(アージェント・キール仕様):旧式ではあるが、近代化改修により性能はユニコーンガンダムに、ビームスナイパーライフルの威力はビームマグナムに匹敵する。
- オッゴ(アージェント・キール仕様):外観上は通常機とカラーリング以外に差異はないが、徹底した近代化改修により機体性能はジェガンやギラ・ドーガに匹敵する。
- 単なる強化のみならず弱体化した例も存在し、これがまた大いにバズっている。
関連タグ
イフリート・シュナイド…一年戦争時代のMSの近代化改修機。此方は外見が多少変化しており、そもそもイフリート自体が高性能機なのもあって批判的な意見は少なかった。
トーリスリッター…一年戦争時代のMSの近代化改修機。とは言え当時のままなのはブラックボックスであるHADESを有する頭部メインブロックのみでありほぼ全身が一新されて外観も大きく変わっている為、近代化改修とは名ばかりで頭部の中身以外は事実上の新造機である。
バルブス…ゲルググのビームライフルを扱える程に高性能化したザクⅡのバリエーション機だが、とんでもないパイロットが搭乗する事を前提にした改造が施されているため、とても外見はそのままとは言い難い。本機の存在が明るみになった時代では近代化改修とすら言えない旧式機となっていたが、ただでさえとんでもないパイロットが驚くべき進化を遂げた事により、最新鋭機に匹敵する驚異的な強さを発揮していた。
ジムⅢGBG仕様…F90FFで傭兵集団GBGが運用する改造機。出力の上昇に加え、フルアーマー化やサイコミュと有線式ビットを搭載するなど複数の仕様があり、第1次ネオ・ジオン抗争期の機体ながらグスタフ・カールやヘビーガンといった後発の機体を撃墜している。ある意味アージェント・キール仕様が本来目指すべきだった姿と言えるかもしれない。
ガンダムAN-01(トリスタン)… 一年戦争時代の高性能機、ガンダムNT-1ことALEXの改修機。中身は別物と推測されるほど改修されていたことに加え、当時の他のモビルスーツと違い小型の18m級だったためアクシズ内などの狭所で高機動性を発揮できるという利点を持つ。また、改修前にはなかった拠点制圧用巨大アームドベースの運用も可能。
F90…U.C.0111年にロールアウトした第二期モビルスーツの最初のモデル。機体自体はロールアウト時点でもそこまで高性能機というわけではないが(前身となったF89にも劣る)小型化の恩恵を受けており、装備検証用のミッションパックにより特化設計機には劣るものの様々な状況に対応できるだけでなく、まだ実用に至っていない様々な装備を運用する事が出来たので不完全ながらも後発の機体のような性能を持つことができた。オリジナルのF90は1号機から3号機まであるが、どれも実験機でありながら実戦に投入されて大破からの修復がされており、機体によってはほぼ新造と言えるほどの修復がされたり、大きく改修がされている。現状判明している最長運用は1号機がロールアウトから25年後のU.C.0136年での作戦に投入。
RX-78-2…同時期にガンダム45周年を記念して発売されたガンプラ「ベストメカコレクション 1/144 RX-78-2 ガンダム (REVIVAL Ver.)」は、記念すべき最初のガンプラをフォルムはそのままに最新技術で色分けなどをアップデートしたものであり、誰が呼んだか「ガンプラ界のアージェント・キール仕様」。また、化け物じみた活躍をした初代主人公機なだけあり、スーパーロボット大戦シリーズなどのゲーム作品では後の時代も改修されて現行機に負けず劣らずな性能を持つ機会が多い。