概要
サーカス(Thou-Cus)の略称を持つ、木星共和国の特務仕様モビルスーツ群。
木星共和国のタカ派技術者達は、コロニー間紛争が盛んな宇宙戦国時代に於いて、資源が限られ大規模な戦力を保有出来ないというコロニー国家の欠点を補うべく、ローリスク・ハイリターンを目的に少数精鋭を突き詰めた結果、「一騎当千」というコンセプトに行き着くに至り、サーカス機はこれを体現するべく開発された機体群である。
「一騎当千」というコンセプトを体現するべく、サーカス機には1機で戦局を覆す様々な機能が備わっており、その性質上他に類を見ない奇想天外な機能や武装を持つ機体が多い。
その外見は多種多様であるが、全機に共通する機構としてクロスボーンガンダムと同様放熱用のフェイスオープンギミックを有している。
また、機体の型式番号はEMS-Tのコードを持ち開発順に番号がふられている。
木星戦役、「神の雷」計画を経て共和国制へ移行した木星共和国と木星の経済を支えるユピテル財団が、旧木星帝国の思想を引きずる木星のタカ派に対する一種のガス抜きとして開発を許可した経緯を持ち、本来は要求性能を高く設定することで開発を難航させることを目論んでいたが、その予想とは裏腹にある程度の開発成果が上がってしまう。
そして、開発チームはこれらの機体群の実戦投入の機会を執拗に狙い、宇宙細菌「エンジェル・コール」を巡る争奪戦に於いて傭兵としてこれら機体群を投入。木星の特殊部隊「蛇の足」を再編した「クロスボーン・バンガード」と交戦する事になる。
認可が降り開発が行われたサーカス機は全7機。
それ以外にも認可が降りなかったものの実機の建造が行われた地上侵攻用の機体が3機存在し、全10機のサーカス機が存在している。
全機とも(フレーム段階から独自の仕様を採用しているものもある)ワン・オフ機だが、機動兵器運用の基本として(例:エゥーゴがガンダムMk-Ⅱを鹵獲した際は1機を残して分解し、予備パーツとした)、稼働機以外に予備パーツが2機分(合計3機分)製造されており、後先を考えなければ同型の機体をもう1機建造する程度の事は可能である。
「一騎当千」の謳い文句とは裏腹に、ファントムを除いた各機ともが既存技術のマイナー・アップデートを用いた設計に過ぎず、長所と短所が明確となったピーキーな機体ばかりであり、パイロットの技量で短所を無理矢理押さえ込んでいる(あるいは、特徴の有用性を向上させている)。
各機とも運用方法を一点に絞った上で、それに必要な能力のみに特化した設計であるのも特徴と言え、宇宙用か地上用、あるいは接近戦仕様か射撃戦仕様、および攻撃偏重か防御偏重のいずれかに偏っており、特に宇宙世紀0150年代のMSとしては珍しく、ミノフスキー・エフェクトを利用した1G環境下飛行機構を有していない機体が過半数となっている(デスフィズがビームローター、ファントムがミノフスキー・ドライブ、エスピラルがミノフスキー・クラフトを採用しているのみ)。更にデスフィズは接近戦特化仕様、エスピラルは大気圏内限定仕様のため、「全領域汎用MS」となるのはファントムのみだが、本機は失敗作(未完成品)に終わっている事、さらにサナリィのバイオ・コンピューターの起動にも失敗している事から木星共和国側の技術力(地球環境に対する想像力)の限界が垣間見える。
機体一覧
ラロ
型式番号EMS-T01。パイロットはロナルド。
ザンスカール帝国製モビルスーツゲドラフと同様のコンセプトを持つ小型モビルスーツ。
本来は一騎当千機として開発されながらも唯一量産を視野に入れて開発された試作機である。
ゲドラフのアインラッドに代わって「ライドボール」と呼ばれる、球型の攻守機動一体のサポートメカとの連携運用を前提としており、その姿は玉乗りをしているピエロに喩えられる。通常状態は恍けたピエロの顔を見せるが、フェイスオープン時にはその装甲の下から恐ろしい顔が覗く。
アビジョとその原型機アラナに代表されるSサイズフレームをベースに開発が行われており、その全長は10メートル足らずとゲドラフよりも更に小型となっている。Sサイズフレーム採用機の例に漏れず、小型故に運動性に特に秀でており、同じく10m級サイズのライドボールの走破性能によって地上を高速機動する。アインラッドと比較した場合、走破性については直径に劣る分最高速度で後れを取るが、球形のメリットとして360度の任意方向に瞬時に転換でき、装甲厚については大きく上回る。この「小型」、「球形」によってライドボールは機体全体の常時防御を捨てることになったが、一方向に対する防御能力を向上させつつ、高度な運動性能を獲得している。しかしながら、防御方向が一方向に限られるということは、パイロットには常に敵機の攻撃から自機をライドボールの影に隠し続けるポジショニング能力が必須となるため、この要求操作技量の高さからラロの量産は見送られてしまった。
サーカスではこのポジショニングを可能とするエースパイロットが搭乗したことにより、絶対防御と高運動性能という機体の真価を存分に引き出され、本機は部隊の「盾」とも言える存在となり、サウザンド・カスタムの中で特に攻撃力に秀でたデスフィズとは対の関係を成すに至っている。
武装としては上下対照形状のビームライフルを装備しており、これは分割する事で二刀のビーム・サーベルとして運用することが出来るマルチプル・ウェポンとなっている。
ライドボールもまた、それ自体が質量武器となり敵機を轢殺するが、Sサイズフレーム故の低質量を補うためビーム・カッターが内蔵されている。
なおライドボールは、最終的には敵勢力に鹵獲、利用されてしまうという、アインラッドと同じ欠陥を晒す事となった。
ファントム
型式番号EMS-T02。
過去にサナリィから強奪したミノフスキードライブ実験機と木星製モビルスーツのデータを組み合わせて開発された機体。完成すれば、『最高性能機』となるポテンシャルを有していた。
詳細はファントムガンダムを参照。
バイラリナ
型式番号EMS-TC03。パイロットはコーシャ。
女性的なシルエットを有する可変モビルスーツであり、その外観は黒衣のバレリーナを彷彿とさせる。
両脚部にヴェスバーを発展させた「ニードル・ヴェスバー」を装備している。
このニードル・ヴェスバーはエネルギーを絞り込む事に特化した装備であり、高圧のビームを少ないエネルギーで撃ち出す事が可能。攻撃範囲を絞った分だけ一点に対する貫通力と射程に長けており、また消費エネルギーが少ない事もあって連射性にも優れる。その砲撃は通常出力であってもファントムのIフィールドで受け流すのが精一杯であり、最大収束時にはコロニーを貫通するだけの威力を発揮、逆に破壊力を絞ればザンネックとの撃ち合いも出来るほどの有効射程を持たせられる。
また、ファントム程に複雑な機構ではないもののモビルアーマー形態への可変機構を持ち、砲身と推進機関の方向軸を合わせる事でより安定した砲撃性能を生み出す事が可能。
欠点としてヴェスバーの連射は銃身への負担が大きく、短時間に連続で使用した場合は砲身がその熱に耐え切れず融解してしまう事が挙げられる(本来は二基あるヴェスバーを交互に使用する事でその欠点を補う物と思われる)。また、ヴェスバーを脚部に内蔵する設計は、脚部に搭載されたジェネレーターから直接エネルギーを供給する事で機体構造を簡略化させているが、一方で膝下全体がビームを加速させる為の砲身となっている事から重力下での安定性は著しく低く、歩行機能は無いに等しい。
両腕に攻防一体武器であるビーム・ファンを装備し、ヴェスバーからビーム・サーベルを発生させる事も可能であるものの格闘戦能力はそれほど高くはなく、癖の強い機体として完成してしまっている。この機体が重力下で格闘戦を演じ敵を圧倒してみせるのは、あくまでパイロットの技量に由来するものである。
デスフィズ
型式番号EMS-T04。
両腕にビーム・ファングを装備する格闘戦特化機。パイロットはジャック・フライデイ。
詳細はデスフィズを参照。
ガラハド
型式番号EMS-T05。パイロットはゴードン・ヌブラード。
宇宙空間でも有効な攻撃方法である「大質量物体を用いた質量弾」を主観に置いて開発された機体。
詳細はガラハドを参照。
バンゾ
型式番号EMS-TC06。パイロットはラーザブ。
ビーム兵装とビーム・シールドの運用に特化した宇宙世紀150年代の死角を突くコンセプトの下に開発された大型モビルスーツ。
詳細はバンゾを参照。
グレゴ
型式番号EMS-TC07。
全サーカスの機能を集約させた機体であり、サーカス部隊の指揮官であるクォ・グレーの専用機。
詳細はグレゴを参照。
キルジャルグ
地球侵攻をコンセプトとした為に開発認可が降りなかった3機のサーカス機内の1機。型式番号EMS-TC-G01。パイロットはアニマール・ベルヴァ。
地上での運用を想定し、不整地であっても安定した機動力を発揮させる事をコンセプトとしており、人型形態にこだわる事を捨て、四足歩行形態への変形機構を持たせる事でそのコンセプトを完成させている。
この四足歩行形態は「アニマルモード」と呼ばれ、ライオンを彷彿とさせるシルエットを成している。加えてこの形態こそが本領である事を示すように、放熱のフェイスオープンは明らかにアニマルモードを前提とした形状になっている。
ライオンの鬣に相当する部位にはそれぞれビーム・サーベルが搭載されており、合計10基のそれを集約させた際の突破力はビーム・シールドを容易に突き破る程であり、加えて突進時にはそれ自体が機体を守る盾となる。四肢を利用した急速な方向転換から繰り出される体当たり攻撃を防ぐ事は困難であり、その姿は「走る弾丸」に喩えられる。この『大出力・大型ビームサーベルを用いて敵機を完全撃破する』運用思想は、大気中ではMSを爆発さないで行動不能にしなければならない(=核爆発を起こしてはいけない)という、宇宙世紀0120年代以降のMS戦における絶対の基本を完全に無視しており、地球環境への核汚染に対する理解の無い木星共和国ならではと言える。
ただし、当然ながら平地におけるスピードは車輪型のアインラッドに大きく劣るため、不整地で“のみ”運用価値の在る機体である。
しかしながら、携行武装は電磁鞭のみと、ビームライフルのような遠距離武器を装備しておらず(内蔵武装としても無い)、電磁鞭は磁力線で繋ぐ事でリーチを延長する事が可能とは言え電磁気の99%以上を伝達阻害する戦闘濃度のミノフスキー粒子下では、カバーできるリーチに限界がある。
宇宙世紀0150年代のMSは、上記のアインラッドも含めミノフスキー・エフェクトによる大気圏内での自由飛行が常識となっている事から、(劇中のような探索任務でなければ)空爆(絨毯爆撃)を受けた場合に文字通り手も足もでなくなる、既に時代遅れとすら言える設計であり、「一騎当千」というよりは、市街地へのテロ行為を想定した機体と見なすべきである。なお、理論上は市街地だけでなく、敵対勢力の基地への強襲にも一定以上の戦果が期待できるが、当然、不整地に建造される基地などというものは(地球連邦軍の主力が宇宙に上がっているこの時代においては)基本的に存在しないため、強襲後の撤退成功はまず不可能(=特攻)となる。
カルメロ
水中戦仕様の開発未認可機。型式番号EMS-TC-M01。パイロットはマーメイド・ヌブラード。
海が無い(=大量の水を自由に使えない)木星に於いて、大量の水の中で活動する機体を設計する事は困難であったが、過去の地球侵攻にあたり、沿岸部から都市部を攻撃する事に対する有効性に着目した開発部が、「水中で接地した状態で遠距離攻撃可能な機体」として考案した機体がこのカルメロである。
背部に展開式の脚部ユニットを有し、これを展開する事で水底に接地し、海上であっても安定した長距離砲撃を行う事が出来る。カルメロ自体は小型機に分類されるが、脚部を展開した際の全高は30メートルにも達する。
防御力に関しては、水中に潜んでしまえば水が緩衝材となるという事もありあまり重要視されておらず、水陸両用モビルスーツが接近戦を仕掛けてきたとしても脚部に装備された8基の水流ジェットエンジンを用いる事で敵の接近を拒み(カルメロ自体は接地している事から水流に流される事はない)、巨大な脚部はそれ自体が巨大な質量を持った「凶器」となりうるが、水流は側面に向けて発生させる事が出来ないという欠点を有する。
携行武装は遠距離攻撃用の機体という事でロング・ライフルを装備する。本武装は木星戦役時にクロスボーンガンダムX-2改も使用したものだが、カルメロ本来の武装か、X-2改のものを流用したのかは不明。
ミノフスキー・エフェクトによるMSの自由飛行が当然となった宇宙世紀0150年代では、大気圏内においても(更に天候にすら左右されず)直進するビーム兵器という、狙撃位置の逆探知が容易な武装を用いての、静止状態での精密狙撃という運用思想上、目標の狙撃後は即、海中へ離脱しなければ、海上に晒した上半身が高空攻撃に晒されてしまうため、「一騎当千」というよりは市街地へのテロ行為、または敵沿岸部拠点への威力偵察を想定した機体と見なすべきである。
なお、深度のある海域も高速で航行可能ではあるが、木星開発陣が地球環境に対してい未だに理解が浅い事が災いして、深海では重い頭部の方が下になってしまう仕様となっている。よって、離脱のための長期潜航および潜伏の際に木星出身パイロットが受けるストレスは、「1Gが24時間かかるだけでもつらい」というベルナデットの言葉から察するに、凄まじいものとなるため、強靭な精神力と忍耐が要求されるのは想像に難くない。
エスピラル
コルニグスの簡易型として開発された開発未認可機。型式番号EMS-TC-S01。パイロットはディーヴァ・ダッダ。
簡易型とは言えコルニグスのコンセプトを強化する方向で開発が進められており、本体にミノフスキー・クラフトを搭載する事で機体を浮遊させ、胴体側面に配された二基のリング状パーツに、推進システムと高圧ビーム砲を装備した同型のアーム(その内二本は腕として使用する事からマニュピレータを装備する)を合計六基配置し、このアームを高速で移動させる事によって複雑な機動と全方向への射撃を両立させている。劇中では「既存技術の組み合わせ」とハロロに評されたが、宇宙世紀0105年にロールアウトしたミノフスキー・クラフト搭載機Ξガンダムのサイズが26mと大型になってしまっていた事を考慮すると、本機の小型サイズは驚異的と言える。
内蔵されているビーム砲とジェット推進は高圧かつ高出力で一発でもファントムの防御を揺るがし、機動性もファントムと同等かそれ以上である。リングについてるアームの基部や肩アーマー、関節は360度可動し、あらゆる方向へ向けることができる。
本来は宇宙用の機体として開発されていたが、アーム全てに推進装置を内蔵した結果として推進剤(熱核スラスター用燃焼剤)の積載容量不足から稼働時間の低下を招いてしまい、更にパイロットがこの複雑なシステムを使いこなせば使いこなす程に、稼働時間が短くなってしまうという致命的とも言える欠点が露呈してしまう。この事から、推進システムを空気圧縮式のジェット推進システムに換装し、空戦機として開発が進められたものの、当然これは大気が十分にある環境――つまり地上でなければ使えない機構であり、それが地球侵攻用とみなされ、正式な採用を見送られたという経緯を持つ。
ただし、ジェット推進も当然ながら燃料を必要とし、原理上ジェット・エンジンは低空ほど燃料効率が悪い。加えて原理上ミノフスキー・クラフトは低空しか飛行(浮遊)できないため、この二つの技術の相性は良いとは言えず、ディーヴァが豪語していた程には科学的・物理的な限界で稼働時間は長くできない設計となっている。
とは言え、空中戦のみならず閉所に於いてもその運動性・機動性は維持されており、地球侵攻用としては高い有用性を発揮している。
欠点として、攻撃と移動を同一のデバイスでまかなっている事から、攻撃を集中する際に機動力がわずかに低下する事が挙げられ、エスピラルの火力を一方方向に集中した場合は、その機動力が完全に失われる事になる。