概要
「一騎当千」をコンセプトとして開発された特殊モビルスーツ「サーカス(Thou-Cus)」(サウザンド・カスタム)シリーズの1機に数えられる。型式番号EMS-TC04。
パイロットは木星生まれの傭兵、ジャック・フライデイ。
格闘戦異常特化という、クロスボーンガンダムに近いコンセプトをさらに先鋭化して開発されており、両手が固定武器の三連装回転式ビームサーベル「ビームファング」となっているため、マニピュレーターによる規格武装の装備が不可能となっている。
ビームファングは、高威力格闘兵装・ビームローター・ビームシールドの三種の機能を兼ねており、これによって高い攻撃力を維持しつつ、機体の軽量化や構造の簡略化に成功している。
特に軽量化は、近接格闘戦時の高速かつ微細な挙動および、(無重力空間における戦闘ではより顕著になる)敵機への接近・強襲時に消費する熱核スラスター用プロペラントを抑えるという点で、最重要となる。
射撃武装についてはファング中央部にビームガンを内蔵しているが、ビームライフルとしての出力が低いという特性以前に、パイロットであるジャックが射撃戦を好まないため、完全に補助兵装となっている。
この他、サウザンドカスタム共通の特徴として、頭部の装甲をスライドする事で放熱する機能を備えているが、これはF91やF97といった、頭部にバイオ・コンピューターを備えた機体が、熱に弱いコンピューターを集中的に強制冷却するためのギミックであるため、ファントムにおいてバイオ・コンピューターの起動に失敗した(=他のシリーズ機にはバイオ・コンピューターが採用されていない可能性が高い)各機が、何故この機能を採用したのかは不明である。
一見するとサーカスの例に漏れず異様そのもののMSだが、武装はビームガンにビームサーベルとオーソドックスであり、また高い機動力にビームシールド機能などの第二期MSでは重要な能力を十二分に備えている事、ビームローター機能による長い行動半径(推進剤を節約できるのみならず、戦闘終了時に推進剤に余裕がなくとも自力での帰投が可能)と重力圏下での単独飛行能力を有する事、他のサーカス機にまま見られる設計コンセプト自体の破綻や使える人間を選びすぎるいびつな機体特性などが無い事などから、宇宙世紀150年代のMSとしての完成度は、サーカス機の中でも頭一つ抜きん出ていると言える。
あえて言うのであれば、マニピュレーターを備えないが故の汎用性の低さとビーム射撃兵装の威力の乏しさが目立った欠点として挙げられるが、そもそもビームシールドが普及したこの時代においてビーム射撃兵装のアドバンテージはそれほど大きい訳ではなく、また第二期MS相手の戦闘では(コロニー内や地球圏内では特に)ビームによるジェネレーター破損に起因する核爆発を極力避ける事が求められる為、射撃よりも精密にジェネレーターを避けて攻撃しやすい格闘戦主体の構成はその意味では理に叶っている。
劇中での活躍
劇中で最初に現れたサーカスMSとして登場。序盤のサイド3(かつてのジオン共和国)ズムシティでのクロスボーンガンダムX-0とベスパの戦闘に割って出てきて(その前にビルケナウを撃破した)、ベスパのサンドージュとゾロアットの部隊を単独で殲滅した後にX-0を追撃したが失敗に終わる。
サイド5(旧サイド6)の資源採掘コロニー「ミート・オブ・トゥーン」での戦闘で、戦場に飛び出してきたベル・ドゥガチを守る為に味方機であるガラハドを攻撃、そのパイロットであり旧来の友人でもあるゴードン・ヌブラードを殺害してしまう。これによって、半ば追い出された様な状態でジャック共々サーカスを離反する事となる。
その後フォント・ボーに雇われる形で新生クロスボーン・バンガードの戦力として組み込まれている。
ただし、ジャックを信用しない海賊たちによって自爆装置(実際にはフォントを試す為の盗聴器)が組み込まれており、起爆装置と見せかけた盗聴器のスピーカーはフォントの手に委ねられた。
いくつかの戦場を新生クロスボーン・バンガートの面々と共にする中、数奇な運命に翻弄されつつも彼らの志に同調し、キゾ中将との最終決戦までフォントと戦い続けている。
このキゾ中将が駆るミダスとの初戦では、格闘戦の感度を僅かでも向上させるためにセンサー類の設定を『視覚オンリー』にしていた為、ミダス・タッチ・フラッシュをある程度無力化しており、フォントが当該特殊兵装の攻略法を編み出す切っ掛けの一つとなった。
最終決戦には、右カメラアイを中破したVガンダムのセンサーに緊急移植、改修することで、ミダス・タッチ・フラッシュを完全に無力化可能な仕様としている。
武装
三連装ビームファング
三本爪のように基部(手のひら部)に直結している3基のビームサーベル発振機から、宇宙世紀0150年代としては通常出力のサーベルを発振させ、毎秒24回転の速度で対象に叩きつける、固定式格闘武装。
人間の使用する刀剣類と異なり、ビームサーベルは熱エネルギーで対象を溶断するため、対物攻撃力としての機能的メリットは無い(むしろ、僅かな時間とは言え接触時間が短縮されるため、威力が落ちる)が、敵機のビームサーベルあるいはビームシールドにぶつけた場合は、それらを形成するIフィールドを“削り砕く”事で競り勝ち、貫通させる事が可能となっている。
ただしこの方法は、猛烈なメガ粒子の飛散によって自機の装甲も少なからずダメージを受ける力技であるため、ジャックも余程の強敵が相手でなければ、わざわざ正面から敵シールドを貫くような戦闘方法を採っていない(劇中、鍔迫り合いやシールド貫通といった描写はほとんど存在していない)。
しかし、たとえリスクがあるとしても、敵の防御を貫通することができるというアドバンテージ自体は無視できないものがある。また、敵からすれば、ビームシールドが通用しない攻撃手段を持つMSの存在は大きな心理的プレッシャーになりうる事も忘れてはならない。
ビームローター(ビームファング兼用)
宇宙世紀0150年代における、最新の重力下空中航行システム。詳細な原理はビームローターを参照。
上記のビームファングは基部に稼働軸を有しており、三基が平面となるよう広げ、頭上に掲げて回転させる事でビームローターとしての機能を果たさせる事ができる。
ビームローターは到達可能高度が低く、スラスターを併用しなければ低速しか出せない等の難点もあるが、重力下において推進残を消費せずに巡行が可能であるという莫大なメリットを有しており、接近戦において推進剤を多量に消費する本機との相性は高い。
当然ながら、機体正面へと向ける事でビームシールドとしても転用可能。
なお、ビームローターは(サンライズ公式には)ザンスカール帝国技術陣(旧サイド2駐留サナリィ)が開発した技術となっているため、本機のビームローターは木星共和国が別途独自に発見・開発した技術ということになる。
本装備は以上の機能の他、水中ではサーベルを発振させないまま基部を回転させることで、スクリューの代替とし、ある程度の水中高速移動も可能となっている。
ビームガン
ファングの中央部に内蔵された、低出力の射撃兵器。
低出力と言えどもビーム兵器であり、Vガンダムやリグ・シャッコーがビームピストルを用いて近~中距離における射撃戦でも戦果を挙げている事実から、敵機にシールドで防御されなければ充分な威力を有している。
バリエーション
デスフィズ・モール
奪われたデスフィズの運用をあきらめたサーカスが、その予備パーツを用いて組み上げた機体。両腕部を三連ビームファングから八連小型ビームファングへと換装している。
この八連小型ビームファングは硬い岩盤などの切削に適したビームドリルとして運用でき、基部は岩塊からの保護の為カバー内に収めつつも、一つ一つがボールジョイントにより角度の変更が可能となっている。
(なお、メガ粒子の超高温と岩石の沸点(摂氏1,500~2,000度)を考慮すると、ビームドリルの接触個所は岩石の気化および周辺部へのマグマの拡散が生じるため、「削岩」は事実上不可能であり、噴出する高熱気化岩石によって機体もダメージを受ける事になる。)
しかし、小型化の為一本一本の出力(攻撃力)及びビームローターとしての機能は低下しており、戦闘用としては運用できなくなっている。
また、カラーリングは両腕部が白、本体が黒の逆パターンに変更されている。
パイロットはゴードンの実妹であり、ジャックのかつての恋人でもあったマーメイド・ヌブラードがつとめた。
当機が出撃した一連の戦闘において、デスフィズ(オリジナル機)はラロに撃破されてしまったが、ジャックが咄嗟にデスフィズ・モールへ乗り移っていた事により形勢は逆転。ラロを撃破する事に成功している。
その後は、破壊されたデスフィズ(オリジナル機)から、無事だった三連ビームファングを移植し、カラーリングも原型機と同様とすることで「デスフィズ」として復元。ジャックが最終決戦まで使用した。
量産型デスフィズ
機動戦士クロスボーン・ガンダムDUSTに登場した量産型のデスフィズ。頭部装甲の違い以外に外見に変更はないがパーツ精度の低下により若干の性能低下が見られる。基本性能が高いため力押しでも十分強力ではあるがパイロットの質の低下からその性能を完全に引きだせているとは言い難い。
劇中では「讃美歌の国」旗艦ケルベロス直掩のため量産型ガラハドと共に出撃したものの手練れのパイロットの搭乗した性能が遥かに劣るミキシングビルド機によって右腕を損傷し早々に敗走。その後の戦いでアンカーV3、ファントムV2改によって量産型ガラハド共々撃墜されている。
関連項目
クロスボーンガンダム サウザンド・カスタム ジャック・フライデイ