概要
1977年に公開されたSF映画『STARWARS』やアニメ『宇宙戦艦ヤマト』のヒットを受けて空前のSFブームが巻き起こる中、日本では便乗企画として東宝の『惑星大戦争』、東映の『宇宙からのメッセージ』、円谷プロの『スターウルフ』が制作されていたが、いずれも不振に終わっていた。
そんな折、東宝は『惑星大戦争』以前に作家の小松左京に原作提供の申し入れをしていた。
アメリカ映画に負けない本格SF映画を作りたいという野心を持っていた小松氏は、若手のSF作家を集めての会議を計16回行い、1980年に初稿が完成。ノベライズ版の連載がスタートした。
また、この映画製作の為に株式会社イオを設立。東宝とイオの合作となった。
当初は以前に小松氏が原作を担当した『日本沈没』の森谷司郎が本作の監督として予定されていたが、森谷氏が急逝した為、助監督の橋本幸治が引き継ぎ、小松氏も総監督として現場指揮を執る事になった。特技監督には当時新鋭の川北紘一が勤め、83年4月に撮影がスタートした。
作品を取り巻く状況
1970年代後半に生まれた当時の特撮ファンたちは、自分たちがそう言った子供番組を大人になっても見続けるための免罪符として「大人の鑑賞に堪えうる作品」を要求し始めていた。
このころはいわゆるリバイバルブームであり、昔のアニメ、特撮作品が見直されてきた時期であったのだが評価されていたのは60年代東宝特撮やウルトラQからウルトラセブンまでの第一期ウルトラシリーズであり、第二期ウルトラシリーズや70年代のゴジラなどは逆に酷評されていた(11月の傑作群なんて言われてたのもこのころ)
こう言った作品を「高尚なSF」と評して世間の理解を得ることで、大人になっても好きでいられるようにしようとする、今でいう「面倒くさいファン」が多かったのである。
一方で、SFの波はアニメにも進出しており『宇宙戦艦ヤマト』『無敵超人ザンボット3』の登場でアニメファンの中にもSF指向のものが現れ始め、のちの『機動戦士ガンダム』『伝説巨神イデオン』といった名作へとつながっていた。
しかし、アニメファンはSFの中でも新しめの勢力であり、旧来のSFファンや上記の面倒くさいファンは辛口であり、ガンダムやヤマトをSFとは認めない者たちもいた。(特に高千穂遥がガンダムを名指して「あれはSFではない」と評したのは有名)
これに反発したアニメファンたちはSTARWARSなどのハリウッド映画と比較し、日本特撮をけなしはじめるなど、泥沼な状況になっていた。
そんな中で制作された『さよならジュピター』は多くの期待を集めていたのだが…
あらすじ
西暦2125年。地球の総人口が180億人を突破し、エネルギー不足に悩む未来。
太陽系開発機構「SSDO」は、エネルギー問題解決法として「木星太陽化計画」を立案。過激な環境保護団体「ジュピター教団」の妨害を受けながらも推し進めていた。
そんな折、計画主任の本田英二は疎遠になっていた恋人のマリアと再会を果たす。だが、彼女は計画の妨害を行っている「ジュピター教団」の工作員だった。
ある日、彗星探査に向かっていた宇宙船スペースアローが謎の遭難を遂げる。調査の結果、地球に接近しているマイクロブラックホールによる原因である事が判明した。
ブラックホールの到達予測期間は二年後。脱出の為の船団は1億人分しか用意できない。
この閉塞状況を打破すべく、SSDOは木星をブラックホールにぶつけて爆破し、軌道を逸らすという作戦を立案した。
作品の評価
邦画初となるモーションコントロールカメラの使用や本格的なCGの導入。メカデザインにスタジオぬえを起用するなど野心的な試みが行われたが、製作費が三分の一程度しか集まらず撮影は難航してしまい、評価も『幻の湖』や『北京原人Who are you』に並ぶ邦画屈指の駄作、邦画のダメなところの集合体という烙印を押されてしまった。問題点として以下のものがあげられる。
- 詰め込みすぎた内容
元々3時間超を予定していた初稿を無理やり2時間に圧縮した結果、内容を省略しすぎた上に駆け足的な展開となってしまった。その内容も、「大災害を回避する人類の戦い」という本筋とは別に
- 宇宙人の船と言われているジュピター・ゴーストと火星古代文明の謎
- 太陽系開発機構に所属する主人公と過激な環境保護団体所属のヒロインとのラブロマンス
- 突然挿入されるヒッピーの歌と環境映像
- 主人公と環境保護団体、鮫との対決
- 木星爆破計画
等が詰め込まれ、作品のテンポを悪くしてしまった。(これに関しては、初期はある程度まとまったプロットだったものを、総監督である小松左京が改編を許さなかったため無理やり詰め込まざるを得なかったという説がある。SFの重鎮である小松氏が総監督をしている都合上スタッフが口が出しずらかったという点もあるという)
- 世界観の描写不足
初稿やノベライズ版では描けていたはずの未来社会が全く映像に表れておらず、環境保護団体もヒッピーの集まりのようになってしまっている。
- 無重力セックス
本編に主人公とヒロインとのラブシーンがあるのだが、何と3分にもわたって星々を背景に無重力のラブシーンが描かれている(部屋の重力を切って撮影したという逸話がある)という意味不明なシーンがあり、「色調が暗すぎてよくわからない上に、無理やり浮かせているようにしか見えない」と評されている。
これらが原因で配給収入は8億円のみとなり、製作費も回収できない大失敗に終わってしまった。後に発売されたビデオがある程度売れ、フジテレビに放映権が売れた為にプライムタイムでの放映も行われたが、結果として小松氏はある程度の借金を抱える事になってしまった。
その一方で、小松氏が執筆したノベライズ版は評価が高く、星雲賞を受賞している。
逆にこの映画で評価すべき点は?
- 松任谷由実の主題歌
- スタジオぬえが手掛けたメカデザイン
- 終盤のテロリストとの戦闘シーン
- 三浦友和、小野みゆき、平田昭彦、マーク・パンサー、森繫久彌といった豪華俳優陣の競演
- 「無理に一本化を狙って詰め込みすぎなシナリオ」「全く必要のない恋愛要素」など邦画のダメなところがわかる