概要
「銀河英雄伝説」小説第8巻の第五章、並びにOVA版第82話のタイトル。
イゼルローン軍の最高司令官ヤン・ウェンリーが銀河帝国皇帝ラインハルト・フォン・ローエングラムとの和平交渉会談に向かう途中、地球教のテロリストに攻撃され、凶弾に倒れた後に、ナレーターが言ったセリフでもある。
宇宙暦800年6月1日2時55分。ヤン・ウェンリーの時は、33歳で停止した…
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・・・銀河の歴史が、また一ページ・・・
その死因は、左大腿部の動脈損傷による出血多量であった。
人間の足部は血管系その他が集中しており、現実でも致命傷になり得るものである。作中では装備や設備さえ整っていれば応急処置が可能な技術が確立されていたが、ユリアンらが駆けつけるのが遅れたため「時すでに遅く」絶命に至った。
重要なのでもう一度書くが、ヤン・ウェンリーは足を撃たれた『だけ』で死亡したのである。
評価
田中芳樹の架空戦記作品、そのほぼ全てが『戦争の不条理』と『人の死』をテーマにしており、それゆえに重要な登場人物が計画的に葬られる「皆殺しの田中」は「銀英伝」作中でもある意味では予定調和ではあった。
だが、ヤン・ウェンリーの異名『不敗の魔術師』の絶対さは当時のファンの間でも半ば確信に近い領域にまで達しており、そんな希代の英雄があっけない最後を迎えたことで茫然自失⇒絶望という最恐のコンボに至ったというファンの報告例は今なお後を絶たない。
OVA版に至っては、次回予告においてあの『城之内死す』に匹敵するネタバレをかましているため、作中だけでなくアニメ業界随一のトラウマ回としても名を馳せてしまっている。
同時に、銀河帝国の皇帝ラインハルトの英雄の滾るようであった命の火が燃え尽きる暗喩や自由惑星同盟のヨブ・トリューニヒトの因果応報さながらの末路のような劇的な最後ではなく、
「銀英伝」もう一つのトラウマであり序盤の悲劇であるキルヒアイスの死亡シーンに匹敵する通り魔的な最期であったため、( 物語の進行上必要と考察されていても )その差分の違い様に疑問を抱くファンも少ない。
こんな衝撃的すぎる結末の反動ゆえ、作品完結から30年以上が経過し、昭和から令和へ移り変わった現代に於いてなお『不敗の魔術師』の死の意義が議論の対象とされ続けている。
そして…
そして後代、他作品における『皆殺しの田中』においても幾人かのキャラクターたちがその散り様とそこに至るまでの展開に疑問符が投げかけられる結果となっている。
関連タグ
フレデリカ・グリーンヒル-ヤンの妻。ユリアンらの帰還後、周りの様子から薄々夫の死に気付いていた。夫の死後、イゼルローン共和政府の代表となる。
ボリス・コーネフ-ヤンの暗殺計画をイゼルローンに知らせたフェザーン商人。彼がこの計画を知らせることが出来たのは、ヤンが出発した三日後。せめて、あと一日早ければユリアン達はヤンの救出に成功していたかもしれない。
ラインハルト・フォン・ローエングラム-ヤンと対極に立つ常勝の天才。これまで、多くの訃報を聞いたラインハルトにとって、ヤンの死は親友キルヒアイスの死にも並ぶ喪失感をもたらした。
「何故、誰も余のために行き続けないのか!?」-ヤンの訃報を聞いたラインハルトの言葉。この言葉だけで、ヤンがラインハルトにとって大きな存在であったかを窺わせる。生涯の好敵手であり、同時に互いに強く惹かれあったからこそヤンの死は大きなものであった。
地球教-ヤン暗殺の実行犯。アンドリュー・フォークという愚者を操り、ヤンを油断させてラインハルトの仕業と演出して暗殺をした。
夢、見果てたり-ヤンの生涯の好敵手、ラインハルトもまたヤンの死から僅か一年余りでヴァルハラへ旅立つことになる。