概要
大学駅伝のひとつ。正式名称は東京箱根間往復大学駅伝競走。
東京都千代田区(読売新聞社本社前)から神奈川県足柄下郡箱根町(芦ノ湖湖畔)までの往復。往路(1月2日)と復路(1月3日)では少しコースが違う。往復合計で10区間217.9km。
1920年から戦時中の中断を挟み2018年の大会を以て第94回を数える。「箱根から世界へ」をコンセプトとし、オリンピックのマラソンや長距離トラックの出場選手の数々を生み出した。
位置づけはあくまで大学駅伝のうち関東地区チャンピオンを決定する地方大会である(関東学連に所属する大学に参加資格がある)。だが開催時期が正月ということもあり、山梨放送以外の地方局でも、テレビでは日本テレビ系、ラジオではNHKラジオ第一や文化放送などNRNの一部局で2日間にわたってほぼ完全中継され、(裏番組はほぼ再放送しかないので)視聴率も関東ではプロ野球を遥かに上回る25%を超えるため、知名度はやたらに高い。CMに切り替わる際のBGMに「ネバーエンディングストーリー」の曲(喜びの飛行)が使われていたのも有名である。
※ちなみに現在は久石譲作曲のメインテーマに変更されている。
知名度が高すぎるゆえ、11月に開催される「予選会」も放送されるほか、関東の大学とそれ以外の大学との実力の差が激しく(これについては後述)、全日本大学駅伝ではサブのメンバーだけで上位シードが独占されてしまうケースが多い。
ちなみに第90回記念大会は東洋大学が往路・復路・総合いずれにおいても優勝となり、特に復路では第88回大会で出した復路新記録を東洋大学自体が更新するというある意味快挙を成し遂げている…が第91回のコース変更ですべて「参考記録」にされてしまった。
コースの見所
全10区間で争われるが、中でも「ごぼう抜き」が定番の『花の2区』、数々の伝説と有名選手を生んだ山登りの『5区』が大きな見所である。特に5区は、中継所の変更に伴い地獄の山登りに加え最長距離区間という、日本の全駅伝コースの中でも間違いなく最難関となり、活躍した選手は「山の神」として讃えられる。なお93回大会以降は20.8kmに短縮されている。
また、その真逆となる山下りの6区は、陸上の知識の少ない者には『楽』なコースと思われがちだが、この急激な下り勾配のコースは膝への負担が半端なく大きく、このコースを走った選手は暫く休養を余儀なくされるので、5区以上に走りたくないという選手は多いそうである。
また、沿道には各大学の応援、駅伝にはよくある沿道住民の歓声や併走しようとする人のほか、知名度の高さから、全国からファンが集まってきたり、テレビ中継に出たいがために目立つ看板や格好をした人が出没したりすることでも有名(特に有名なのは、6区のリラックマと7区のフリーザ様と2018年のアンパンマン号)。ただ、目立つ看板の中には意味のあるものもある。(例として、復路二宮チェックポイントの「○_○」の看板はVHSやカセットテープの形から来ており、「巻き返せ!」という意味らしい)
問題点
高校野球にも言えることだが近年ではその知名度の高さゆえ大学の宣伝代わりになってしまう部分もあり、それに伴う「負」の部分も浮上している。実際、東京国際大学など偏差値基準では人気を得られない大学が箱根本戦に出場したことで志願者数が増えていたりする。
また、陸上競技の1つに過ぎない駅伝の出場に特化し過ぎた「駅伝偏重」部の存在、上記の通り、関東限定の地方大会故に他地域からは出場出来ない仕組みになっているため、全国の長距離有力選手が関東に集まってしまい若手選手層の国内格差が拡大している。駅伝偏重問題においては全国大会である出雲駅伝および全日本大学駅伝の開催により、解決を目指そうとしてはいるものの、箱根駅伝の前哨戦として捉えられてしまい、未だに問題解消に至っていない。
オリンピックにおける日本の長距離走競技の成績に関しても、メダリスト候補と目される有望な日本人選手が女子選手に比べ男子にはなかなか現れないという事実について、しばしば箱根駅伝の人気が原因の1つとして挙げられ、各所で議論となることも珍しくない。
使用シューズについてもNIKE製ヴェイパーフライが登場した2010年代後半以来、過去に類を見ないほどのハイスピードレースと化している。
超高速駅伝
令和初年度となる96回大会では10区間中1区と8区と9区を除く7区間が区間新、優勝した青山学院の総合記録が10時間45分23秒という大会新記録で制する超ハイスピードレースとなった。
1区
スタートからハイペースでレースが進み、次々と選手たちがふるい落とされていく。先頭集団は六郷橋を下り終えると國學院大の藤木宏太がスパート。後続を突き放し、大学史上初のトップでの襷リレーが目前に迫る。しかし、後から追いかけてきた創価大の米満怜(現コニカミノルタ)に中継所まで残り300mのところでかわされ、米満が1区区間賞でレースが始まる(創価もトップで襷リレーは初)。なお区間タイムは渡辺康之が持っていた区間歴代2位に並ぶ1時間1分13秒、そして区間1位から8位までが1時間1分台という超ハイペースとなった。
2区
2区がスタートし、先頭は再び7人の集団へ。後半から徐々に選手が絞られていくと2区の名物ラスト3kmの登りで青山学院の1年生岸本大紀が先頭に立ち、3年、4年の有力ランナーを引き離す。そのまま青山学院がトップで襷を渡した。なお岸本の記録は2区の1年生記録を更新する1時間7分3秒という区間5位の好タイム。続いて秒差できた早稲田、東海、國學院も1時間7分台前半のタイムでタスキを渡していく。
一方、後方では1区で出遅れた東洋の相澤晃(現旭化成)、東京国際の伊藤達彦(現ホンダ)が5km過ぎから並走。当時の学生長距離界トップの2人が20km過ぎまで並走するという豪華なランニングデートが繰り広げられた。2人は次々と前にいるランナーを抜き去り、相澤が途中仕掛けるも伊藤も必死についていく。しかし最後の登りで相澤が伊藤を突き放し、7人抜きの快走。14位から7位に順位を押し上げる。そして相澤の記録は当時山梨学院のモグスが持っていた区間記録を塗り替える史上初の1時間5分台となる1時間5分57秒という区間新記録を叩き出す。また、8位でタスキを渡した東京国際の伊藤も区間2位タイの1時間6分18秒という好タイムを出している。
3区
青山学院1年生の岸本が先頭で持ってきた襷を勢いそのままに4年生キャプテン鈴木塁人(現SGH)が快走を見せ、戸塚中継所では秒差だった東海、早稲田を引き離す。しかし、8位でタスキを受けた東京国際の留学生イエゴン・ヴィンセントが猛烈な追い上げを見せる。そして11km過ぎで先頭をとらえ、青学の鈴木を大きく突き放す。鈴木はその後國學院の青木佑人(現トヨタ自動車)と競り合いになるが2位争いを制して4区の吉田裕也へとつなぐ。そしてヴィンセントは最終的に青学と1分21秒差の大差をつけてトップでタスキを渡し、59分25秒というとんでもない区間記録を叩き出した。ちなみに2位争いを演じた青学の鈴木、國學院の青木含め4人が1時間1分台を出している。これが霞んでしまうほどの区間記録をマークしたヴィンセントはまさに異次元といえるだろう。なお、東京国際のヴィンセントは翌年97回箱根駅伝で花の2区を走り、相澤の区間記録を上回る1時間5分49秒を出しており、1人で2区間の区間記録を保持することとなる。
4区
創部9年目にして初めて先頭を走る東京国際の佐伯涼。しかし2位でタスキを受けた青山学院の吉田裕也(現GMO)が猛烈な追い上げを見せ、14km手前で再び首位に立ち、東京国際の佐伯を一気に突き放す。1分20秒の差を追いつき、逆に1分の差をつけ先頭で5区飯田貴之に襷リレー。そして吉田は、1時間30秒という前回大会で東洋の相澤が持っていた1時間54秒を24秒上回る区間新記録。
5区
青学の吉田が先頭でつないだ襷を飯田貴之がしっかりと守り切り5時間21分16秒の往路新記録で青山学院が往路優勝のゴールテープを切る。5区を走った飯田も1時間10分40秒で区間2位の好走。
一方、後方では東洋が大苦戦していた。2区相澤が区間新の快走で7位に順位を上げるも3区吉川洋次(現ヤクルト)が区間13位で10位に後退、4区渡邊奏太(現サンベルクス)は区間20位の大ブレーキでシード圏外の14位に順位を落としてしまう。5区宮下隼人が区間賞の走りで順位を上げるも往路は11位でフィニッシュ。この時点でトップとは7分59秒差となり逆転優勝は絶望的となった。なお宮下は区間新となる1時間10分25秒をマーク。1区以外の往路4区間がすべて区間新での区間賞となった。
6区
復路のスタート区間となる山下りの6区。往路優勝した青山学院は谷野航平から始まる。区間3位の好走でしっかりと先頭をキープし7区の中村友哉へつなぐ。
一方、3分26秒差を追いかけ連覇を狙う東海大はキャプテン舘澤享次(現DeNA)が快走。57分17秒の区間新で先頭の青山と1分以上の差を詰める。
そして往路11位と苦しんだ東洋は今西俊介が3年連続の山下りに挑む。こちらも57分34秒の快走を見せ、ここでようやくシード圏内の7位に浮上する。「結局万年2位や」
7区
青山学院の中村友哉(現大阪ガス)も区間4位の走りで8区岩見秀哉へ。東海大は1年生松崎咲人がデビュー。区間3位の好走で先頭と20秒の差を詰め、前回大会MVPの小松陽平へと襷を渡す。
一方、後方では明治の阿部弘輝(現住友電工)が爆走していた。小田原では1分差があった東京国際に追いつき、学法石川時代の同級生である真船恭輔と並走。その後は真船を突き放し、4位へと順位を上げる。阿部は1時間1分40秒で区間新。7区では史上初の1時間1分台となった。
8区
2分1秒を追いかける東海大は前回8区で区間新でMVPを獲得し、箱根初優勝の立役者となった小松陽平(現日立物流)がスタート。トップ青山学院との差を詰めにかかる。しかし青山学院の岩見秀哉(現住友電工)も1時間4分25秒の快走。区間賞は小松が1時間4分24秒で獲得するも1秒しか詰めることができなかった。また、2区から続いていた6区間連続区間新はここで途切れた。
9区
小松を相手に1秒しか詰めさせなかった青山学院は神林勇太が快走。さらに追い打ちをかけるかのように区間記録に迫る1時間8分13秒で東海を大きく突き放し、アンカー湯原慶吾へ。2年ぶりの総合優勝をほぼ手中に収める。
10区
青山学院のアンカーは湯原慶吾がしっかりと先頭を守り切り、10時間45分23秒の大会新記録で2年ぶり5回目の総合優勝を果たす。東海大は郡司陽大が区間3位の走りで復路新記録の5時間23分47秒で復路優勝を果たし、総合2位でフィニッシュ。東海大も10時間48分25秒と前回大会の記録を上回る大会新記録。
一方、3位争いは9区で3位に浮上した東京国際が明治、國學院、帝京と4チームで競っていた。最後は國學院の殿地琢朗が抜け出し目標の総合3位でフィニッシュ。4位でゴールした帝京の吉野貴大が1時間8分42秒の区間新を出す。5位には東京国際が食い込み、初シード獲得。
また、シード権争いでは9区で11位だった創価大の嶋津雄大が爆走。中央学院と東洋を抜いて初シードとなる総合9位でフィニッシュ。1時間8分40秒の区間新を出し、区間賞を獲得する。東洋は及川瑠音が区間19位のブレーキを起こしてしまうもシード権ギリギリの10位でフィニッシュ。
これで全10区間中7区間が区間新となり、往路、復路、総合すべてが大会新記録となった。
区間記録および大会記録
区間記録
1区 1時間1分6秒 (83回 佐藤悠基 東海大)
2区 1時間5分49秒 (97回 Y.ヴィンセント 東京国際大)
3区 59分25秒 (96回 Y.ヴィンセント 東京国際大)
4区 1時間0分30秒 (96回 吉田裕也 青山学院大)
5区 1時間10分25秒 (96回 宮下隼人 東洋大)
6区 57分17秒 (96回 舘澤享次 東海大)
7区 1時間1分40秒 (96回 阿部弘輝 明治大)
8区 1時間3分49秒 (95回 小松陽平 東海大)
9区 1時間8分1秒 (84回 篠藤淳 中央学院大)
10区 1時間8分40秒 (96回 嶋津雄大 創価大)
大会記録
往路 5時間21分16秒 (96回 青山学院大)
復路 5時間23分47秒 (96回 東海大)
総合 10時間45分23秒 (96回 青山学院大)
余談
ここ数年、出場選手のオタク化が激しいことも取り上げられるようになってきた。
長距離持久走という競技の特性上、練習に競技場を必要とするがなく、専用の練習用トラックでの練習が終わり、施設が閉まった後でもロード練習に切り替えることで長い練習が可能となる。練習が終了し、夕食や入浴、洗濯などが重なると自由時間が深夜になり、寮生活唯一の娯楽であるテレビでは、一般的なアイドルや女優が出演する番組が少なく、深夜アニメの放送時間に直撃してしまった経緯がある。
他の競技では雑誌等で取材される際、好きな女性などを尋ねられると、女優やグラビアアイドルなどを答えることがほとんどであるが、箱根駅伝出場選手の多くは声優やネットアイドル、そしてアニメキャラクターそのものと答えている。
挙句の果てにはとあるアニメキャラと結婚し娘まで生まれたと宣言した選手まで現れている...その名前は...
そして山の神の一人である柏原竜二が、大好きな声優と共演まで果たしたことで多くの選手に夢を与えて、以降自重することが無くなった模様。
関連イラスト
関連動画
中継テーマ曲
Runner of the Spirit/久石譲
喜びの飛行(Bastian's Happy Flight)/クラウス・ドルディンガー
I Must Go/トミー・ヤング
関連タグ
- 箱根登山鉄道:コース上の小涌谷踏切にて、駅伝選手を優先して電車を停止させる事で知られる。
- 京浜急行:京急蒲田駅の高架化工事完了まで、蒲田1号踏切にて上記と同様の手続きを行っていた。
- 陸上自衛隊:立川駐屯地内の滑走路及びその周辺が「予選会」のコースとなる。かつては本選の運営車両の運行も担当していた。
関連タイトル
- 「いいひと。:高橋しん原作のマンガ。箱根駅伝が舞台になったことがある。
- 「いだてん〜東京オリムピック噺〜:駅伝にも関わったマラソン走者の金栗四三を扱った大河ドラマ。第19話で第1回箱根駅伝の様子が描かれる。
- 「風が強く吹いている:三浦しをんによる箱根駅伝への出場を目指すとある大学の弱小陸上部を舞台にした小説。出場への条件や手続き、予選会の様子などが詳しく書かれている。
- 「同居人は屍です。:中継での一言が想定外の展開を生み出した一例。詳細は該当記事を参照のこと。