概要
元々はヴィッツの海外(主にヨーロッパ)向けの名称だったが、2020年2月のモデルチェンジによりグローバル化の一環で日本向けもこの名称に統一した。
背景には、長らく販売してきたヴィッツが商業的な競争力を失ってきたことや、ヤリスの名前で参戦したWRCで勝利を重ね、日本でもヤリスの名前が浸透してきたという事情もある。
TNGAとしては最後発・最小となる新型プラットフォームである『GA-B』を採用し、大幅にねじり剛性とサスペンション設計を改善。
エンジンもヴィッツ時代の1,300cc直列4気筒を取りやめ、1,500ccのハイブリッド及びガソリン仕様車は新開発の『ダイナミックフォースエンジン』の直列3気筒タイプ(M15A)を搭載する。また業務用車向けに、2代目ヴィッツから採用されていたダイハツ製直列3気筒1,000ccエンジン(1KR)も引き続き設定されている。
3気筒化はエンジン音の雑味や振動がデメリットとなるが、それ以上に低燃費化・軽量化・設計の自由度向上などのメリットが大きい。特に燃費は著しく改善されており、ハイブリッド仕様は1リットルあたり街乗り・郊外・高速の各モードのいずれでも普通に走って30km行けるという、あまりに現実離れした数値を達成しているそうだが、ここはやはりあのお三方に判定してもらった方がいいのかも知れない。
エコカーに付き物なアイドリングストップ機能については、「エンジンの再始動の時の音が煩わしい」という意見が少なからず存在した事と、新型エンジンによる燃費向上により不要となったため、非ハイブリッドモデルに限り廃止された。
昨今の日本車にしては珍しく、1,500ccのガソリンエンジンの全グレードに6速MTが用意されている。サイドブレーキは手引式で、加えて前席優先のパッケージングゆえに後席の居住性がこれまでのヴィッツと比べて相当劣ってしまっている。ゆえに、これはもはやコンパクトカーではなくスポーツカーと言っても過言ではない。しかもこれをベースとしたリアルガチスポーツカー・GRヤリスが存在する。
同時期にモデルチェンジしたホンダ・フィットがMTを廃止する一方で後席も居住性を高めたパッケージングにしたのとは対照的である。
1,500ccのMTグレード同士で先代と比べて見ても、スペックの向上は明らか。
車種 | 車重 | 最高出力/回転数 | パワーウェイトレシオ | 燃費 |
---|---|---|---|---|
ヴィッツGR | 1,050kg | 109ps/6,000rpm | 9.6kg/PS | 17.4km/L |
ヤリス | 1,000kg | 120ps/6,600rpm | 8.3kg/PS | 19.6km/L |
※燃費測定方法はヴィッツGRがJC08モード、ヤリスがWLTCモードなので、実燃費はこの数字よりも大きな乖離がある。
元々ヴィッツGRが登場した際「このレベルが標準であってほしい」という声があったが、それを超える水準で実現したような形である。
またM15AはGRヤリスにも「RS」グレードにて採用されており、これらのことから十分スポーツエンジンの素質があるといえる。
日本市場向けは、ヨーロッパ市場向けと比べると、全幅が5センチ狭く、1.7メートルを割り込んでいる(=5ナンバーサイズである)。これは12代目カローラと同じ理由で、日本市場においてコンパクトカーでは取り回し性能が強く求められるという事情があり、あまり幅を大きくできないことと、日本ではヴィッツ後継モデルであるため大きくするわけにはいかないという特殊な事情を抱えているため。ちなみにフェンダーを調整した上で全幅を変えているため、シャシーそのものが変わっている訳ではない。
ちなみに12代目カローラも同様に日本市場向けは一回り小さくされているが、基本設計から手を加えている上、プリウスの成功も鑑みてあえて1.7メートルをオーバーしている。トヨタの世界戦略車種で、わざわざ日本サイズを用意しているのはヤリスとカローラ(セダンおよびステーションワゴンのツーリング)くらいである。
ヨーロッパ仕様車については、2022年3月までを目処にマツダにも世界販売戦略の一環で、次期型「マツダ2」としてOEM供給される事になった。マツダ側の説明では「マツダ2を山口(防府市に工場が存在)からヨーロッパに持って行くのは収益的にキツい。一方でヤリスのハイブリッドは市場競争力が高い上、トヨタのフランス工場で作られているので為替の変動の影響もあまり受けない。収益と(ヨーロッパで実施される予定の)二酸化炭素規制対応の両面で対応するにはこの方がいい判断」とのことである。
そのほか、コネクテッドサービスにカローラスポーツ同様標準対応しているほか、スマホ連動可能なディスプレイオーディオを標準装備しているため市販のカーナビやオーディオを搭載することや、CDやDVDの再生はできない。一応、カーナビ機能やテレビ機能、DVD再生機能はディーラーオプションで追加することができるようになっているが、助手席の下にデッキを設置する格好になるため、使い勝手は微妙かも。また、一部のオプションとも両立できない。
新興国及び北米では、全くの別車種が「ヤリス」として販売されている。
詳細はYarisを参照。
塊感のあるデザイン、走りの質感、圧倒的な燃費の良さ、先進安全技術などが高く評価され、2021年度『欧州カーオブザイヤー』を受賞している。これはヤリスとしては初代以来2度目であり、昨今彼の地で社会的正義のような扱いを受けている電気自動車(BEV)勢を差し置いての快挙であった。
また日本仕様は内装が質素な部分で不満の声もあるものの、2020年の登録車(軽自動車を除く)販売台数1位を記録し、審査員に技術畑出身者が多いとされる『RJCカーオブザイヤー』も受賞している。
派生車種
ヤリスをベースに開発された小型クロスオーバーSUV。ヤリスで不足する(どころか無視されたとみて良い)居住性・荷室空間を補うパッケージングがなされている。
「ヤリス」は2021年に車名別販売台数で軽自動車を含めて1位を記録しているが、半分はこのヤリスクロスのおかげである。
先述の通りさらにスポーツカーの要素を強化した代物。見た目、名前、内装こそヤリスである一方、メカニズム的には全くの別物。
モータースポーツやレースゲームなどの話題では、「ヤリス」というと一般的にこのGRヤリスを指すため、本記事の5ドアヤリスは「ヤリ素」「素ヤリス」などと俗に表記される。
モータースポーツ
トヨタは2021年から、このヤリスを使ったカーレースシリーズ「トヨタガズーレーシング ヤリスカップ」を開催している。
これまでのネッツカップヴィッツレースに代わるものであり、やはりモータースポーツの敷居を下げる事を目的としている。
ヴィッツ同様専用車も用意されるが、予防安全装置のトヨタセーフティーセンスは省略される上、カーオーディオの装着は不可能(ただしエアコンは装備されてはいる)。
また、トヨタガズーレーシング・ラリーチャレンジでも2021年シーズンからこのヤリス専用クラス(ただし1,500ccガソリンエンジン車しか参加出来ない)が設定されているが、2020年シーズンにおいても、トヨタ車限定オープンクラスに出走したものがあったりする。
ついでに言えば、全日本ラリー選手権の2ペダル車クラスや1.5L以下クラスでも最大手の車種となっている。
関連項目
N-VAN(MTが6速しかない自動車つながり。しかもこれは商用バンである)