ルパン三世PART1
るぱんさんせいぱーとわん
作品解説
スタート時のルパン
1971年10月24日から1972年3月26日まで放送されたルパン初のTV放映作品である(製作自体はパイロット版が先にあたる)。
~初の大人向けアニメ~というキャッチコピーで制作された「ルパン三世」は、飄々としたニヒルでシニカルな「大人の悪党」であり、そういった主人公は当時のアニメ界にしては異色かつ意欲的な存在であった。
演出面でも殺伐として無国籍な世界観、余計な説明を排した軽妙洒脱な脚本と台詞回し、ジャズやブルースをメインとしたムーディなBGM、腕時計・タバコ等のディティールに拘った描写等々が盛り込まれ、当時のアニメとしては様々な面で斬新なハードボイルド・ピカレスクロマンであった。
しかし、その異色さが故か本放送時は視聴率の獲得に大いに苦しんだ。そもそも当時は「アニメとは子供の見るもの」という意識が現在と比較してもまだかなり強く、最大のターゲットである大人が見ようとする考えすら起きない状態だった。
このためか当初からテコ入れの連続で、主題歌はわずか4回で流れなくなり、その代わりに子供など初見の人間にも通用するようにナレーションでレギュラーキャラクターの紹介を入れるようになった。そんな本末転倒な施策は、やはり付け焼き刃だったかあまり成果が出なかった。
視聴率も一桁しか出せず、お偉いさんに呼び出されたあげく失敗作の烙印を押されてしまう。前半の演出担当の大隅正秋は自信を持って本作を製作していただけに「大人向けのアニメなのだから視聴率が伸びないのは当然」と抗弁したが、当然上がそれを認めるわけにはいかない。
結果、路線変更が決定したため、大隅は憤慨して降板することとなる。以後、大隅は長い間ルパンとは絶縁状態となった。
余談だが、『ドラえもん』(1973年)、『宇宙戦艦ヤマト』(1974年)、『機動戦士ガンダム』(1979年)と、現在にもその名の轟くこの時期のアニメはどれも第1作が地べたを這いずるような視聴率だったりする。
『ルパン三世』はその嚆矢的存在であったとも言えるかもしれない。
路線変更と放送微短縮
後半から高畑勲、宮崎駿が演出を担当しハードな作風からコメディタッチに変更となる。視聴率は持ち直したものの、結局当初の予定通り2クール全23話で終了してしまう。ただし本来は26話やる予定で、不人気から3話短縮されてしまった。
終わってみれば、ルパンの仲間達はしばしば出ない回がある。特に途中参加の五エ門の出番の少なさは、話数と兼ね合わせてみると全シリーズでも特に目立つ。さらにテコ入れでころころ変わる作風、安定しないOPなど、見る側としてはかなり癖の強いシリーズとなった。
しかし本作で描かれたライトに追われて走るルパン、タイプライター方式のタイトル表記(ただしこの時は「最後のBGMの部分」は存在せず、現在の形で定着するのはPART2以降になる)など後年の定番になった演出も多く、原点として多大な功績を残しているのは間違いない。
再放送・その後のルパン
大人向けでアダルトな作風が世に受け入れられずに、当時は長寿番組どころか微妙な話数短縮となった「ルパン三世」。だが本放送終了後、23話という短い話数でかえって再放送がしやすくなり、地方局などに空いた枠にちょくちょく流れているうちに評判が良くなっていく。
ハードボイルドな世界観、洋画のような演出、スタイリッシュなキャラクター、クオリティの高い脚本、コミカルながらも決める場面では決める展開など、本来の魅力がようやく受け入れられたのである。
こうして徐々に評価が見直され、一気に高視聴率を獲得して人気アニメの仲間入りを果たした。これを受けてファンの願いに答えるために「実写映画化」、「第2シリーズ(Part2)」、「劇場版」が製作される契機を作った。特に「第2シリーズ」はこの再放送で人気に火が付いたことが大きい。
その後はさらに「PARTⅢ」「テレビスペシャル」と続いて今に至るが、今この第1シリーズは後のハードボイルドアニメ(カウボーイビバップ,他)の元祖として、ファンを含み多くの支持を得ている。
その他特徴
本作では緑ジャケットのルパンが起用されているが、実は先の解説ナレーション付きOPでは、パイロットフィルムを流用した関係から、赤ジャケットルパンが登場している(ただしラストシーンで突然緑ジャケットに戻る)。
Part2以降はレギュラーとなる五エ門だが、この時はまだルパンの命を奪おうと狙う危険な剣豪として描かれており、特に序盤はずっと敵対していた。そして先の通り仲間に入ってからも、四人の中では浮いた存在のせいかろくに出番がない。
また、本作では五エ門と不二子の声がPart2以降に定着するキャストとは異なる。これはPART2製作の際に何故かこの二人の声優交代を求められたためである。
五エ門は役を継いだ井上真樹夫曰く「Part1では何をするかわからない危険人物として描かれていたが、Part2での路線変更でキャラが優男風味になったことから変わったのだろう」としている。また、Part2以降に長らく峰不二子を演じることになる増山江威子はパイロット版で不二子を担当しており、復活登板となっている。
(放送当時の雑誌での製作陣インタビューでは、「五ェ門は前作より(キャラクター像が)甘く作られているから大塚周夫さんより甘い声の井上真樹夫さんに」「不二子はシリアスキャラだった前作よりギャグが強めなので二階堂有希子さんから明るい声の増山江威子さんに交代しました」と書かれている)
なおこの変更においては後に多くのバッシングが寄せられたというが、PART2の長期化により終息していった。
また、二階堂有希子にとっては数少ないアニメでの声当てキャラクターであったが、本作で不二子演じたことについて非常に好意的な思い出を語っている。
次元役の小林清志は後の2021年のPart6で次元役を引き継ぐ大塚明夫に以前、「なぜ親父(大塚周夫)は(Part2から)五ェ門を辞めたんでしょう?」と聞かれ答えに窮したことがあると、Part6の次元交代に関するインタビューで明かし、「さぞ先輩(大塚周夫のこと)も無念だったに違いない」と当時の心境を語っている。
TMS公式がYouTubeで公開しているOP・ED・アイキャッチ全集の中で、PART2以降がノンクレジットになっているのに対し、PART1のみクレジット入りになっている。
歴代の作品で、PART1のみが旧東京ムービー本体の制作で(PART2は東京ムービー新社→現在のトムス・エンタテインメント)、東京ムービーは1993年に解散してしまっている。
これらのことから、PART1のセルとシネフィルム光学トラック転写前のマスター音源が残っていないと思われる。
デジタル作画が定着する以前、アニメ会社の倒産などで処分に困るものが大量のセル画だった。アニメコンテンツの価値が他のテレビコンテンツより安価なものと思われていたこともあって、1970年代以前の作品、特に制作会社が倒産してしまった場合など、廃棄されてしまう事がままあった。
実際、PART2以降と異なり、PART1のハイビジョンリマスターは完パケの35mmシネフィルムからの再生となっている。
なお、OPの『ルパン三世主題歌3』は、テイチク・レコードに放送時のマスター音源が残っていない事が確定している。現在のオーディオソフト収録の曲は、1980年以降に日本コロムビアで再収録したもの。この為、ピッチが少しズレており、現在の音源と当時のアニメが同期しない。
スタッフ・キャスト
主要スタッフ
原作/モンキー・パンチ
脚本/山崎忠昭、大和屋笠、宮田雪、さわき・とおる 他
作画監督/大塚康夫
美術監督/千葉秀雄、伊藤雅人
演出/大隅正秋 ⇒ 宮崎駿・高畑勲(Aプロダクション演出グループ名義)
音楽/山下毅雄
オリジナル・サウンドトラック/テイチク・レコード
制作/東京ムービー
(旧法人・1993年解散。現在のトムス・エンタテインメントは分社の東京ムービー新社)
主題歌
- オープニングテーマ1
「ルパン三世主題歌Ⅰ」歌/チャーリー・コーセイ
- オープニングテーマ2
「AFRO"LUPIN'68"」歌/チャーリー・コーセイ、ナレーション/山田康雄
- オープニングテーマ3
「ルパン三世主題歌3」歌/よしろう・広石
- エンディングテーマ
「ルパン三世主題歌Ⅱ」歌/チャーリー・コーセイ