概要
キャンビオンとも。
フランスの文筆家コラン・ド・プランシーの『地獄の辞典』によるとサキュバスとインキュバスが交わると子が生まれる。
両親と異なりこの子は醜い姿をしている。人間の子供より重いが、たくさん食べても、三人の乳母の母乳を全て吸い尽くしたとしても、身体はそれ以上は大きくならない。
本書では『対談録(コロク)』なる文献を引用しており、この書によるとカンビオンは7才までしか生きることができない。人が触れようとすると泣くかと思えば、凶事が家にふりかかると笑う。
重さについての踏み込んだ記述もあり、ある乞食がカンビオンを連れて居るのを哀れんだ人が、カンビオンをただの子供と思ってか馬に乗せたところ、馬がその重みに耐えかねてつぶれてしまったという。
カンビオンという魔物の文献上の初出は上記の『地獄の辞典』と見られるが、この書物の初版は1818年であり、近代に入った時代のものである。
言語学者ベンジャミン・W・フォーストン4世の著作『Indo-European Language and Culture: An Introduction(印欧語族の言語と文化:ひとつの紹介)』によると、Cambionという語は一世紀のガリア地方の碑文にも刻まれている。ベンジャミン・W・フォーストン4世によると、ケルト語派で「曲がっている」を意味する“kamb”が語源で、前後運動と交換を意味するという。
また、これがラテン語においてcambiareとなり、英語のchangeとなった可能性が示唆されている。
カンビオンは妖精の取り替え子「チェンジリング」の概念とも関係があるのかもしれない。
類例
魔女狩り文献『魔女に与える鉄槌』によると、サキュバスやインキュバスのような悪魔は命のある子をなすことができない。いのちを身ごもるには、魂を必要とするが、それが欠如しているため、仮に生まれたとしてもその身体は耐えられないという。サキュバスが男性から採取した精液は、インキュバスを経由して女性に注がれ妊娠させるという。
サキュバスとインキュバスの概念そのものが婚外交渉による予期せぬ妊娠を説明するものとして発達した背景があるため、この形で生まれる子は純血の人間と思われる。
アーサー王伝説に登場する大魔術師マーリンはインキュバスと彼に誘惑された王女との間に生まれた。伝説において、精液の出所が人間の男性とは明言されていない。
イギリスの古称アルビオンと初期の住人とされた巨人たちにまつわるアルビナ(Albina)の物語では、古代ギリシャの王女アルビナを長女とする30人の姉妹が船に閉じ込められて流され後のイギリス(アルビオン)に漂着する。当時この島には他に人間は住んでおらず、彼女達は島に住んでいたインキュバスたちと子をなしたという。更にその息子達と交わったことで巨人族が誕生する。その後「ブリテン」の名の由来とされるブルータスという男がこの島に上陸した時代には、24人の巨人が生き残っていたという。この物語は14世紀ごろからアングロサクソン詩等の媒体で語られている。
創作におけるカンビオン
遺伝上の父親がインキュバスで、遺伝上の母が人間である。またその逆のケースも想定できなくもないためか、後世のフィクションでは半分人間の存在として扱われることがある。
テーブルトークRPG『ダンジョンズ&ドラゴンズ』ではデヴィルやデーモンなどのフィーンド(英語における「魔族」的な総称)と人間との間に生まれる子として設定されている。
アクションホラーサスペンスドラマ『スーパーナチュラル』でも悪魔と人間の子を指す用語として登場する。
このほか『ファンタジーアースゼロ』(FEZ)における装備名、および派生作品『メルファリアマーチ』におけるユニット名として使われている。
Fateシリーズにおけるマーリンは人間の母から生まれた、かつ明確に夢魔の血を引く人物として登場する。Fate/Zeroにはサキュバスを祖先に持つナタリア・カミンスキーが登場している。