溺愛
できあい
むやみにかわいがること。盲目的にかわいがること。(精選版日本国語大辞典より)
…ただしあくまでかわい「がる」であり、必ずしも溺愛対象の心情に沿っているとは限らない。
現在、女性向けエンタメ作品でムーブメントになっている「報われない境遇やパッとしない立場にある主人公」が「スクールカーストや社会的に高位にあるパートナー」から打算抜きで好意を持たれ、主人公「だけ」を心身ともに徹底的にイチャラブする系統の恋愛作品が溺愛系という俗称で呼ばれることがある。
端的にいうと、「シンデレラストーリーのその後の甘々イチャラブ生活」に重きを置いたものといえる。
ネーミングの由来は、だいたい2010年代中盤あたりから「(例:私は○×に溺愛される)」的な題名で、しかも内容もマンマそれな感じの作品が発表され始め、一部ユーザーから支持されるようになったことによるもの。
なおこの場合、パートナーの多くは(色々な意味で)ハイスペック人間が配役される。
成立経緯と傾向
90年代、大人の男女の駆け引きをテーマにしたトレンディドラマやドロドロの愛憎劇を描いた昼ドラが人気を呼ぶなど、女性向け恋愛作品は従来の青春や甘酸っぱい系の潮流から離れ大きな岐路に立つことになった。
そして、2000年代はケータイ小説や映画『世界の中心で、愛をさけぶ』、韓流ドラマ『冬のソナタ』に代表される悲劇系・悲恋系の作品が流行になったが、これらは悲劇性を強調するために不治の病等による死別やレ○プ、援助交際、DVや自殺未遂、他諸々の修羅場などアレな要素ばかりが詰め込まれ、ストーリーの最後は「真実の愛」に気が付いて涙なみだに閉幕・・・といった感じの超展開の様相を呈した為にその後半には急激にブームは収束。批評家からも「日本人全体がガキとしてふるまうことをよしとしている」(茂木健一郎)や「自分だけが徹底的に愛されたいというエゴイズムが透けて見える」(小林よしのり)といった批判に晒された。
嫌な言い方をすれば、この段階で一度パートナーの死別や泥沼展開を露骨なかたちで表現する過激志向が飽きられたとも解釈できる。また、カップルが不良学生同士だったりフリーター同士だったり不倫関係にあったり片方が病弱であったり等々の不安定極まりない関係性の末に(よく考えれば)後味の悪いラストを迎えるのが黄金パターンではとても安定した大衆受けが続くわけがなかった。
では、これによって伊藤左千夫の『野菊の塚』や三島由紀夫の『潮騒』、氷室冴子の『海がきこえる』や柊あおいの『耳をすませば』なんかの背景描写のしっかりとした従来の恋愛作品に女性層が回帰したのかといえばそんなことはなく、
代替として台頭したのがこの溺愛系である。構造的には鬱展開や負のご都合主義にひた走った前回(?)のネガをつぶすように山あり谷ありを含みつつもハッピーエンドと甘々生活が約束されている安心設計となっている。なにより、パートナーが不倫相手であったり破滅型のヤンキーだったりといった不安定要素は排除され、現代ならジョブズ顔負けの一大企業の御曹司、または現役若社長、中世や異世界なら王位継承には興味ないが超有能な王太子などのパワーゲーム頂点の権力者に移った。このため、パートナーとなるキャラの多くは健康体で経済的な自立も成し遂げているうえに「オレがお前を守る、つーか今日からお前オレの女だ!!」的な言葉を普通に言ってくる。
ただ、大々的に主人公を嫁にする宣言したせいで失脚を狙う敵対勢力から主人公が狙われまくるのはあるある
何ならそこでなりふり構わず主人公を守ってやるぜ(そもそも原因は自分にある)ムーブで読者は今日もキュンキュンするのは王道展開ですらある
ただし、因果関係が省略されやすく類似作品が軒並み紋切り型になりやすいという共通の弊害を持つ。よって、ストーリーの整合性が保障されるかはかなり微妙なところ。
漫画家の小池未樹によると、なんとこの傾向は2009年頃には既に始まっていたという。
重度のケータイ小説フリーク(?)である小池の解析によると、2009年に、暴走族の総長の恋人を「姫」と表現し、ワルで権力を持つパートナーから大切にされる形態の作品がケータイ小説サイト「魔法のiらんど」で絶大な人気を博し書籍化され新たなブームとなり、これによって姫ものというジャンルが誕生。これ以降、悲劇系のケータイ小説は徐々に淘汰されていき、その後に紆余曲折を経て現在の妄想全開のシンデレラストーリー(by小池)である溺愛系へと発展したのではないかと推測している。(参考)
現在のケータイ小説界(スマホ小説)では、『通学電車〜君と僕の部屋〜』(みう(小説家))や『溺愛(ケータイ小説)』(映画館(小説家))などといったかつての悲劇系と似ても似つかない作品がヒットして各方面に影響を与えている。
(※『溺愛』だけで25万部以上。)
2006年に書籍化の『恋空』以来の伝統を誇る旧ケータイ小説サイト『魔法のiらんど』は2025年3月31日をもって単独でのサービス運営を終了する。
もし「泣ける実話」系の全盛期のファンがほとんど「溺愛系」オンリーの現在の状況を知ったらどう思うだろうか………
まさに事実は小説よりも奇なりといえよう。
編集段階でも少女漫画やなろう系小説だけでなく、TLからBL、百合に至るまでこれの浸透率が高い。ホモもレズもありなのか…(困惑)
日本だけでなく華流ドラマ等でもこのジャンルのものが目立つ。
なによりも恐ろしいのは、現在の小説投稿サイトの界隈において小説家になろうやカクヨム、アルファポリス等の恋愛部門だけでなく、元はケータイ小説の殿堂であった魔法のiらんどや野いちごまでもがこれに浸食されサイト全体のランキング上位を占めるにいたっており『恋空』なんかの昔の悲劇系どこいった?状態になっている。
ただし、なろう系統の場合は他ジャンル(異世界トリップ・悪役令嬢・追放ものect)の副題としての趣が強い。
余談ながら、旧ケータイ小説系統(=魔法のiらんど&野いちご掲載作)では悲劇系が激減した一方で主人公のパートナーが暴走族のリーダー(=総長)やヤクザの若頭といったアウトロー人種であるものが人気上位にあるなど、全盛期の特徴であったアングラな部分を引きずっている部分もある。主人公もギャルであったり水商売をしていることも皆無ではない。
業界では「慌ただしく不安を煽られる時代だからこそ、ドーパミンやアドレナリンが出るような興奮する出来事ではなく、オキシトシンが分泌されるようなほっこりした触れ合いを描いた“溺愛系”が人気なのでは」と分析されている模様。
事実、主人公やヒーローが多少の問題に直面することこそあれど大抵は次のページであっさり解決してしまう。
更に主人公が賊に狙われたり、悪評を広められたりして仲を裂こうとされても、こんな事もあろうかと雇われていた凄腕のイケメン密偵が瞬時に救出してくれたり、強引に主人公とヒーローを話合わせて即誤解を解きつつ火消しも一瞬で終わらせるという気が利きまくる側近が身構えている
もちろん話し合いというのも建前で、ヒーローは「全て忘れよ。これからの君への珠玉の愛で取り戻して見せよう」の一点張りで、主人公も「まあ私も許しますわ!私はなんて優しいんでしょう!」とあっさり掌を返す。
もしこれで主人公が少しでも聞き分けないようなら「黙れ!俺の愛で忘れさせてやる!」と無理やり行為に及んで子供を孕ませて有耶無耶にする。
ノクターンノベルズなど大人のシーンがある物語では、それこそ自由を奪われて監禁されて孕むまでひたすら襲われ続けるという強姦も同然の目に遭わされ、酷い、でも抵抗できない…私も彼を愛してるんだわ…という強引な両思いなんだから何してもいいよね理論でゴリ押す。
或いは結婚も王妃の座も嫌だけど子供が出来たから掌返して全部掴み取るわ!子供のためだから仕方ないわ!ヒーローのやってきたことも全て子供のために許すわ!私ったらなんて優しいんでしょう!とタイトル詐欺を正当化する
そしてある意味一番肝心な何故ヒーローが主人公に好意を抱くに至ったかは概ね深く描写されない。
大抵幼い頃に一度見て一目惚れし、探していただったり、他の女と違ってなんか面白そうという何とも曖昧な理由がほとんど。
何なら理由などどうでも良い。今からとことん愛するのだからなとよく分からない理由でベッドシーンに突入する。
つまり作者も読者も詳細な理由はどうでも良く、1ページでも1文字でも早くイチャイチャしろという事である。
要は何があろうと、例え主人公自身が望んでいなかろうと主人公とヒーローは作者の運命力によって絶対に結ばれるという約束が安心感に繋がっているようだ。
ただ無理やり世継ぎを孕ませたり、間接的に家族や領地を盾にして(或いは他に主人公の寵愛を受ける存在を抹殺して)婚約を強いる一連のヒーローの行為は作品内でこそ主人公への一途な珠玉の愛として描かれているが実際は言語道断の犯罪であるので真似しないように。
………
- 悪役令嬢は隣国の王太子に溺愛される
- 成り行きで婚約を申し込んだ弱気貧乏令嬢ですが、何故か次期公爵様に溺愛されて囚われています
- ずたぼろ令嬢は姉の元婚約者に溺愛される
- 鬼の妻問い_孤高の鬼は無垢な花嫁を溺愛する。
※他にもあったら追記をお願いします。
なお、記事が無いだけで該当する作品はかなり多い。
「長いタイトル」と「溺愛」
そもそもの話し、近年のWEB小説とその近縁になぜ無暗矢鱈に『溺愛』を題名に含む作品が多いのかといえば、俗に言う長いタイトル問題と根は同根だから。
WEB小説の投稿サイトでは、そもそも閲覧数を稼ぐためには兎にも角にもサイト利用者に興味をもってもらわなくてはならない。そのための手っ取り早い裏ワザが「題名で作品内容を紹介してしまう」というもの。
当然、この傾向は主戦場がWEB上となりがちな溺愛系にも影響している。身も蓋も無いことをいえばこの文脈における『溺愛』とは、一時期の『事件簿』や『戦記』、『異世界』や『スローライフ』等のように、発表作品が流行りのテンプレの範疇であると宣言するマジックワードなのである。
「溺愛系」は特別なジャンルなのか??
その一方で、ライトノベルの祖として著名な『スレイヤーズ』の作者である神坂一が10年代になろう作品のなかで有名になった『私、能力は平均値でって言ったよね!』等のFUNA3作品(仮称)を閲覧した際に「自分とやってること同じじゃん、作者ぜったい自分と同年代だな」となったり、
他方では同じなろう作品の『君の膵臓をたべたい』(住野よる著)がブームになった際に多数のユーザーから「全般的に『世界の中心で、愛をさけぶ』を感じる」といった感想が寄せられるように、
こうした部分を深く考える際には、WEB小説界隈から多分に影響を受ける溺愛系もこの文脈で捉えていったほうが無難といえる。
ぶっちゃけいえば、「ヒロインが周囲から受け入れられていき、パートナーと愛を育み、成長していく」というパターンの作品は以前からあった。
……ようはジャンルが大仰な紹介こそされてはいるが、既存の恋愛作品等々の構成やテーマとは大して外れてはいないものがその実多数だったりする。
1908年(明治41年)に発表された『赤毛のアン』だって、現代日本風に翻案すれば『孤児だったアタシ、田舎に引き取られて溺愛される。にんじん頭のアタシは友情に初恋に毎日が楽しい!』って感じだし。 野いちごジュニア文庫あたりに普通にありそうな題名になっちゃったよ
さらに言えば、1925年(大正14年)刊行の『痴人の愛』なんて『マジメ系サラリーマンの俺、15歳美少女を嫁にして溺愛しようとするが彼女はビッチだった⁉』ていう感じになる。 新作のエロゲかな⁇
はっきり言えば、傾向としては「ヒロインとパートナーが結果的にイチャイチャな関係になっている」作品全般を『溺愛系』と無理やり括っているのが現状と言える。
そして、それを言うならケータイ小説なんかの『悲しい実話』問題だって、大正時代の女学生のトレンドが悲劇系百合小説の大家である吉屋信子の諸作品だったことを忘れてはならない。
そう考えてみれば、まさに歴史は繰り返すなのである。
『第17回らぶドロップス恋愛小説コンテスト』のサブテーマタグの一つ。詳細はらぶドロップス17を参照。
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