概要
F/A-18ホーネットを再設計した艦上戦闘機。
単座がE型、複座がF型である。初飛行は1995年11月。
アメリカ海軍の主力戦闘機であり、米軍機のなかでも現状最多の保有数となっている。
正式な愛称はホーネットを超越したという意味を込めた「スーパーホーネット」であるが、非公式な愛称としてコックピット前のIFF(敵味方識別装置)アンテナをサイの角に見立てた「ライノ(サイの意味)」も使われている。日本のネット上では「スパホ」とも。
本機の導入により、従来のF/A-18は非公式に「レガシーホーネット」と呼び分けられることになった。
議会対策上、F/A-18のサブタイプとして開発・取得されたが、在来型ホーネットとは20年以上間が空いており、そのあいだに開発された新技術が盛り込まれただけでなく、機体そのものがF-14ばりに大型化した。
よって、実際のところはそれまでのF/A-18とはまったくの別物と言っていい。
これにより、F/A-18シリーズの問題点であった航続距離、兵装搭載量、空母着艦時の持ち帰り搭載量(ブリングバック・ペイロード)に大幅な改善を見ることとなった。
一方で、開発費高騰と電子装備の換装によってかなりの高額機体となり(それでもほかの第4.5世代ジェット戦闘機や第5世代ジェット戦闘機よりは安いようだ)、機体の大型化もあってF/A-18にあった扱いやすさは失われている。
後述する理由もあって、米海軍以外に採用しているのはオーストラリアとクウェートだけで、アメリカ海兵隊ですら採用はしなかった。
開発経緯
F/A-18はさまざまな任務に対して適性を示しつつ、機体規模はやや小型であるため扱いやすい機体でもあり、艦上機でありながら複数の国で採用された画期的な機体である。
この汎用性により、A-7やF-4を代替しつつ、高価すぎて数がそろわなかったF-14の任務をも補佐していた。
しかしながら、あらゆる点で最優秀とはいかず、特に航続距離の短さが問題になり、1980年代には航続距離を延伸する大型化案が提案されていた。
一方そのころ、海軍はA-6の後継問題に悩まされていた。
A-6は敵領深部へ侵入しSAM(地対空ミサイル)や後方拠点を攻撃する深部攻撃機であるが、SAMの発達により危険度が増すなかで、運動性能が不足した旧式機体では対応が難しくなっていた。
海軍はこの解決として、SAMに狙われないステルス機であるA-12を開発していたが、新機軸を盛り込みまくった結果コストが跳ね上がる一方であり、「海軍航空予算の7割を食いつぶしかねない」と言われる有様であった。
ソ連の崩壊により軍縮傾向となるなかでこんな金食い虫を政府が見逃すわけもなく、1991年にプロジェクトは潰されることになる。
この代案として白羽の矢が立ったのが、F/A-18の大型化案である。
もともと攻撃機として優秀な活躍をしており、さらに戦闘機としても通用する運動性能を持つF/A-18は、A-6の後を継ぐのに最適であり、原型として選ばれることになった。
これには「従来機を基にすれば新型よりも予算を削減できますよ」と議会を説得しやすかったこともある。
機体全体を大型化し、各部の設計を変更、このために共有部分はごくわずかとなってしまったが、議会対策もあって「F/A-18」の名前は引き続き使われた。
制式発注は1992年、初飛行は初飛行は1995年となり、生産は1997年に開始され、2001年に初期作戦能力を獲得した。
この機体の導入に伴い、F-14やA-6は順次退役していったほか、バディポッドにより空中給油機能を得たことでKA-6Dも代替、さらには派生型のEA-18Gの登場によりEA-6Bの任務も引き継がれた。
C/D型も順次E/Fに置き換えられていき、米空母をほとんど埋め尽くしてしまった。
F-35Cの登場後もコックピットをF-35Cと同様の大型ディスプレイとしたりするなど電子機材を近代化し、コンフォーマルタンクを装備可能にして、エンジンもさらに強化するアップグレードを実施しており、まだまだ運用していく方針。
なお、本機はその立場上、F-14の艦隊防空任務もまとめて引き継いだことになっているが、実際にはF/A-18E/F自体はそれほど空中戦を志向した機体ではなく、「攻撃機的な性格が強い」とよく言われる。
ソ連の崩壊による脅威の消滅と、優れた防空能力を持つイージス艦の実用化により、艦隊防空における海軍航空隊の重要性は大幅に減少しており、F/A-18E/Fの開発に当たって空対空性能は二の次とされていた。
そのため、防空戦闘機の任務がF/A-18E/Fに引き継がれたというよりは、防空戦闘機が海軍から消滅したと表現する方が実態に即している。
機体
胴体を86センチ延長し、翼面積を25%増大、燃料と電子機器搭載のスペースを作り、さらにLERX(翼前縁根元延長)が大幅に拡大された。
この結果、航続距離は41%増加しており、武装搭載量は2t近く増加した。
40度を越える迎え角でも操縦が可能となり、旋回半径が減少、低速域での安定性、操縦性も増している。
一方で、機体上部のエア(スピード)ブレーキが廃止されたことなどにより、総部品数はC/D型以前より減っている。
ステルス性も考慮した設計となっており、インテーク形状に変更(丸型→角型)が加えられ、内部にはエンジンからのレーダー反射も抑えるレーダーブロッカーが設置された。結果、正面のみとはいえRCS(レーダー有効反射面積)は1平方メートル程度となっている。また、重量の増加に伴い、エンジンもより出力の高いF414に換装した。
これらの改設計の結果、C/D型以前との共通部分は10%以下となっている。
アビオニクスは初期型こそF/A-18Cとほぼ共通していたものの、増大したスペースを活用して改良されており、空対空、空対地両面において機能が強化されたAESAレーダーに加え、電子妨害装置や警報装置を搭載し防御力も格段に向上した。
しかしながら良いことばかりではない。
重量増加にエンジン出力が追いついておらず、増大した翼面積とLERX、インテークの形状変更により空気抵抗も増えており、ただでさえ良いとは言い難かった加速性能がさらに悪化した。最高速度も若干ながら低下し、維持旋回率(1秒間に何度回頭できるか)も非常に悪い。
よってC/D型以前の完全な上位互換とは言い難い機体である。パイロットには「従来型がポルシェ911なら、スーパーホーネットはSUV」と揶揄(やゆ)されたこともあるのだとか。
BVR(視界外射程)が重要になるなかでも、効率的に敵のミサイルを回避し、また素早く攻撃位置につくための運動性能は依然として重要であり、戦闘機としてのF/A-18E/Fは批判的に語られることも多い。実際、輸出された2か国でも、オーストラリアではF-35配備までのつなぎに過ぎず、クウェートではより運動性に優れるユーロファイターも併せて採用している。
近年は予算不足と情勢の変化が重なり、海軍は度々F/A-18E/Fの調達を中止して次世代機F/A-XXの開発に予算を回そうとしているが、メーカーの利益を優先するアメリカ議会に毎回遮られており、先行きは不透明な状態である。
そんな性能もあってか映画などのフィクションでは長らく活躍の機会に恵まれていなかったが、2022年公開の『トップガン マーヴェリック』でついに主役機を務め、人気が急上昇つつある。
上述した「攻撃機的な性格の強さ」を逆手に取った活躍は必見。
余談
本機は騒音が非常に大きいことでも有名である。
極力機体をいじらないため、エンジンサイズをそのままに出力を向上させようとした結果、排気速度を更に上げる必要があった。このため、ただでさえ排気音が大きいF404よりさらにやかましくなってしまった(笛をイメージすると分かりやすい)。アメリカ本国では訴訟にまで発展している。
横田基地周辺在住の編者の感覚で有れば、エアライナー同様の騒音対策をした大型輸送機は昼間で有ればあまり気にならないが、F/A-18E/Fが来るときは際立って高音成分が多いため非常に耳触りで、すぐに解る。(珍客であるF-22は、どちらかといえばエアライナー程度の騒音)
関連イラスト
関連動画
世界最強の海軍航空戦力! 空母艦載機F/A-18スーパーホーネット - USA Military Channel(2016年8月)
【超かっこいいコックピット映像】F/A-18Eスーパーホーネット戦闘機 - USA Military Channel(2019年11月)
関連タグ
派生機:EA-18G
関連キャラ:ライノ(ガーリー・エアフォース)
スーパーホーネット(競走馬):当戦闘機が名前の由来