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A-7

えーなな

アメリカ、LTV(リング・テムコ・ヴォート)社によって開発された攻撃機。核兵器の運用能力や超音速飛行は要求されず、代わりにA-4の倍の搭載量と、広い戦闘行動半径を求められていた。ロバート・マクナマラ長官の一声で発注した海軍だけでなく、空軍でも採用される事になった。また、ギリシャ・ポルトガル・タイでも採用された。通称は『コルセアⅡ(海賊)』もしくは『スラフ(SLAF)』とも。かつてのF4U戦闘機の名を受け継いでいる。
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『F-8の設計図を踏んづけて出来たヤツ』編集

1962年、アメリカ海軍A-4の後継として超音速攻撃機を構想していた。

しかし超音速攻撃機は高価になる事が予想された為、亜音速の攻撃機で、しかも安価で1967年には運用開始できる事とされた。


国内数社のメーカーに要求仕様を提示し、その中からLTV(リング・テムコ・ヴォート)社が受注を勝ち取った。機体はF-8をベースとし、要求仕様に合わせて再設計している。例えば亜音速飛行のため、エンジンや機体の全長などが変更された。


中でも主翼は大幅に変更され、F-8のような主翼の角度変更機構は廃止された。その代わりに主翼のフラップが増設され、主翼厚を増すと共に翼内燃料タンクも増設。エンジンも新型のターボファンエンジンとなった。

F-111と同じTF30エンジン)


配備はされたものの…編集

要求仕様の通り、1966年10月には部隊配備が開始された。しかし機体の下に大きな吸気口があるため、カタパルトの蒸気でコンプレッサーストールになり易い不具合があった。この不具合を解消するにはエンジンの換装しかなく、程なくしてエンジン換装型のB型が開発されている。


コンプレッサーストール編集

ジェットエンジンは外部の空気を取り入れ、風車(タービン)で圧縮して燃焼させる。この風車を複数利用した空気圧縮機は、「コンプレッサー」と呼ばれている。入ってきた空気は、タービンの各段で徐々に圧縮されていく事になるが、これが円滑に働くためには『設定されたエンジン回転数を保つ』事が必要になる。コンプレッサーストールとは、このバランスが崩れて出力が急激に落ちる事である。この機の場合に限らず、TF30はコンプレッサーストールをおこし易い不具合が付いて回った。


TF30エンジン編集

F-14F-111にも採用された、初期のターボファンエンジンである。

ターボファンエンジンとはターボジェットエンジンと違い、取り入れた空気から、実際に圧縮して燃焼させる空気の量を任意に調整できる。これにより、どんな速度でも最適な圧力で空気を圧縮(燃焼)できるようになった。コンプレッサーストールは、初期の設計の限界なのである。


米空軍からの『お呼び』編集

長い行動半径や搭載量の大きさは、軍事費削減を至上の命としたロバート・マクナマラ長官の目にとまった。搭載力や低速の得意さに注目され、近接航空支援(CAS)向けの攻撃機として脚光を浴びた。


ベトナム戦争中、アメリカ空軍はこの用途にF-100をあてていたのだが、低空・低速での対地支援には不向きであり、より得意な攻撃機を探していた。とりあえず他に間に合う機が無かったこともあって、海軍から「お古」のA-1を譲ってもらってようやく間に合わせたが、さすがに旧さは隠し切れず、ここに新型で、できれば費用もかからない攻撃機が要求された。


こうして白羽の矢が立ったのがA-7Dである。目立った改造点としては新型エンジンを採用し、空中給油装置を空軍向けのものに変更している事やHUDの採用が挙げられる。後の海軍型(E型)もこの仕様に準じたものとなり、D型は海軍A-7が大成する礎にもなったのである。A-7はアメリカ空軍以外にもギリシャポルトガルでも採用され、タイでもアメリカ海軍の中古機を購入している。


ちなみに、空軍では海軍との対抗意識もあってか「海賊」を意味するコルセアの名称は一切使われず、代わりに『SLUF(スラフ)』なる呼び名が考え出された。これは「Short Little Ugly Fucker(もしくはFeller):チビでブサイクなヤツ」の略で、こうした愛称が考え出されたという事はパイロット達からよく親しまれていたという証でもある。


実際、この機を宛がわれた空軍パイロット達からは「また海軍のお古かよ」だの「なんだこのブサイク」だの、散々な言われようだった。だが実際に使うにつれてF-100よりも搭載力がよく、攻撃精度も大幅に上回る攻撃機であることが明らかになり、『スラフ』の名はとたんに親しみのこもったものに変わっていった。


タイ海軍のコルセア編集

元々はA-10の導入を目指していた、と言われている。しかし、A-10の30㎜機関砲には劣化ウラン使用の超硬度徹甲弾が用意されており、これが「核兵器にあたるのではないか」という懸念が寄せられた為に中止されたという。


・・・が、実態としては「海軍にいい武器を持たせたくない」という理由が主だろう。

というのも1951年、海軍によるクーデター(未遂)「マンハッタン号事件」が起き、時の首相プレーク・ピブーンソンクラームは拘束され、海防戦艦「スリ・アユタヤ」に監禁されてしまう。首相を暗殺し、新政権樹立を狙ったものと言われているが、首相はその後の奪回作戦のドサクサに紛れて自力にて脱出、川に飛び込んで岸まで泳ぎ着き、なんとか生還した。


この後、タイ海軍は懲罰的な意味もあって規模は大幅縮小されて陸軍の傘下となり、クーデターを起こすどころか予算さえロクに貰えなくなってしまう。そして、ここから「海軍総冷や飯食い」の時代が始まるのである。中古機を買う予算しか寄こさなかったのは、こうした事情も無関係ではないだろう。


なお、この事件で海防戦艦「スリ・アユタヤ」は砲撃により座礁し、首相奪回を恐れてか、航空隊による空襲も受ける。結果、艦は川の航路を塞ぐように大破・沈没したが、事態収拾後に引き上げられた。ちなみに「スリ・アユタヤ」は戦前に輸出された日本製である。


劣化ウラン弾心=核兵器?編集

もちろん該当しない

核兵器とは『原子核反応つまり核分裂または核融合によって放出される熱、爆風および放射線といった高エネルギーを破壊に用いる兵器』(Wikipediaより引用)と定義されている。


劣化ウラン編集

いろいろと話題の絶えない劣化ウランである。

『なぜアメリカは劣化ウランに拘るのか?』

それは原料の調達である。通常、徹甲弾の弾芯にはタングステンという金属を使う。この金属は非常に重いので、とくに高速で飛翔する徹甲弾に使用される。弾芯の重量が重いと発射後の軌道が安定し、装甲貫徹力も高くなるのだが、この金属が産出されるのは主に中国なので、アメリカは調達が困難になる事態を嫌って劣化ウランを使用しているのである。

(日本人なら『レアアースの禁輸』という事態を覚えているだろう)


なお、劣化ウランは原子力発電所の「廃物」であり、安価である。

しかし、加工の難しさ故に高価となり、総合的にはタングステンとの価格差は無いといわれる。


派生型編集

A-7A編集

199機生産された最初の生産型。機銃は20㎜コルトMk.12(250発装弾)を2挺。


A-7B編集

A型のエンジンをTF30-P-408に換装したもの。細かなマイナーチェンジも行って196機製造。


A-7C編集

最初の67機だけはA-7E用のTF41が間に合わなかったため、エンジンだけ従来のTF30-P-408のままとしたもの。他はE型に準じる。


TA-7C編集

2人乗りの練習機型で、B型から24機、C型から36機が改造される。

1984年にはEA-7Lを含む49機がTF41-A-402エンジンに換装される。


A-7D編集

空軍向けとなったA-7で、エンジンはアリソンTF41(ロールスロイスRB168のライセンス生産)としたもの。機銃をM61とし、コクピットではHUDを採用するなど、空軍仕様に対応している。A-1F-100の後継でもあり、459機生産。


のちに訓練用、または機密保持(=追及されても「その部隊はA-7装備ですよ」と言い逃れるため)にF-117部隊にも配備されている。飛行特性が似ていたからとされているが、実際には同じ亜音速機で使い勝手が似てるからという方が近かったのではないだろうか。


A-7E編集

A-7Dをさらに海軍仕様へ改めたもの。電子機器などが変わっており、529機生産。


YA-7F編集

A-10があまりにも普段使いに不便なため、検討されたA-7Dの改良型。エンジンをF100へ改め、超音速機となった。(エンジンの出力に頼った力づく)

安定性強化のために翼が延長されて若干大型となり、搭載力も大きくなったが、そこまでする位ならF-16に対地兵器装備でもいいじゃないかと気づいて不採用にされた。試作機2機が制作され、現在はそれぞれ別の博物館で展示されている。


A-7G編集

スイス空軍向けに計画されたもの。計画のみ。


A-7H編集

ギリシャ空軍向けにA-7Eから空中給油機能を排除したもの。60機製造。


TA-7H編集

練習機型。エンジンがE型仕様な他はTA-7Cに準じる。


A-7K編集

空軍州兵むけに生産された練習機仕様で30機生産。


EA-7L編集

電子戦訓練のためにTA-7Cより8機改造。後席員が電子戦(模擬)を担当。


A-7P編集

ポルトガル空軍向けに輸出されたもので、44機がA-7Aから改造され、電子機器だけA-7E仕様に近づけている。


コルセアの評判編集

音速こそ超えられないものの、多種多様の武装を、しかも大量に搭載できる使い勝手のよさはよく支持された。最大搭載量は約6.8tにもなり、これはMk.82爆弾にして30発分にも及ぶ(実際には連装ラックの重量、投下時に爆弾同士が接触する事もある為、26発しか積めない)。主翼下には左右計6か所のパイロンが設けられ、これは後継機をも上回る。仮に2か所を増槽に使っても、残り4か所は兵装に割り振る事ができるので、この搭載力は重宝された。


実は搭載量そのものならF/A-18の方が優れている(約7.7t)のだが、F/A-18は空気抵抗の大きさが災いして燃費が悪く、航続距離の短さもあって実際の運用ではほぼ常に増漕を3本搭載する姿が見られた。こうなると兵装に使えるパイロンは左右1か所だけで、一部では「A-7に戻せば一挙に解決するのに」という冗談半分に言われる程だったという。この欠点はF/A-18E/Fで主翼を増積し、パイロンも増設する事で対応している。


なお、A-7は戦闘機の設計を使っていた事もあってか、ギリシャやポルトガルでは防空任務の補助にも使われている。A-7は主翼パイロン以外にも、胴体にF-8から引き継がれたAIM-9専用のハードポイントを持っており、搭載力を犠牲にする事なく対応できる。


低速飛行が得意で視界も良く、申し分のない搭載力を武器にA-7は活躍した。特に下方視界は着艦に備えて大きくとられており、これは対地攻撃の際にもよく役立っている。(要求仕様の為とはいえ)音速こそ超えられないものの、これはどのみち外部兵装があると不可能になる事なので、特に不満は聞かれなかったようだ。A-4がエセックス級空母が退役すると共に姿を消したのと違い、A-7はその後も長く残り続けた。最後の実戦投入は湾岸戦争で、この戦争が終わると共に、A-6共々後継をF/A-18に譲って退役している。


さらにF/A-18の名誉のために付け加えると、こちらは最先端の電子機器で身を固め、おかげで操縦も楽にできる点は評価されている。さらにA-7では限定的だった空戦能力も完全に備えており、まさに「どこでもこい!」という機に仕上がっている。


受け継がれる(?)闘志編集

海軍編編集

A-7の後継にはA-18が予定されていたが、開発が進むにつれて戦闘機型と兼ねて配備出来る事が明らかになった。こうしてA-18はF-18と統合され、パイロットは再訓練した上、戦闘・攻撃飛行隊として再出発している。同様にF/A-18飛行隊は、他にもF-4やA-6飛行隊からも人員を吸収している。


空軍編編集

本機の後継にはA-10が採用されたが、あまりにも傾倒した性能なので、一時はA-7の再就役やA-16の採用が検討された事がある。A-7は間違いなく、空軍パイロット達の良き相棒だったのである。しかし、A-7の再就役は叶わず(A-7Fという発展型が計画された)、A-16も不採用となってA-10は現在も現役を務めている。


JSF編(?)編集

後のステルスに対応した機は良く似ているが、ボーイング社とLTV社には一切の関係はなく、どうやら他人の空似だった模様。


海賊よさらば編集

2014年10月17日、ギリシャ空軍最後のA-7飛行隊が解散となり、その歴史に幕を閉じた。

アメリカ海軍では1991年、空軍でも1993年に退役、他にもポルトガルでは1999年に、タイでも2007年からは一線を退いていた。


初飛行から49年。世界を駆け回った『海賊二世』は、ようやく翼を休める事になったのである。


関連タグ編集

攻撃機 F-8

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