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概要編集

徳弘正也が手がけている江戸時代を舞台にした時代劇漫画。2015年から連載。定期的な雑誌連載ではなく書き下ろしでの刊行がされており、それも2巻以降は書籍化されず、電子書籍のみで現在も刊行されている。徳弘曰く、「もう自分の作風・絵柄では今の漫画界で通用しなくなってきたからこうなった」とのことだが、ファンからは根強い支持を得ており、改めて紙媒体での書籍化を望まれている隠れた名作である。ストーリーが短編連作であるため、時々グランドジャンプなどで出張掲載されている。


往年の読者であればタイトルから察せられるが、本作は徳弘お得意の下ネタギャグが山盛りに詰まった内容であり、シェイプアップ乱ジャングルの王者ターちゃんのように軽妙な読み口の作品である。江戸時代の庶民の暮らしや風俗なども詳しく紹介されており、ギャグこそ時空を超越しているが時代劇としては完成度の高い作品である。

一方で、時代劇とは言え徳弘作品特有の社会風刺や人間の負の側面に切り込むタッチは健在であり、江戸時代に於ける苛烈な身分差別やとかく生き難い武家社会といった歴史の暗部もしっかりと描き出されている。


ストーリー編集

時は享保二年の江戸の街。夜は火付け・盗人・兇賊が蔓延るこの町で、提灯片手に夜警を続ける素浪人がいた。名を月並半兵衛、江戸町民からは”もっこり半兵衛”と親しまれているスケベなおっさんである。

しょぼくれた見た目とは裏腹にスゴ腕の剣術使いであるもっこりは、今夜も江戸の街を守り歩く。


今夜も平和な夜でありますように


登場人物編集

  • 月並半兵衛

娘と二人で長屋住まいをしている素浪人。38歳のどこにでも居るしょぼくれたおっさんであり、美人を見るとついつい”もっこり”してしまうことから、「もっこり半兵衛」のあだ名で呼ばれている。

かつては荒巻藩剣術指南役を務めていた剣客であったが、主君の狂気に付き合わされ、真剣試合で人を殺し続ける生活を余儀なくされていた。心底嫌気が差した半兵衛は娘のさおりと共に脱藩し江戸に身を寄せたが、たまたま兇賊に襲われていた元大老:柳沢吉保を助けたことから縁が生まれ、彼から録を貰い江戸の夜警をすることになった。

平凡な名前と見た目に反して筋骨隆々の武人であり、タイマンでは敵無しの強さを誇っている。性格は気さくで人情味があるが、剣術指南役時代に培ってしまった冷血さも内に秘めており、必要とあらば殺人も平然と行えてしまう。本人もこの点を悩んでおり、「人を人とも思わない神様になりかけている」と自戒している。かつての姿を知る者からは今でも「人斬り半兵衛」と呼ばれ恐れられている。


  • さおり

半兵衛の一人娘。まだ八歳だが親に似たのか図太い神経の持ち主。剣術指南時代の半兵衛の妻であった志乃の娘だが、志乃は夫への恐怖から里へ引き籠もり、そこで出会った若侍と情を結んでしまい、さおりを産むと駆け落ちしてしまった。そのため、半兵衛とは血のつながりはないのだが、半兵衛は娘として大切に育てており、親子の絆は大変に深い。普段はだらしない半兵衛を甲斐甲斐しく世話している。


  • 夜鷹たち

第一話から登場する娼婦の中でもドン底の女性たち。特に自称夜鷹3美人のおばさんたちのお松、お竹、お梅の出番が多め。お松には亡くなった亭主の間に出来た息子がいる。夜の江戸を見廻りする半兵衛にとっては人斬りを繰り返し心を失い欠けていた所を救ってくれた大切な存在。夜鷹たちに説得されてからは刀に見えるよう細工した木刀に持ち替えている。それでも斬り殺してしまった悪人の死体処理もしてくれている。仕事柄、情報集めもこなせる半兵衛の頼もしい相棒であり友人たちでもある。


  • お駒

もっこり半兵衛に想いを寄せる元気な娘。初登場は第六話。かつては提重(私娼の一種。重箱に菓子を詰めて売り歩く傍らで売春も請け負っていた。身寄りの無い女性がこの職に就くことが多かった)で生計を立てていたが、客であった旗本の三男坊がストーカー化し無理心中を迫ってきたところをもっこり半兵衛に助けられた。それ以来半兵衛に嫁に貰ってほしいと言いかけるほど惚れ込んでおり、女郎もやめて飴屋として独り立ちしている。その後は度々半兵衛の長屋に出入りしたり、半兵衛が遠出する時には同伴したりと半ば内縁関係になっているので、地元でも半兵衛の女で有名になっている。房総の漁師の娘なので泳ぎが達者。


  • 乱丸

もっこり半兵衛の知り合い。初登場は第九話。陰間(男娼の隠語。武家の次男坊・三男坊などが行き着くことが多かった)の美少年であり、商売柄顔が広く意外な活躍をすることが多い。旗本の四男坊であったことから誰にも必要とされず、家にも居場所がない辛い境遇に身を置いている。半兵衛には兄から陰間になっている事を恥と見なされ、命を狙われていたところを助けられた。武家社会の暗部に人生を狂わされた少年であり、弱者が痛めつけられる身分社会の理不尽を心底憎んでいる。それ故に、誰に対しても優しく接している。


  • 八丁堀

半兵衛の仕事仲間。町奉行の役人だが、勤務態度はいい加減で賄賂をもらうのは当たり前、面倒事を半兵衛に丸投げすることもしばしば。捕らえたスリから失敬した金貨をかじったらニセ金で前歯が欠けてしまう痛い目にも遭ったりする。

それでも要所で半兵衛のサポートはしてくれるので、持ちつ持たれつの腐れ縁といったところか。

第四十三話で姓名は中山というのが判明した。


徳川幕府八代目征夷大将軍。紀州藩の財政難を立て直したやり手の政治家であり、広く人材を収集している。江戸の街の噂話にも耳を通しており、かねてより市井で名を知られているもっこり半兵衛を何度か召し抱えようとしたが、いずれも頓挫している。

享保の改革によって、連座制のような悪法を改正させ汚職官吏を罷免するなど、民衆のためになる政治改革を率先して行ったが、重農・重商主義政策を推進し緊縮財政で幕府の立て直しを図った結果、民衆の生活にしわ寄せが来たこともあり、一概に名君とは言えない存在である。


初登場は第十七話。将軍吉宗の厚い信頼もあり享保の改革の中心人物として活躍した幕臣。一見すると冷酷な印象を抱くが「庶民のために改革する初めての奉行になるかも知れない」と言われる存在であり、命を狙われた所を柳沢家の依頼を受けていた半兵衛に助けられた事が縁となり何かある度に長屋に赴いて仕事の依頼をしたり部下にならないかと勧誘したりしている。ちなみに半兵衛への報酬は地域振興券。心の中で将軍にツッコミを入れたりもする。


嘗て五代将軍・徳川綱吉の時代に権勢を振るった大老、作中開始時点では既に故人。綱吉の死後、失脚による逃亡中の折、夜の江戸城下で襲われていた所を半兵衛に救出される。

その半兵衛の剣の腕を見込み、「江戸の用心棒」として夜間の定町廻りを依頼する。本人曰く「政治家として何一つ庶民の為になる事が出来なかったので、せめて一つくらい人のためになりたい」との事。

本人の死後も、半兵衛の元には依頼料と備品が定期的に送られている。


  • 荒巻藩の藩主

かつて半兵衛を剣術指南役として召し抱えていた殿様。武士道を信奉しており、毎月のように全国から浪人を集めて御前試合を開いていた。しかし、その人格は狂気に染まっており、御前試合の決勝戦では剣術指南役との真剣勝負を行わせ、凄惨な殺し合いを楽しんでいた。半兵衛は5年間もこの凶行に付き合わされ、人生そのものを歪められてしまい、いたたまれず辞職し脱藩してしまった。半兵衛曰く「人を人とも思わない神様」。

後に因果応報の最期を遂げることになってしまった。


  • 紀伊国屋文左衛門

さおりの遊び相手をしている爺さん。伝説的商人である紀伊国屋文左衛門その人であり、隠居して暇を持て余している。引退したとはいえ、その財力はまだまだ健在であり、時々半兵衛を金銭面でサポートしてくれている。一流の経済眼を持った賢者であると同時にかなりの酔狂であり、時折変わった人を見つけては半兵衛に紹介している。


  • 岩井玉五郎

売れっ子歌舞伎役者で初登場は第十八話。実は七年前は最強のチンピラで喧嘩をする日々を送っていたが自分を上回る強さを見せた半兵衛と出会った事で改心し、やりたかった歌舞伎役者になれた。その恩もあって半兵衛に依頼や協力をする事も。半兵衛と同等の背丈と筋肉をしている。十年前に米問屋で盗みを働いて江戸から逃げた父がいる。


  • のぞきばばあ

半兵衛とさおりが住む長屋の隣部屋の住人。大きく欠けた壁穴から半顔を出して半兵衛たちの様子を常に一日中見張っている。夜に留守番をするさおりを見守ってくれているが、時には盗み食いをしたり肝心の時に居なかったりもする。


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徳弘正也

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