〈時は金なり〉
概要
『ジョジョの奇妙な冒険』のスピンオフ漫画『岸辺露伴は動かない』のスピンオフ小説集『岸辺露伴は叫ばない』に収録された小説。北國ばらっどによる書き下ろしの短編作品。
怪談のような裏ワザ、〈取引〉に関する危険な事象を描いた一編。
あらすじ
坂ノ上誠子は不機嫌だった。
彼女は岸辺露伴の顧問税理士だが、その露伴の〈金銭感覚〉に頭を悩ませていたのだ。〈取材〉のためとして山を6つ買い〈破産〉すらする、露伴の金銭感覚に。誠子はなんとか露伴を説こうとするが全く聞く耳を持たない。誠子は怒りのあまりカッターやポールペンを露伴に投げつけるが、それをよそに露伴は落ちた書類の中から見慣れない単語を見つける。
「 …………〈オカミサマ〉……?」
露伴は凄まじい剣幕の誠子にも物怖じせず、好奇心のままにその五文字のカタカナについてたずねた。自分自身に〈取材〉されるよりよっぽどマシだと考えた彼女は、しぶしぶ重い口を開いた。
「………………〈オカミサマ〉はね、狡い裏ワザよ」
「例えば契約書……それこそ領収書でもいいの。」
「取引先を〈オカミサマ〉にする」
「 消してくれるのよ。 」
「 〈お金を払わなくてはならない〉という事実を 」
にわかには信じがたい事柄。だが、誠子は明らかな確信をもって話していた。そして、〈オカミサマ〉は危険だと、必ず〈帳尻を合わせる〉ことが必要になると、そう告げた。そこで話が途絶えてしまったため、半信半疑の露伴はそれ以上金銭感覚についての小言を言われる前に事務所を後にした。
しばらく日が経って、〈オカミサマ〉を思い出した露伴は、その効力を試してみることにした。最寄りの書店で本を購入したのち、領収書の宛名にその五文字を書き入れた。すると────誠子の言った通り、本の代金を払う必要がなくなったではないか。気をよくした露伴は宿泊先のホテルで存分にくつろいでいたが、なにか〈ちぐはぐ〉な印象が……。
─────〈爪が伸びている〉。
指先から爪の先端が数ミリ。
ただの、それだけ。
今日、露伴は〈深爪〉をしていたのに。