カボチャとニシンのパイが嫌いな少女
あたしこのぱいきらいなのよね
CV:鍵本景子
『魔女の宅急便』の登場人物。
オリキャラかつモブキャラではあるが、本作を語るうえでは良くも悪くも欠かせない存在である。
老婦人とその家政婦であるバーサと共に石窯で焼いたカボチャとニシンのパイを豪雨の中なんとか届け先の孫娘の家に持ってきたキキだが、孫娘はキキの眼前で「あたし、このパイ嫌いなのよね」と言い放ち、特に礼のないまま家の扉を閉めてしまう。
老婦人と共にパイを焼き、苦労して届けた矢先に見た彼女の冷淡な態度に、キキの傷心は深く、帰宅後、トンボから誘われていたパーティー(トンボと友達の一人であった事や、彼女の家でもなにかのパーティーらしきイベントが開催されていた事から、トンボの誘っていたパーティーとは彼女の家で行われていた可能性もある)に行く事もなく(キキ自身は、雨で一張羅の服がずぶ濡れになったから、行く事ができない事を言い訳にしていた)、身体も拭かずに寝付いた為、翌朝風邪で高熱を出す事となった。
更にトンボと共に向かった海岸で語らっている最中、車でやってきた彼の友達の中にも彼女がおり、水を差されて不機嫌になったキキは帰ってしまい、その時抱いた負の感情が、決定打になってしまったのか、魔法の力を失ってしまうことになる。なお、宮崎氏の発言などから、キキは特にトンボに恋心を抱いているわけではないので、別に嫉妬ではない。絵コンテには「ハッとなるキキ。表情くもる。助手席にいるのは、あのケーキの少女である。」とある。
(この事から制作時点では届けられる料理はケーキだった可能性がある。ケーキが嫌い、というのがいまいち現実味に欠けるから変更されたのだろうか?)
このようにキキに対してはネガティヴな影響ばかり与えたせいか、ジジ(と多くの視聴者)はあまりいい印象を抱いていない。
とはいえ、彼女自身はキキを見下したり嫌っているわけでもなければ、決して性根から悪い性格というわけでもなく、断っているのにしつこく同じ料理を送ってくる祖母に辟易しているという事情もあるので、彼女だけが悪いというわけでもない。キキが祖母と共に料理していたこともつゆ知らないし、上の言葉もキキにあてつけるように言ったわけでなく単なる愚痴めいた独り言である。
また、飛行船事故のシーンでは友達と一緒にキキを応援しているし、エンディングでは、デッキブラシに乗ったキキに並走して人力飛行機で飛ぶトンボを応援している姿が描かれているなど制作陣営も「ごく普通の少女」として描いている事がわかる(尚、同じくエンディングでパン屋「グーチョキパン店」でキキと楽しげに談笑している少女が彼女という勘違いも多いが、こちらは服装や髪型から、キキが買い物へ行く際すれ違った3人組の少女の一人であるため誤り)。
一連のやり取りについてだが、宮崎駿監督は『キキの認識が甘かった』と見解を示している。
これは、キキは「お金をもらって仕事をしているだけ」に過ぎず、詳細な事情を知らない少女からしてみればキキは単に「祖母からの荷物を届けに来た宅急便の人」でしかなく、少女がキキを気遣わなくてはならない義務はないし、気遣わなかったからといって責められなければならない理由もない。
つまり、キキが落ち込んだのは『荷物を運んだら感謝されるのが当たり前』と言う認識だったキキが自分の甘さを思い知った、その苦い経験を活かしてキキは成長していくという見解、だそうな。
そもそも、人間誰しも気づかぬ内に他人に不快な思いをさせてしまうことがあるかもしれない。
顧客が配達員や店員などに親切に気遣うことはそうそうなく、気遣わなくてはならない義務はない、にもかかわらずそれを棚に挙げて少女を批判してしまう、という所が「このシーンの一番辛い所」と宮崎監督は指摘している。
ネット上では実際にカボチャとニシンのパイを作ってみた人も多い。
使われている魚は様々でムニエルだったり、甘露煮だったりと人によって様々だが今や高級魚となってしまったニシンがスーパーに並ぶことがそうそうないためか、大抵は他の白身魚で代用されている。
ほとんどはホワイトソースも使われているが、肝心の公式設定ではそれが使われているのか不明。
そもそも本作の舞台は「架空のヨーロッパ」であって現実のヨーロッパではなく、作中のパイも特に実在のレシピに基づいたものというわけではない。
元ネタは恐らくイギリスの伝統料理『スターゲイジーパイ』と思われるが、厳密には異なるレシピである。
詳細はリンク先を参照に。
大泉洋:「あたし、このパイ嫌いなのよね」に対する返しに、彼の「おいパイ食わねぇか」が使われる。尤もこちらに至ってはパイに限らず料理の腕自体がガチで嫌われ受け取りすら拒否されてもおかしくない有様なため、言われる分にはある意味正統性がある。