概要
HTB制作のローカルバラエティ番組『水曜どうでしょう』の歴史に燦然と輝く珠玉の名言。
番組内で表示されたテロップは記事名と同じものだが、pixiv上では
- パイ食わねぇか:「え」が長音化しているが呼び掛けの「おい」を含んでいない
- おいパイ食わねえか:呼び掛けの「おい」を含むものの「え」が長音化していない
- おいパイ食わねぇか?:呼び掛けの「おい」を含み「え」も長音化しているが疑問符を含む
の3種類が誤用されている。
構成
発端
1999年、夏。番組の顔とも言える大泉洋の料理自慢(自称)を反映した企画『シェフ大泉 夏野菜スペシャル』の収録が始まった。ところが、この企画は超長期撮影が大前提である事実を大泉だけに伏せた壮大なドッキリ計画「日本一長い料理番組」であり、単に腕を奮って夏野菜を料理するとしか想像していなかった大泉は小さな畑に連れて行かれた上で「まずは野菜から育てる」と明かされた趣旨に愕然とし、鈴井貴之と安田顕の3人で丸1日かけて開墾から種蒔きまで済ませる羽目になった。
「ホクレン!!」
そして、この日のために知り合いの料理人に頼み込んで準備した特注のパイ生地は、日の目を見ぬままに撤収を余儀無くされた。
消沈
一月半が過ぎた頃、幾らか育ったであろう夏野菜の収穫を名目に再び畑に足を運び、想像以上の生育状況を確認して今度こそ料理が出来ると思いきや、急に眼前で「食器が無い」「無くてどうするんだ」というスタッフ同士の口喧嘩が始まり、不安を覚えて必死に食い下がる大泉の抵抗も虚しく、今度は皿作りのために農園から陶芸工房に直行する運びとなった。
憤懣やるかたないその姿を見て宥めようと近付いたonちゃんに怒りの矛先を向け、殴り倒して八つ当たりする暴挙に及ぶも事態は何ら変わらず、当然の如く持参していた2度目のパイ生地も愛用のコアントローと共に泣く泣く農園を後にした。
「なぐさめんなよお前!!」
覚醒
陶芸工房へ向かう移動車中で半ば放心状態に陥り、知り合いの料理人から「アンタだまされてんだから」「皿でも焼くんじゃないですか」と窘められても「何言ってんだよ、そんな訳無いだろ」と強気に出てパイ生地の仕込みを頼んだ経緯を明かし、その忠告通りに体よく騙されて望みもしない皿作りに赴く現実をどうにか受け入れようと必死にもがき始めた。
「皿を焼きに今ちょっと…、寄ったの」
「そしたらまだトマトは青かった…」
藤村「皿は一週間くらいかかりますから…」
「そおー。そうでしょお?じゃあ生地を作ったら早いの」
藤村「でも…でも言わせてもらったらアレだよ?」
そんな折、大泉一行を帯同していたヒゲがとんでもないことを言い始める。
藤村「何もね…」
「おぉ」
藤村「料理をやるからっていってね」
「おぉ」
藤村「テメェで勝手にね、イタリア料理屋まで前日出向いてね、パイ生地練ってもらうなんて、こっちは一言も頼んでないわけだから…」
「ほほほほほ…」
藤村「店長に悪いとか何とか、確かに店長悪いさ…でも悪いのは君だろ?」
なんとこのヒゲ、料理のためにわざわざパイ生地を持参した大泉に対し自業自得だなどとほざいたのだ。
藤村「パイ生地練ればいいわけだろ、テメェで」
「おーおーおー。うーん、なるほどなるほど」
この一言が大泉の逆鱗に触れ…
大泉「なるほどぉぉ」
鈴井「ははははは…」
「んー、良いこと言うじゃねぇか」
「おーい!藤村くぅん!」
の怒号一声をきっかけに放心状態から一気に息を吹き返し、鈴井の笑顔は引きつり藤村も慄き始める。
藤村「いや、だって…そうだろ?」
「えぇ?てめぇ気持ちいいこと言うなぁ」
「おーい」
こうして、言葉巧みに辛辣なボヤキを朗々と語る大泉劇場の幕が上がった。
脅迫
卓越したボヤキを紡ぎ出す大泉の舌は一言毎にその鋭さと滑らかさを増し、遂には
「藤村くん。君の肉親を、オレはァどんどん、おみまいしてくぞぉ…」
「君に近い者から順番にな…!」
「待ってろ…待ってろ藤村一族…」
と、藤村当人ではなく彼の家族へ怒りの矛先を向ける脅迫に変わっていった。
藤村「家族に手ェ出すなよ…」
「何言ってんだよ…」
「選べよ。名古屋(藤村Dの実家)か?それとも、君の家か?行くぞ俺は。パイが腐らねえうちに」
パイ生地が腐って使えなくなる前におみまいしなければならない事情から、まずは手近な藤村の自宅に行く前提で、
「どーも奥さん。知ってるでしょう? 大泉洋でございます」
「おいパイ食わねぇか」
藤村・鈴井「ははははは…」
嬉野「クックックックッ…」
「子供たちもおいで。パイ焼くぞぉ」
藤村「怖え!」
「辛いかい? おじさんはもっと辛い物を、君のお父さんに食べさせられてるんだよ」
「残さず食えよ」
と語り、常日頃の鬱憤晴らしとばかりに恐るべき復讐計画の全貌を次々と明かしていった。
藤村「片手にこう包丁持って…座ってるワケだろ?シェフの格好したヤツが俺んちで」
「そぉだよ…」
藤村「で、もううちのカミさんがもう泣きながら『私が食べます!』ってこう…」
「そぉだよ、お前も食えよぉ」
「そしてそれが終わったらオレは名古屋に飛ぶんだ」
藤村・鈴井「ははははは…」
嬉野「クックックック…ッ」
「お母さーん。知ってるでしょう? 大泉でございます」
「パイ食わねぇか」
「名古屋だったら急がねぇとな。皿焼いたらすぐ行くよ」
「お母さん今行きますよ。パイを届けにね…」
(なお、この回の『後枠』の大泉の服装は上記のイラストに近いものであった)
その一部始終はこちら。
ちなみに、迷言誕生の直前に嬉野Dが撮影を中断したことに立腹した大泉が藤村に対し、
「君のお母さんは名古屋に住んでるのかい?」
藤村「おふくろに何するつもりだよ!」
「この腐りかけたパイ生地を送りつけてやろうかと思ってな」
藤村「おい!おれの家族に手を出すな!」
…という脅迫を行い、慌てて嬉野Dが撮影を再開したという経緯がある。
なお、この時大泉はテレビで放送できないレベルでマジギレしていた。本放送時に大泉本人の姿がほとんど映されていないのはこのためである(藤村Dは編集作業の際に「車内の会話で『大泉が本当に怒ってるのが視聴者に分からない様に』短く編集した」とDVDの副音声で明かしており、一方で鈴井は、この時「番組の流れとはいえ、車内が険悪なムードだったにも拘わらず藤村Dが大泉へ辛辣な言葉を煽るように掛け続けた」事で、後の総集編で「残りのメンバーは内心冷や冷やだった」と述懐している)。
このドッキリ当日、張り切っている大泉を見てミスターと藤村は「マジで怒るな…」と思ったとのこと。
DVDでは「12年(当時)経ったら笑い話になるから」という事でこの場面が長めに編集されたほか、本編で割愛された部分も特典映像として公開されている。
結果
どうにか藤村家の危機を乗り越えた約半月後、合計69日目でようやく企画の(表面上の)骨子である『炎の料理人 シェフ大泉』の収録を迎え、ここに来てようやく大泉自慢の特注パイ生地が料理に使われる絶好の機会を得た。
ところが、このパイ生地を使って作られた渾身のメインディッシュ『夏野菜の料理 びっくりカルツォーネ風』(鯛の腹に生米と未熟な青トマトを詰めたパイ包み焼き)は「鯛は美味いが詰め物が酷く不味い」という両極端な料理となり、調理した大泉本人をも試食を経て「おぉぉう」「これはまずい」と全否定する衝撃の一品となった。
結局、2度の廃棄処分を経てやっと調理に漕ぎ着けた3度目のパイ生地も、その本領を発揮出来ないままに役目を終えたのである。
その後
全編に渡って騙されっぷりに定評のある大泉の魅力を存分に引き出し、その中でも特に移動車内での一連のやり取りがまるで予め用意されていた台本に沿っているかのような秀逸な内容であったため、後に「豊穣の年」と絶賛される所以となった同1999年の大騒動『だるま屋ウィリー事件』『インキーマン』『ここをキャンプ地とする』と共に番組発の名物として広く知られるようになった。
それから6年後、2005年度ファン感謝祭『水曜どうでしょう祭』の中で視聴者投票に基づいて選定された『あなたが選ぶ! 第1回どうでミー賞!!』の集計結果が発表され、6271票の圧倒的大差で名セリフ部門の第一位(第二位『ここをキャンプ地とする』とは3513票差)に輝き、さらには8年後の2013年度ファン感謝祭で第2回同賞同部門第一位を獲得する「史上唯一のどうでミー賞V2」を達成する偉業を成し遂げ、この功績を以って番組を象徴する名言の頂点に君臨した。
受賞時のタイトルは第1回、第2回共に『どーも 奥さん 知ってるでしょ? 大泉でございます おいパイ食わねぇか』。
余談
14年目の真実
V2達成直後の公開生対決『シェフ大泉vs板長鈴井』試合開始前に大泉が呼んだ特別ゲストで件の料理人が壇上に現れた際、藤村から当時を回顧するインタビューを受ける中で何の前触れも無く「そもそも、パイ生地じゃない…」という爆弾発言が飛び出し、会場の全員を戦慄させた。
その後も、
「前回までのもそうなんスけど、塩パン焼きっていう…」
「ボク、何度かお客さんに怒られた事がある。『店長あれパイじゃないですよね?』『パイ生地は練らないでしょ?』って」
「今日のはこれ…、限りなくピザ生地に…近い」
と、驚愕の真相が本人の口から全て明かされた。
つまり、大泉が14年前に「パイ包み焼き用のパイ生地」だと信じ込んでいた生地の正体は、3度が3度とも「『塩パン包み焼き』(フランス・アルザス地方の伝統料理)用のパン生地」であり、生対決用に準備してもらった4度目の生地に至ってはパイ生地どころか「ピザ生地の製法で仕込んだパン生地」だったのである。無論、この生地を使って作られた対決料理の2品目『アップルパイ』(という名のりんごのパン包み焼き)は、いかにもシェフ大泉らしい奇天烈な一品に仕上がった。
※補足:一般的なパン生地で用いられる練り込み製法とは違い、パイ生地は折り込み製法を用いて作られるものであるため「パイ生地を練る」という表現はあり得ない
なお、2019年のどうでしょう祭大泉洋プロデュースのグッズの一つに「パイ食わねぇか」をネタにしたトートバッグがある。作ったのはなんと例のパイ生地を練った張本人なのだそう(料理人からカバン職人に転身しており、『おにぎりあたためますか』にも登場している)。
リベンジ?
『対決列島』で勝利した藤村の主導企画『ユーコン川160キロ 地獄の6日間』におけるテント内のやり取りで、大泉が藤村に「熊が出たら君に熱々のパイをぶつけてやる」と宣言するシーンがある。
これは、川下り開始前にどうでしょう班全員が受けた説明の1つ「熊に対する注意」に深く関係しており、「食べ物や匂いのするものをテントの中に絶対入れない事」(匂いを嗅ぎ付けた熊がキャンプを襲うため)の中で、熊が好む甘い匂いを出すものには特に気を付けるよう訓告されていたにもかかわらず、お構いなしとばかりに甘いパイを堪能して悠然とテントで枕を並べた藤村に対する痛烈な皮肉である。
なお、同企画で大泉はパイクフィッシュ(日本名カワカマス)を調理しようとしていたが、肝心のパイクフィッシュが用意されておらず、幸か不幸か幻の一品に終わった(その後もっととんでもない悪夢の一品「グレーリング飯」を作り出して料理担当を外されたが)。
関連タグ
あたしこのパイ嫌いなのよね:何故かパイくらいしか接点のないこのセリフに対する返しとして使われることもあるが、上記の通り発言者じゃなくても料理するつもりの本人なりできたパイなりをガチで蹴り飛ばしてでも拒絶したくなるような代物しか作れない大泉はむしろ言われて当然かもしれない。