概要
「ノウンスペース」とはアメリカの作家ラリー・ニーヴンによるSF小説シリーズ。シリーズ名のノウンスペースとは、既知空域を意味し人類が進出している領域を指す。超巨大人工建造物「リングワールド」、絶対に壊れない宇宙船の船殻を売っている「ゼネラル・プロダクツ」、時を封じ込める力場「停滞フィールド」などで知られている。
主な歴史
ノウンスペースの作品はいくつかの時代に分けられる。
1900年代後半〜2100年まで
臓器銀行技術が実用化。有人宇宙船による太陽系の各惑星の探査が進む。鯨族、海豚族に市民権が与えられる。小惑星帯(ベルト)に植民が進む。恒星間調査用のラムロボットが発進。
- 『いちばん寒い場所』『地獄で立ち往生』など
2100年代〜
ルーカス・ガーナーと〈ARM〉のギル・ハミルトンの時代。
地球人口が180億人を越え臓器銀行問題が最悪の時代。停滞フィールドの中で時の停まったスリント人クザノールが海底から引き揚げらる。パク人のフスツポクが太陽系に到着する。ジンクス、マウント・ルッキットザット、ウイ・メイド・イット・ウンダーランドに入植が始まる。
- 『プタヴの世界』『不完全な死体』『プロテクター』など
2340年〜
ホーム星に入植完了。中性子星BVS-1がある人物によって発見される。クジン人との最初の接触。ジンクスの知識学会研究所が細胞賦活剤を完成させる。人間-クジン第一次戦争の勃発。
- 『戦士たち』『地球からの贈り物』『狂気の倫理』など
2500年〜
クジン人との戦争を度々繰り返す。ピアスンのパペッティア人ほかいくつかの異星種族と接触。クジン人との戦争が終結後は比較的平和な時期が続く。
- 『銀河の《核》へ』『太陽系辺境空域』『中性子星』など
2800年〜
トリノック人と接触。リングワールドへの調査。
- 『退き潮』『リングワールドなど』
主な種族
宇宙へ進出しており、約30光年の球形の活動領域は既知空域《ノウンスペース》と呼ばれている。
宇宙航行技術、高度な臓器移植技術、細胞賦活剤、転移ボックスなどを持っている。
小惑星帯や他の恒星系の惑星に植民しておりそれぞれに異なる文化を持つ。
一度も地球を出たことがない地球生まれを意味するスラングの平地人(フラットランダー)、小惑星帯に住む小惑星帯人(ベルター)、高重力惑星ジンクス生まれでガッシリした体格のジンクス人などがいる。
3本の脚がついている馬のような胴体から、2本の蛇のような腕兼頭が生えている種族。
2本の腕兼頭の先にある一つの目でものを見て、こぶ状の唇と二又に分かれた舌をものを持つ。脳は頭ではなく胴体の中に収まっている。背中に生えているたてがみを編んで社会的地位や役職を示す。2人の男性と1人の女性がつがいになって繁殖を行う。性格は非常に臆病で慎重。草食動物から進化したため主な食べ物は植物。
銀河を股にかける商業ネットワークを構築していたが、ある時一部のパペッティア人を残してノウンスペースを去った。人類など異種族の前に姿を表すことができるパペッティア人は、彼らの社会では重度の精神障害者のように見なされている。慎重が美徳とされるパペッティア人の社会では、危険を冒すような気質は本来ありえないはずだからである。
二足歩行の猫のような種族。
非常に獰猛で好戦的な気質を持つ。かつて人類との間で戦争があったが敗れる。貴族や社会的地位を持たない者は名前を持たず役職名で呼ばれる。主な食べ物は生肉。
高度な精神操作能力で十数億年前に星間帝国を築いていた種族。
奴隷使い(スレイヴァー)とも呼ばれる。
全身は緑の鱗。目は大きな単眼。口の横には食事用のひげが付いている。身長は人類よりも低い。
星間帝国は崩壊したが、彼らが残したテクノロジーは今も宇宙の各所に残されている。
かつてスリント人の奴隷であった種族。
人類よりも背が低いスリント人から見ても小柄。高度な生命科学技術を持ち、サンフラワー(ひまわり)、バンダースナッチなど多くの生物をスリント人のために作り上げた。
高重力惑星ジンクスの海洋で発見された地球外生命体。
スリント人は「ホワイトフード」と呼んでいる。地球人は「おどろしきバンダースナッチ(Frumious bandersnatch) 」と名付けた。
数十メートルの大きさと、60トンを超す白い巨大なナメクジのような形をした巨大生物。竜脚類のような首が生えており、頭の先に感覚器官として機能する毛の房が付いている。身体の底にある巨大な口で酵母をすくい取って食べる。首の先にある骨の中に細長い脳が収まっている。重さ5キロの心臓を6つ持つ。出芽によって無性生殖を行う。全身が一個の細胞で構成されており、染色体が非常に長く厚いため、放射線に強い耐性を持ち、突然変異を起こさない。
スリント人の家畜としてトゥヌクティプ人に作られた。スリント人の星間帝国が崩壊し15億年が経っても同じ姿のまま存在し続けている。スリント人達は知性を持たない生物だと思っていたが…?
『プタヴの世界』、『リングワールド』などに登場する。
情報の交易屋を営む、高度な科学技術を持つ異星人。
エネルギー源を得る手段は電熱作用。頭を陽に向け、尾を日陰に置いておくことで電流を発生させる。そのため居住地では日陰を作る低い壁のある迷路のようになっている。
巨大惑星の周囲を巡る低温かつ低重力の衛星で進化したと推測されている。
主な登場人物
地球人
2100年代
- ルーカス・ガーナー
国際連合の捜査機関である〈ARM〉の捜査官。
非常に高齢で2100年代の時点で180歳を越えている。脊髄神経が摩耗し脚を動かせないため車椅子で移動する。長命者達のクラブであるストラルドブラックス・クラブのメンバー。
- ギル・ハミルトン
〈ARM〉の捜査官でありルーカス・ガーナーの部下。生身の腕と同じ範囲までしか届かない代わりに、物体を透過し触感さえある「想像の腕」というサイコキネシスの持ち主。
地球で生まれたが小惑星帯に移り住み、小惑星の採掘をしていたが事故で片腕を失う。失った片腕で爪ヤスリを掴もうとした際にサイコキネシスの発現に気づく。小惑星帯でしばらく「想像の腕」を使って働いていたが、失った右腕の移植費用を稼ぐため地球に降り立ち〈ARM〉の捜査官となった。臓器密売犯罪組織を追う。
2600年代
- ベーオウルフ・シェイファー
パイロット。アルビノだが、皮膚に色素を定着させる薬を服用しているため褐色の肌を持つ。ナカムラ宙航に勤めていたが会社が倒産したため無職になる。パペッティア人に依頼され、中性子星や、銀河の核などへと調査に向かう。
『中性子星』、『太陽系辺境空域』、『銀河の核へ』などに登場。
2800年代
- ルイス・ウー
200歳の冒険家。髪は辮髪にしている。トリノック人とのファーストコンタクトを成し遂げた人物。パペッティア人のネサスに連れられリングワールドへと向かう。
『リングワールド』、『リングワールド ふたたび』などに登場。
- ティーラ・ブラウン
20歳の女性。奇妙な幸運の持ち主。出生の秘密を理由にパペッティア人のネサスにスカウトされる。
『リングワールド』、『リングワールド ふたたび』などに登場。
パペッティア人
- ネサス
リングワールド調査の指揮を取るパペッティア人。背中のたてがみはボサボサ。
年齢は300歳以上。女性のような声で話す。パペッティア人の社会では重度の精神疾患のようなものだと見なされており、子どもを作ることが許されていない。躁鬱気味で鬱期に入ると頭と脚を折りたたんでボールのようになったまま動かなくなる。自身の種族のセックスのことについては奥手なたち。名前はケンタウロスのネッソスに由来する。
『リングワールド』、『ソフト・ウェポン』などに登場。
- 至後者(ハインドモースト)
パペッティア人社会における実験党(エクスペリメンタリスト)の党首。社会的地位は高く、背中のたてがみを編み込んだり染めたり、髪飾りを付けたりしている。至後者という名称は後ろで指令を出す者というような意味で、人類の言葉に逐語的に訳したもの。
『リングワールド』、『リングワールド ふたたび』などに登場。
その他
- 〈獣への話し手〉(スピーカー・トゥ・アニマルズ)
外交官や通訳に相当する役職を持つクジン人。オレンジ色の毛皮を持つ。ネサスにスカウトされリングワールドに赴く。クジン人らしく武闘派で宇宙船を乗っ取ろうと企てるが阻止される。先行しがちなせいか割と散々な目に合う。リングワールドの冒険で得た功績によって『ハミィ』の名前が与えられる。
『リングワールド』、『リングワールド ふたたび』などに登場。
- クザノール
スリント人最後の生き残り。
宇宙船のトラブルが起きたため、宇宙服の安全装置である停滞フィールドに包まれて救助を待とうとしたが、その間にスリント人の星間帝国は滅亡してしまう。救助されることなく15億年が経過し、イルカたちに発見され人類に〈海の像〉と名付けられる。〈海の象〉が停滞フィールドに包まれた異星人なのではないかと疑った科学者達は、テレパスであるラリイ・グリーンバーグにコンタクトを依頼するが……。
『プタヴの世界』に登場。
技術・用語
- 臓器銀行(オーガン・バンク)
非常に高度な臓器移植技術。この技術によって人類の寿命は伸びたが、臓器不足に陥ったため死刑囚の臓器を臓器移植に使う法案が可決される。慢性的な臓器不足と人口増加に伴い、2100年代では信号無視や虚偽広告などの軽微な罪でも死刑となる社会になってしまう。健康な人間を誘拐して臓器を売る臓器密売犯罪組織なども横行するようになってしまった。
- 細胞賦活剤(ブースターバイパス)
ジンクスの知識学会研究所によって開発された不老化技術。人類はこの薬剤を投与することで数百年の寿命を得ている。この技術が開発されたことで臓器銀行問題は減っていった。
- 停滞フィールド(ステイシス・フィールド)
時間の流れを極端に遅くさせる力場を発生させるテクノロジー。停滞状態(ステイシス)の物体は時間が止まっているため決して変化することがない。境界面はあらゆる波長の電磁波を跳ね返すため鏡面状。生命体の安全性を確保する緊急装置や、長期間の宇宙航行時に使われる。かつてスリント人が使っていたためスレイヴァー式停滞フィールドと呼ばれている。
『プタヴの世界』、『リングワールド』など多くの作品に登場。
- 自在剣(ヴァリアブル・ソード)
単分子チェーンを停滞フィールドで包み込んだ武器。けん玉のような形状をしており、グリップの先に赤い球が付いている。剣を使用する際は、グリップの先から単分子チェーンの紐が伸び、停滞フィールドが包み込み剛体になることで目に見えないサイズの細い剣になる。スリント人が使っていた。
『リングワールド』などに登場。
- ゼネラル・プロダクツ社製の船殻
パペッティア人の会社が販売している宇宙船用の船殻。船殻は透明で、可視光を除きあらゆるものを通さず絶対に壊れない、という売り文句で売られている。用途に合わせていくつかの種類がある。パペッティア人がノウンスペースから撤退後は価格が高騰している。
- 1号船殻:バスケットボールほどの大きさの球形。主に無人探査機などに使われる。
- 2号船殻:長さ90m、直径6mほどの円筒形。両端が尖り、船尾のほうに蜂の腰のようなくびれがある。
- 3号船殻:円筒形を横にして平たくし、前後を潰したような形。ガリガリくんのような棒アイスの形状に近い。
- 4号船殻:直径300mを越える透明な球形。
『中性子星』、『銀河の核へ』、『リングワールド』などに登場。
ちなみに、アニメ制作会社ガイナックスの前身となったSF専門店「ゼネラルプロダクツ」は、これに由来している。
- 転移ボックス・跳躍円盤(ステッピング・ディスク)
一種のテレポート装置。人類が作った転移ボックスは密閉された小部屋の箱型。パペッティア人の作った跳躍円盤は開放式でより洗練されている。
『リングワールド』などに登場。
- 自動医療装置(オートドック)
治療を自動で行なってくれるベッド。かなり複雑な手術も行えるため人間の外科医は殆どいなくなっている。
- ドラウド
頭に装着し、電力と接続することで脳の快楽中枢に直接働きかけて快楽の虜にする装置。この装置の依存性になった者は電流中毒(ワイアヘッド)と呼ばれる。
- タスプ
生物の快楽中枢を遠隔操作して骨抜きにする道具。この道具を使うことは春を送ると呼ばれる。
- 再生調理装置
食品を合成する装置。地球人向けの料理からクジン人向けの生肉、パペッティア人向けの植物など大体の食品が作れる。
宇宙船など
- スカイダイヴァー号
ゼネラル・プロダクツ2号船殻の宇宙船。大きな核融合モーター、レーザー砲を搭載。ベーオウルフ・シェイファーが搭乗し、中性子星の調査に向かう。スカイダイヴァーは「逆落とし」の意味。
『中性子星』に登場。
- ロングショット号
ゼネラル・プロダクツ4号船殻の宇宙船。直径300m以上の球形。核融合エンジンを搭載。ベーオウルフ・シェイファーはこの巨大宇宙船で銀河の核へと向かった。『リングワールド』の時代にも残っており、ルイス一行はこの宇宙船でパペッティア人の惑星船団へと向かう。ロングショットとはギャンブルのスラングで「のるかそるか」の意味でベーオウルフが名付けた。
『銀河の核へ』『リングワールド』に登場。
物語の舞台
- 地球
2100年代の時点で総人口180億人を越えている。そのため非常に混み合っている。犯罪として取り締まりきれないためスリが犯罪ではなくなっている。
- 小惑星帯(ベルト)
地球と比べて自主独立精神が強い。地球と小惑星帯はお互いの資源に依存しているためか戦争などは起こっていない。
- 中性子星BVS=1
最初に発見された中性子星。ゼネラルプロダクツ製船殻の宇宙船に乗った地球人の科学者2人が調査に向かうが、未知の力によって船体内部は損傷し、2人の乗員は死んでしまう。パペッティア人に調査を依頼された地球人ベーオウルフ・シェイファーは宇宙船に乗ってそこに向かうが……。
『中性子星』に登場。
- リングワールド
リング状の超巨大人工建造物。幅160万km、長さ10億km、半径1億5千万km(約1天文単位)の円環。約1,200,000 m/sほどのスピードで回転することで人工重力を作り出している。リングの縁には高さ1600kmほどの外壁があり大気を押しとどめている。
恒星の周囲を周回する20枚の巨大な長方形型の遮光板(シャドウ・スクエア)が日光を遮ることで30時間周期の昼夜を作り出す。
リングワールドの居住可能面積は960兆平方km。これは地球の地球の面積の300万倍にあたる。
『リングワールド』の発表後、「リングワールドは力学的に不安定であり、少しのズレが拡大していき、いすれ恒星と接触する」という読者からの指摘が相次いだ。続編の『リングワールド ふたたび』ではリングワールドの中心軸がズレ、リングワールドに崩壊の危機が訪れる。
『リングワールド』、『リングワールド ふたたび』などに登場。