概要
人差し指と中指を並べ、ボールにある縫い目に交差させて握り、リリースの際にバックスピンをかけて投げる。日本ではストレート、真っすぐ、直球と呼ばれている球。
他の変化球に比べるとほぼ変化しないため、投手全体で見れば野球の投手が投げる球の種類の中では失点に繋がるリスクが最も高い。実際にMLBではNPBよりも投球割合が低く、NPBでも投球割合は低くなってきている。
しかし全球種の中で最もスピードが出るため、変化球を活かすために投げる必要がある球でもある。投球割合も減ってきているというだけで、まだ一番多い。
またそのMLBにおいても「フライボール革命」によるアッパースイング対策として高めの直球を使う投手が増えつつあり、フォーシームを軸に緩急をつけた変化球を組み合わせるという古典的な投法に回帰しつつある。
フォーシームの失点リスクを下げる
上述のように全球種の中で最も失点リスクが高いフォーシームだが、球速、制球力、投球フォーム、縦の変化量などの要素で打たれにくくしたり、更には決め球に昇華することが出来る。
球速
球の速さ。球質や投球コースなどによって多少異なってくるが、基本的には速ければ速いほど失点リスクが下がる。MLBでは160km/h以上になると失点リスクがかなり下がることがデータで判明している。
制球力
コントロール。ストライクゾーンの内角低め以外は真ん中から隅に行けば行くほど失点リスクが下がる。特に外角低めは失点リスクが低い。失点リスクが低いコースに正確に投げ込めるコントロールを身に着けることで同じ球速でも打たれにくくすることが可能。また、そもそもストライクが入らないと抑えられない。
投球フォーム
投球フォームのリズムを変則的なものにしたり、ボールを持っている手をなるべく隠したりといった工夫をすることで、同じ球速でもタイミングを取りづらくすることができ、体感速度を上げることに繋がる。
縦の変化量
フォーシームの縦の変化量のこと。フォーシームは重力に引っ張られ少しずつ落ちているのだが、重力に逆らう縦の変化量を増やすことにより打者の体感速度を上げることができ、変化量が優秀であれば空振りも取れる。そのため同じ球速でも縦の変化量を増やすことでより失点リスクを下げることが出来る。日本ではこのようなボールを、のびてくる・ノビがあると表現することが多い。
縦の変化量に必要な要素は後述。
ライジング・ファストボール
以下の3つの要素により、浮き上がるように見えるフォーシームを投げ空振りを取ることができ、MLBではこれがライジング・ファストボールと呼ばれている。
回転数
投手が投げたボールの1分間あたりの回転数のこと。多ければ多いほどマグヌス効果による揚力を得ることができ、重力に逆らう縦の変化が増える。ただし、後述するジャイロスピンの割合によっては同じ回転数でも縦の変化に与える影響が異なってくる。単位はrpmで、MLBの平均は約2200rpm。
回転効率
投手が投げたボールのトゥルースピンの割合のこと。ボールの回転には変化量や変化方向に影響を与えるトゥルースピン(トップスピン、バックスピン、サイドスピンが当てはまる)と空気抵抗に影響を与えるジャイロスピンがあり、ジャイロスピンは実際の変化量、変化方向に影響を与えないため、回転効率的には余分な回転ということになる。
トゥルースピンの内、トップスピン、サイドスピンはそれぞれ重力に逆らう縦の変化とは別の方向に影響を与えるため、フォーシームの縦変化量においてはジャイロスピンの割合が低いバックスピンが重要。
ちなみに、ジャイロスピンは空気抵抗を減らす効果があるため純粋なジャイロスピンの場合は初速と終速の差が少なく下へと自由落下するボールとなる。
VAA
Vertical Approach Angleの略で、リリースされたボールがホームプレートに到達するまでの角度のこと。4度に近づけば近づくほど速球の質が向上し、空振り率も高くなることがデータで判明している。リリースポイントを低くしたり、高めに投球することでVAAを活かすことが出来る。縦変化量が多いボールを投げおろしてしまうとせっかくの縦変化量を活かせないということだろう。
ちなみに、縦変化量が優秀ではなくてもこのVAAの特徴を活用することで浮き上がるような軌道にすることができ、空振りを取れる。
実例
ここでは上述の要素を用いて実際に活躍したプロ野球選手を紹介する
藤川球児
球速、制球力、縦の変化量を活用した阪神~CHC~TEX~高知FD~阪神の選手。
全盛期の球速はMAX156km/h、平均は149km/h。現在では抜群に速いというわけではないが、全盛期は2005~2009あたりであり当時としては速い。
制球力は、2006年度の与四球率が2.50でちょうど2.50以上が優秀とされる。
縦の変化量については、統計学者の鳥越規央氏によるとフォーシームの全盛期の縦変化量は2700rpmという驚異的な回転数と、5度というかなり0度に近い回転軸により推定60cmとされている。MLBでは50cm以上が優秀とされ、60cmはトップクラスであるため公式球の違いはあれどMLBトップクラスの変化量のフォーシームを投げていたということになる。
このフォーシームは対戦打者やファンに強烈な印象を与え、清原和博の「20年見た中でナンバーワン。火の玉や」という発言から火の玉ストレートと呼ばれている。
実際に2006年は阪神で63試合79.1回防御率0.68と圧倒的な成績を残しており、フォーシームの投球割合は77%だった。空振り率は21%と縦変化量の割には低いが、おそらくこれは極端に高い投球割合により打者がボールを見る機会が多かったからだと思われる。
ちなみに藤川本人は高めへの投球を意識していると発言しており、フォームも沈み込んで投げるフォームであるため高めのフォーシームはVAAの角度が4度に近かった可能性が高い。
上原浩治
制球力、投球フォーム、縦の変化量を活用した巨人~BAL~TEX~BOS~CHC~巨人の選手。
制球力は日本人選手のなかでも歴代トップクラス。シーズン最多四死球は2001年の33。通算でも20年間で323と少ない。奪三振を与四球で割るK/BBでは、生涯1000イニング以上投げた投手の中では日本プロ野球歴代最高の通算6.68。
投球フォームは投球動作の前半は腕が体の陰に隠れており、球持ちが非常に短いフォーム。一般的には球持ちは長いほうが良いとされているが、逆に極端に短いためテイクバックからボールを離すまでの時間が短く、球の出所が見えづらくなっている。MLB在籍時の同僚からも「見極める時間が無い」、「ど真ん中の速球が、投げられてから半分通過するまで判らない」、「投げた瞬間、ボールがストライクかどうかは高めに外れた時以外は判別できない」といった評価をされている。
縦の変化量は52cm。50cm以上の優秀な変化量であるため、スプリットや利き手側に動かしたフォーシームの効果もあるとはいえ平均144.5km/hと遅めの球速でも空振りを取れている。
実際に2013年はBOSで73試合74.1回防御率1.09という成績を残しており、フォーシームの投球割合は46%と半分に近い数字だった。空振り率もフォーシームとシンカーと認識されているフォーシーム(本人は投げれないと発言しているため)を合わせた平均が28%と高い数字になっている。
佐々木朗希
球速、制球力を活用したロッテの選手。令和の怪物と呼ばれている。
2022年はMAX164km/h、平均158km/hと圧倒的な球速を記録しており、空振り率は10%と高くないが被打率は.227で低めと言える。
制球力は、2022年の与四球率が1.60で上述のように2.50以上が優秀とされるため非常に優秀と言える。
実際に2022年は20試合129.1回防御率2.02という成績を残しており、フォーシームの投球割合は56%と全投球の半分を越している。また歴代最多タイの1試合16奪三振、プロ野球新記録かつ世界記録となる13者連続奪三振で、通算14試合目での史上最速、史上最年少(20歳5か月)の完全試合を達成したのもこの年。