概要
『プラモ天才エスパー太郎』は、斉藤栄一による日本の漫画。小学館の月刊漫画雑誌『月刊コロコロコミック』に1983年4月号から1984年8月号にかけて連載された。
連載開始当時、ライバル誌の『コミックボンボン』でプラモデル漫画『プラモ狂四郎』が人気を博していたため、それに対抗し得るプラモ漫画として描かれた作品である。
作者の斉藤もまた、プラモを大の趣味としていることに加え、熱烈なSFファンだったこともあり、同じプラモ漫画でも『狂四郎』とは違った要素を盛り込むために『幻魔大戦』『七瀬ふたたび』といった作品をベースとして、超能力の要素が盛り込まれることとなった。
プラモ漫画ではあるが、当時の小学館が『超時空要塞マクロス』の掲載権を所有していたため、本作で登場するプラモはマクロスをはじめ、ほとんどが「超時空シリーズ」のものである(マクロス、オーガス、サザンクロス。このために、ガンプラ、およびスケールモデル関連は登場しない)。
※なお、この掲載権により、本作に限らず当時の小学館関連の雑誌、及び掲載されている記事や漫画作品でも、マクロスのキットが多く取り上げられていた。
超能力を取り入れたため、プラモマンガというより超能力バトル物マンガになってしまったが、その点が読者人気を得たとの事。
また、それまでにギャグを多く手がけていた斉藤が、初めて原作なしでのストーリー作品に取り組んだ作品であり、斉藤も非常に思い入れの深い作品と語っている。
単行本はてんとう虫コミックスレーベルで全3巻が発売されたが最終回と直前の2話が収録されなかった。後年になって未収録を追加した完全版がコミックパークの小学館オンデマンドコミックスから発売。コミックパークが2022年9月20日をもってサービス終了後、同年10月より単行本基準収録の電子書籍版が各電子書籍配信サービスにて販売開始した。
作者の斉藤と『狂四郎』の作者のやまと虹一氏は同郷出身の友人同士であった。
内容
主人公・茂寺太郎をはじめとする少年少女たちが「エスパープラモ戦隊」を結成、プラモの中に入り込んで戦う「プラモイン」と呼ばれる超能力を駆使し、超能力の悪用を企む魔仁塔の野望に立ち向かう。
登場人物
たかはしモケイ
- 茂寺太郎(もでら・たろう)
主人公の小学五年生。
元気が良く正義感の強い少年だが、タイトルに反してプラモデルの腕前は未熟(気合を入れて作ったバルキリーのキットが「ボロキリー」と呼ばれるほどにボロボロな出来だった)。
しかし集中力はけた外れに強く、その点が強力なプラモイン能力として発揮される。
バルキリーしか作らず、当初はバトロイドのみを作っていた。説明されるまで、バルキリーがバトロイドからガウォーク、ファイターに変形する事すらも知らなかったため、マクロスという作品自体も知らなかった様子。
前述の通り集中力が強く、これが成長を促し、戦って行くたびにサイコキネシス、テレポート、透視といった超能力に海岸していった。
また、乗機としている1/25バルキリーも、当初はバトロイド形態のみで戦っていたが、超能力の成長とともにガウォーク、ファイターへの変形もマスターした。
バルキリーに対する愛情は深く、バルキリー以外のキットを勧められても「オレにはバルキリーが一番だぜ」と、当初は興味を示さなかった。
しかし終盤でバルキリーが破壊されてしまい、最終回では『サザンクロス』に登場するポール中尉のアーミング・ダブレットの改造モデルで最終決戦に臨んだ。
- 高橋 信五(たかはし しんご)
中学2年生。実家は、「たかはしモケイ」というプラモ店。そのため各種プラモの知識に詳しい。最年長で、戦隊のリーダー格。プラモ改造が得意で、太郎の1/25スケールバルキリーは彼がフルスクラッチしたものである。かつては魔仁塔と親友同士だった。愛機は1/72デストロイド・スパルタン。
- 落合 耕也(おちあい こうや)
小学6年生で、メガネの少年。様々なプラモの技術や知識を有した、戦隊の頭脳。プラモ作成の腕前も高く、ジオラマ製作の名手でもある。テレポート能力を有する。愛機は1/100デストロイド・トマホーク。
- 泉 佳子(いずみ けいこ)
プラモ戦隊の紅一点。小学5年生。太郎と同学年だが、クラスは別。
プラモイン能力はやや劣るが、テレパシー能力を有する。戦闘時にはこれを用い、相手の思考を読み取って攻撃を回避して立ち回ったりする。愛機は1/144ファイターバルキリーVF-1J(ミリア専用機)。
- 泉 健市(いずみ けんいち)
佳子の弟で、小学1年生。まだ幼いのでプラモイン能力は未熟だが、予知能力、透視能力を持ち、魔仁塔の来襲を予知することもできる。愛機は1/200デストロイド・ディフェンダー。
魔仁塔と仲間たち
- 魔仁塔 烈(まにとう れつ)
本作の悪役。実家は「プラモスーパー マニトウ」という大型プラモ店。
プラモイン能力の他、様々な超能力に長けている。この能力を用い、世間を混乱に陥れようと目論む。
1人で同時に複数のプラモにプラモインできる他、サイコキネシスで手を触れずして一度に多くのプラモを一瞬で組み上げることもできる。
愛機は、フルスクラッチの1/20グラージやリガード。後にオリジナルの改造プラモも用いる。
最終回には、プラモイン能力が消えかけていた所を、強制的にプラモインを行い、限界を超えた後に消滅してしまった。
- 黒田 実(くろだ みのる)
太郎のクラスメイトで超能力者。内気な少年で、佳子に恋心を抱いていた。そこから太郎に嫉妬していたが、魔仁塔にそこを付け込まれ、強化リングでプラモイン能力を強制付加。太郎への刺客にされる。
愛機はクァドラン・ロー、バルキリーVF-1Sスーパーバルキリーファイター形態、約2mの巨大リガードなど。
しかし、太郎には負け続け、更に自分が利用されていただけと知った後、転校して太郎や魔仁塔らの前から姿を消す。
- 阿朱良 走司(あしゅら そうじ)
魔仁塔の従弟で、サッカーチームに所属。そのシュートはコンクリートをも砕く。
プラモイン能力を元から有しており、サッカーチーム全員を催眠術にかけ、強制的に無数のプラモにプラモインさせて太郎たちに挑む。乗機は、『オーガス』のイシュキック。改造され、人型に変形する。
魔仁塔に対しては、自分たちを蔑ろにする命令に憤っていたが、彼がプラモイン能力を失いかけている事を知り涙していた。
- 阿朱良 吹雪(あしゅら ふぶき)
走司の妹。新体操の使い手。彼女もまたプラモイン能力の持ち主。
乗機は、『サザンクロス』ラーナ少尉のアーミング・ダブレット。素早い動きと幻を見せる超能力を用い、太郎のバルキリーを翻弄し、時間切れに追い込んだ。
その際の爆発に巻き込まれるが、新型プラモにプラモインしていた事から耐え抜き、初めて太郎のバルキリーを破っている。
- 雲野 大吉(うんの だいきち)
魔仁塔の通う中学の柔道部の主将。彼のプラモ仲間で、超能力者。魔仁塔から渡された強化リングでプラモイン能力に目覚め、『オーガス』のナイキックを愛機として太郎たちに挑む。
好戦的だが、正義感が強く卑怯な事を好まない。
当初は魔仁塔に半ば騙される形で太郎らへの刺客になったが、魔仁塔の卑怯さを知ったため、彼と決別。太郎たちの味方となり、魔仁塔と戦う事を決意する。
※しかし、これ以降は登場しなかった。
超能力・登場キットなど
- プラモイン
本作の特徴的な超能力。いわば「プラモデルに自分の身体を入り込ませ、憑依する」能力。プラモインする事で、プラモを己の身体として自在に動かす事が可能。
対象となるプラモは、市販の製品以外にも、フルスクラッチでも対象となる。プラモイン後には、そのプラモの設定が反映される(複座式のコクピットなら、二人でプラモインが可能。重火器を装備していたら発砲が可能。飛行能力を有していたら実際に飛行が可能、変形機能が付加されていたら変形も可能など)。
元に戻る時には「プラモアウト」。第三者がこれを見ていたら、「プラモから人が出入りする」様子を見る事に。
戦闘時には、武装より運動能力が重視。対象者が格闘技やスポーツなどを心得ていたら、それらが反映される。
また、対象となるプラモそのものの出来も、大きく影響を与える。
:製作手順を誤ったプラモや、出来の悪いプラモにはプラモインできない。
劇中では、太郎はバトロイドのキットを誤って組んだ事があり(足首が前後逆)「これではプラモインできない」と信吾が言っていた。
また、太郎以外の仲間たちも、プラモ製作技術を鍛えるために、劇中ではプラモ作成合宿を行っている。
:頭痛、腹痛等の体調不良に陥ると、エスパー能力とプラモイン能力が低下するなどの特徴がある。
劇中の夏合宿中、スイカを食べ過ぎて腹痛を起こした太郎はプラモインできなかった。
:大型キット、および複雑な構造のプラモにプラモインするためには、それだけ強力な超能力が必要とされる。
1/25スケール・バルキリーが今まで太郎以外プラモインできなかったのは、この特性の為。
また、プラモイン能力は大人になるほど弱まる性質があり、信五と魔仁塔は中学生で既に能力が衰え始めていた。
劇中では、この能力を増幅させるためのアンテナ付きヘッドバンドも登場する。太郎側もそうだが魔仁塔側も装着しており、時には魔仁塔が刺客とした人物に装着し、超能力を用い無理やり従わせていた事も。
- 1/25バトロイド・バルキリー・VF-1J
太郎の乗機となる、真吾作成のフルスクラッチモデル。
マクロス劇中同様にファイター、ガウォークに変形が可能。大きさと複雑さから信吾たちはプラモインできなかったが、偶然太郎がプラモインできたことから、彼に託され、以後は彼の愛機に。
専用のアーマードパーツを装着し、アーマードバルキリーにもなれる。
太郎はこのバルキリーを駆り「バトロイドメガトンパンチ(強力なパンチを放つ)」、「ガウォークマッハアタック(ガウォーク形態で体当たり)」、「ファイターアロークラッシュ(ファイター形態で同じく体当たり。スピードはガウォーク以上)」といった技を繰り出していた。
しかし太郎のエスパー能力が増すに伴い、エスパー能力がプラモの耐久力を超えるとバルキリーが分解してしまうという弱点が露見。
中盤よりこれを補うため、プラ板で補強し、さらに分解の危険性察知のコンピューターを内蔵し、分解30秒前に頭部ゲージが点滅する等の改造が施された。
改造バルキリーは全身に補強パーツが取り付けられたため、変形はバトロイド、ガウォークの2形態のみでファイター形態は変形不可能。この改造のため、空中戦では空を飛べるように改造された大吉のナイキックに苦戦を強いられていたが、ブースターユニットを換装することでバトロイド形態のまま空中戦が可能になった。
最終回直前ではストライクパックを装備したストライク改造バルキリーで吹雪のラーナ(アーミング・ダブレット)と戦うも、死闘の末ついに分解してしまい、太郎は『サザンクロス』のアーミング・ダブレットに乗り換えることとなる。
- 劇中に登場したプラモデル
殆どが当時にイマイ、およびアリイから発売されていたキットであるが、太郎の乗機のバルキリーの他、魔仁塔が乗機としていたグラージやリガードなどは、フルスクラッチされたオリジナルである。
また、「魔仁塔が懸賞のキットを装った、架空のバルキリーのキット(スーパーバルキリー1/72)」も存在する。これは、魔仁塔が「プラモに細工(金属パーツに偽装したコントロール装置を内蔵させる)事で、プラモイン後の太郎を操る」という作戦のために用意したもの。
バルキリーの新発売キットをいち早く入手できる懸賞に応募した太郎の元に送られたもので、懸賞が当たったと思った太郎は皆の協力でそれを組み立てる。完成後に魔仁塔が襲撃し、プラモイン後、目論見通りにコントロールされそうになるが、金属パーツを佳子に破壊してもらい自由を取り戻した。
(なお、事後に太郎は懸賞に当選。彼の元には本物のキットが郵送されてきたが、太郎は「もう懸賞はこりごり」と辟易していた)。
プラ・ファイター丈
1983年11月号から、同作者により「小学四年生」にて連載。単行本未収録。
内容は「エスパー太郎」と同じで、主人公・丈が信吾とともにプラモを動かす超能力「スターティング・パワー」を用い、魔仁塔と戦いを挑む、というもの。
登場人物は大幅に減り、信吾と丈、魔仁塔と走司がメインキャラに。
「超能力で、プラモを動かし互いに戦う」のは同じだが、本作はプラモインではなく、あくまでもスターティング・パワーなる超能力でプラモを動かして戦わせ合うという内容である。
また、主人公の丈は、太郎とほぼ同じ顔と性格ではあるが、太郎と異なりプラモデルの技術に優れている。第一話の冒頭ではバトロイドの自身の作例(翼にミサイルを搭載した「バトロイド・ガブリエルタイプ」)を、コンテストに出品し優勝していた。
また、丈の自室には自作のマクロスのプラキットが多く飾られている。
しかし、準優勝の走司が、自分のフルスクラッチ・ヌージャデル・ガーの方が上と不服を覚える。彼は魔仁塔と出会い、能力を授かった後に丈の室内に襲撃。丈の作ったプラキットを破壊。
が、信吾から促された丈は、唯一残った自身のお気に入りである可変バルキリーを動かし、走司を撃退する。
ここから、魔仁塔と丈との戦いが始まる……という内容。
本作は、「エスパー太郎」のセルフリメイク版とも言えるが、登場人物を減らした分、派手さやドラマ性も薄まり、地味になってしまった。
余談
本作を始めとして、当時の小学館系児童誌では、マクロスを中心に超時空シリーズのプラモデル、特にバルキリーのキットを取り上げる事が多く、プラモデルやそれに類するホビーをテーマに取り上げた作品も多かった(たかや健二「3D甲子園プラコン大作」、高知健「改造戦士プラモくん」など)。
これは上述の、コミックボンボンにおける「プラモ狂四郎」、およびガンプラの人気が影響している。それらの人気から、小学館でもその波に乗らんとして起こしたもので、コロコロ誌上でも本格的なジオラマを製作。カラーページにほぼ毎月フォトストーリーを掲載していた。「プラコン大作」とも連動し、ジオラマ写真を用いたフォトストーリーの他、オリジナルのバルキリーの作例も行われている(槍を持たせたバトロイドを、バイク「カタナ」のプラキットに乗せた作例、など)。
「エスパー太郎」も、カラーページのフォトストーリーに登場。その際には、同じくコロコロに当時連載されていたチョロQマンガ、池田淳一「ゼロヨンQ太」とコラボしたストーリーが描かれた(太郎がバルキリーを破損し、魔仁塔に苦戦。そこへQ太が多くのチョロQで援護し、協力して勝利するという内容)。
ただし、エスパー太郎も含め、小学館のこれら作品は、あくまでも「プラモデルのキット」としてのバルキリー、およびマクロス関連のプラキットが登場するだけで、その原典たるマクロスに関しては語られず反映もされなかった。
要は、バルキリーは単に人気がある作品のプラキットだから出しているだけ、とも言える内容だった(極端な事を言えば、バルキリーおよびマクロスのプラキットでなくとも、話は成立してしまう)。
上述した「改造戦士プラモくん」にも、主人公の少年「プラモくん」こと「模型 作(つくる)」の愛機の一つとして改造バルキリーが登場する。が、こちらも映像作品のマクロスに関しては言及されず、バルキリーでなくとも話は成立する内容であった。
ただし、当時はこれらのマンガとともに、『プラモデルの作り方講座』『プラモを使ったマクロスのメカ紹介』のような記事も多く掲載され、プラキットの作り方や改造のやり方、マクロスのメカニック紹介や作品解説なども同時に行われてはいた。
なお、「エスパー太郎」の作者の斉藤氏は、後に別冊コロコロコミック誌上で、「超時空要塞マクロス」の、ロイ・フォッカーを主役とした読み切りストーリー漫画を執筆し掲載している。こちらはプラモデルおよびエスパー太郎とは無関係であり、マクロスの番外編としての体を成している。
関連タグ
:同時期にコロコロで連載されていた池田淳一作のチョロQマンガ。プラモデルではないが、ジオラマや造形、製作・改造技術、改造チョロQなど、描かれた内容にはプラモデルマンガとの共通項が多く見られた。上述の通り本作ともコラボしており、誌上でジオラマが作られフォトストーリーが掲載された。
:同じくコロコロに掲載された、たかや健二による作品。プラモデル製作、特にジオラマ製作を競技化したものであり、「プラモ狂四郎」や本作のように「プラモデルを動かし戦わせ合う」事はない。
本作でもマクロスのキットは多く登場したが、スケールモデルやバンダイ「The特撮Collection『ゴジラ』」、タミヤ 「1/35 恐竜シリーズ『ティラノサウルス』」なども登場している。
他に、海外のキットも登場し、組まれていた(ファインモールド社「1/48スターウォーズ・Xウィング」、モノグラム社「1/8 THE MUMMY(ミイラ男)」などが登場)。
なお、「エスパー太郎」と同様の理由から、ガンプラは出ていない(モブで背景にパッケージが僅かに出ているが)。
:小学館の児童向け雑誌「てれびくん」に連載された、高知健による作品。こちらもプラモ同士を戦わせる内容だが、登場するプラキットはそのほぼ全てがオリジナルのロボットのそれ。さらに、なぜプラモが動かせるのかという理由や説明は作中でなされていない。
※エスパー太郎やプラ・ファイター丈のような超能力もなければ、狂四郎のようなシミュレーションも出てこない。
主人公の少年・プラモくんこと「模型作(つくる)」の愛機は、3機のロボットのプラモデル。そのうち一つは、VF-1Sスーパーバルキリーで、ガウォーク・ファイターに自在に変形が可能。エスパー太郎も含め、当時はバルキリーを取り上げる際には、VF-1Jが多かったため、VF-1Sが主役機になるのはやや珍しかった。
残りの二機は、「ストロング・タイガー」「バグザム」。どちらも様々なプラキットからパーツを集めて組み上げた、オリジナルのスーパーロボットと言った趣である。
ストロング・タイガーは1話に、バグザムは途中から新造され、それぞれ登場している。
なお、敵方もプラモくん同様に、オリジナルのプラキットを繰り出してくる。