概要
マナティー・リリック序曲(Manatee Lyric Overture)とは、アメリカの作曲家ロバート・シェルドン(Robert Sheldon)の作曲による吹奏楽曲。
アメリカ合衆国フロリダ州マナティー郡のシビック・センターのオープンを祝して1985年に委嘱(いしょく)作品として作曲され、作曲者自身の指揮のもと、同郡の高校選抜バンドによって初演されている。楽曲のグレードは3.5。
楽譜は当初、バーチ・アイランド・プレス(Birch Island Press)から1986年に出版され、現在ではC.L.バーンハウス社(C.L.Barnhouse)が取り扱っている。
曲は”急・緩・急”の三部形式をとるオーソドックスな序曲であるものの、「リリック(叙情的な)」と題名に書かれているように、曲全体を通して美しくロマンティックなメロディが歌われるのが特徴となっている。
なお、曲名の「マナティー」は一般的によく知られる海獣のほうではなく、アメリカ合衆国フロリダ州にある同名の郡を指している。しかしながら、その郡名もまた元をたどると19世紀なかばに同地域に生息するフロリダ・マナティーから採られている。直接的な描写はされていないものの、曲全体を通して現れる豊かでリリカルなフレーズは、彼らマナティをはじめとする数多の生き物を包み込むフロリダの美しい自然を描くかのような、深く大きなスケールを聴かせながら奏でられていく。
曲の構成
前半部
Con spirito (♩=144-160) 4分の4拍子
快活なリズムを提示するフルート、クラリネット、シロフォンの動きのもとにトランペットとトロンボーンが華やかなファンファーレを奏し、重厚な低音から積み上がった力強くも爽やかな導入部を作り上げる。
その幕開けが過ぎ去ると、Calmando - L'itesso Tempoの指示のもとにクラリネットが落ち着いた雰囲気のフレーズを歌い、そこにユーフォニアムやサックスをはじめとする中音域の楽器が温かい支えを添えていく。
重なるベルトーンと澄み渡るファンファーレで再度盛り上がりを見せると、弾けるシンバルとともにコードの色彩をガラリと変え、変ホ長調(E♭)を基調としながらトランペットやホルンが鮮やかなコードの対比を見せる。
そのままリタルダンドで減速し、トランペット3本による変ホ長調の和音で一旦終止した曲は、Gently(穏やかに)の雰囲気のもとに3拍子へと移ろい、トロンボーンとトランペットの掛け合いを主軸としながら中間部へと繋がるブリッジを形作る。
中間部
Moderato (♩=92) 4分の3拍子
穏やかに流れる曲調に導かれ、トランペットが美しい響きでソロを歌い上げる。その後を追うように木管楽器が加わると、緩やかな三拍子の大きな流れに乗るようにして次第に音の深みを増していく。
変調して再度現れるトランペット、その後を継いで元の調性で穏やかに奏でるクラリネットらのメロディに添って、深く叙情的な音楽は寄せては返す波のように形を変え、繊細に束ねられる木管楽器の和音をもって締めくくられる。
一瞬の間隙ののち、曲はAndanteによるブリッジ部分を迎え入れ、新たな予感を匂わせるクラリネットを起点としながら、打ち鳴らされるチャイムの一つひとつとともにエネルギーを漲(みなぎ)らせていく。
後半部
Tempo primo 4分の4拍子
木管楽器の快活な動きによってふたたび冒頭の勢いを取り戻すと、ホルン、テナーサックス、ユーフォニアムをはじめとする中音楽器が朗々と前半部分のメロディを繰り返す。
トランペット、クラリネットも加わって広がりを増したその緩やかな曲想に身を任せるのもつかの間、音楽は一挙に2分の3拍子へと移り、スネアドラムの推進力を得たトランペットが中間部のメロディを呼び戻しながらPoco stringendoで強力に加速度を増していく。
そしてリタルダンドを挟んで元のCon spiritoに戻ると、冒頭の突き抜けるようなファンファーレを再現し、チューバを主軸とした低音楽器の堂々とした足取りとともに輝かしく曲を締めくくる。
主な演奏団体(関連動画)
ワシントン・ウインズ(The Washington Winds)
東京佼成ウインドオーケストラ(Tokyo Kosei Wind Orchestra)
広島ウインドオーケストラ(Hiroshima Wind Orchestra)
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外部リンク
参考文献
- 秋山紀夫『吹奏楽曲プログラム・ノート』 株式会社ミュージックエイト 2003年6月18日発行 474ページ