曖昧さ回避
山田尚子監督、京都アニメーション制作によるアニメーション映画はこちら。⇒リズと青い鳥
概要
リズと青い鳥(Liz and the Blue Bird)とは、松田彬人(作曲者名義は卯田百合子)の作曲、黒田賢一の編曲による吹奏楽曲。
2018年4月21日に公開された長編アニメーション映画『リズと青い鳥』の劇中曲として作曲され、作中の登場人物たちが所属する吹奏楽部のコンクール自由曲として登場している。また、翌年の2019年4月19日に公開された劇場版『響け!ユーフォニアム~誓いのフィナーレ~』においても、クライマックスである吹奏楽コンクールの演奏シーンに用いられている(なお、作中で演奏されているものは吹奏楽コンクールの時間規定に合わせる関係上、各楽章からの抜粋・編曲がなされたものになっている)。とりわけ、第3楽章「愛ゆえの決断」に現れるオーボエとフルートのかけ合いは、曲の構成のみならず作品のストーリーのなかでも重要な役割を果たしている。
曲は、身寄りのない孤独な少女リズと人間の少女に扮した青い鳥の登場する同名の架空の童話をモチーフにしており、童話の物語に沿うようにして書かれた4つの楽章による組曲構成になっている。全楽章を通した場合の演奏時間は約22分。
楽譜は2018年6月1日より、ヤマハミュージックエンタテインメントホールディングスの楽譜配信サイト『ぷりんと楽譜』を通して販売されている。
童話『リズと青い鳥』 ストーリー
両親を亡くしたリズは街のはずれ、湖のほとりの家にひとりで暮らしている。
パン屋で働きつつも、家族がいないリズはひとりぼっちの生活に孤独を感じていた。
そんなリズは売れ残ったパンを湖にやって来る動物たちに分け与えており、
とりわけ、青い小鳥とは仲が良かった。
そんなある日、ひどい嵐がやって来る。
嵐が過ぎ去ったあと、湖に出かけると青い髪をした一人の少女が倒れていた。
リズが介抱した甲斐もあって少女は目を覚まし、二人は一緒に暮らすようになる。
どこか不思議な少女との生活は楽しく、孤独だったリズにとって少女は特別な存在へとなっていく。
しかしある朝、リズは窓から入って来た青い鳥が少女に姿を変えるのを見てしまい、
少女があの青い鳥だということに気づいてしまう。
少女を空に帰せば自分はまたひとりぼっちになってしまう。
一度手に入れた幸せを手放せるのか……。
自分にとっての幸せと、少女にとっての幸せを考えたリズは、
愛ゆえに、自らの手で幸せな日々を終わらせることを決断する。
あぁ神様、どうして私にカゴの開け方を教えたのですか―――。
自分から離れて自由になるべきだというリズの願いを受け入れた少女が、
小鳥の姿になって飛び立っていくのをリズは見送るのだった。
(『リズと青い鳥』公式パンフレット 「童話『リズと青い鳥』story」より引用)
曲の構成
第1楽章「ありふれた日々」
♩(♩.)=120 4分の4拍子→8分の6拍子→8分の9拍子
リズが少女に出会うまでの日常を描いており、街はずれの森の爽やかな朝のシーンや街中の雑踏の賑わいなどを表している。
静謐(せいひつ)さをたたえたフルートのトリルのなか、ピッコロが作品全体を通して現れる主題の断片を提示し、そこから金管楽器の力強いファンファーレが流入する。8分の6拍子に移った曲は♩.=120の快活なテンポのもとにフレーズを繋いでいき、小鳥のさえずりや小動物たちの動き、とてもよく晴れた気持ちの良い1日の始まりの予感などを感じさせる。
やがて森の朝の情景は終息し、Meno mossoの静まりのなかを吹き渡るフルートのソロとそこに重なるオーボエとのユニゾン、Piu mossoのピッコロとサックスらによる短い跳ね回りを経て、小気味いい8分の9拍子のもとにリズの働く街の情景へと移り変わっていく。
せわしない人の動き、街の賑わいのような細やかな旋律の橋渡しを行いながら次第に盛り上がりを見せる曲は、その最後をフォルテの三拍子でまとめ上げて軽快に幕を閉じる。
第2楽章「新しい家族」
♩=80 4分の4拍子
ありふれた平穏な日常を打ち破る嵐の夜の情景から、この楽章は始まる。
不穏な空気を醸(かも)し出すコントラバスとコントラファゴットのユニゾン、遠くから微かに聞こえるウインドマシーンの風のうなりによって幕を開けた曲は、轟くティンパニの稲光り、地鳴りを思わせるトロンボーンら低音楽器の力強い咆哮により、見る間に激しく荒れ狂う嵐の到来を告げる。
永遠にも思える長い夜が過ぎ去ったあと、リズの住む世界にふたたび平和が訪れる。
フルートとホルンの緩やかなかけ合い、ドラムの刻みのもとに確かな歩みを進めるクラリネットのフレーズが、リズの前に現れた不思議な青い少女との出会いを神秘的に演出する。
曲はそこからPrestoで盛り上がり、高らかに鳴り響くトランペットのファンファーレ、低音楽器とトロンボーンが繰り返す力強いメロディが、リズと少女との幸福な日々を描き出す。そしてドラムロールを挟んだAndanteの情感を込めたコラールによって、この素晴らしい日々がずっと続くことを願うリズの切なる想いを汲み上げて、曲はしっとりとフェードアウトしていく。
第3楽章「愛ゆえの決断」
♩=72 4分の4拍子
少女の正体が青い鳥であることを知ってしまったリズの苦悩の日々、そして愛ゆえに少女を空に帰すことを決めたリズの決断を、楽章全体を通して奏でられるオーボエのソロによって描いている。
ハープの美しい爪弾きを伴い、甘美な響きで流れ込むオーボエの旋律が、少女に身をやつした青い鳥を自由の世界に帰そうと思いつつも、いまの幸せな暮らしを手放したくないと葛藤するリズの想いをしっとりと歌い上げる。
そのような想いを秘めながらも、少女と過ごす日々の暮らしに幸せを感じるリズの様子を、ヘ長調(F major)に転調して明るくなった曲調が代弁する。しかし、その平和な日々に終止符を打つかのようにして、突如として現れたオーボエが苛烈な独奏を畳みかける。それを端緒として、曲調はクラッシュシンバルとトランペットによる激しい衝撃、オーボエとフルートの両者による対話のような錯綜(さくそう)を見せ、少女を想うがために残酷な決断を告げるリズと、彼女を愛するがゆえにその決断を受け入れるしかない少女のそれぞれの緊迫感に満ちた姿を映し出していく。
そして楽章の最終部分、オーボエただ一本によるカデンツァは、愛ゆえの決断に至ったリズの独白を内心で振り返るようにしながら、散りばめられる連符の一つひとつを繊細に束ね上げていく。
第4楽章「遠き空へ」
♩=72 4分の4拍子→8分の12拍子
リズのもとから離れて遠い空の彼方へと飛び立つ青い鳥の、希望にあふれる未来を願う楽章となっている。
リズと少女の別れを告げる鐘の音で幕を開けた曲は、クラリネットとトランペットが繋ぐ旋律のなかにひと筋の光を見いだし、華やかで壮大なメロディがふたりの別れを盛り上げていく。
緩やかに流れていく曲の途上に挟まれるユーフォニアムやフルートのソロ、トランペットとユーフォニアムのユニゾンによるメロディなどに、リズと青い鳥のふたりの想いや未来への希望を託しながら曲は進んでいき、金管楽器による祝福のファンファーレ(♩=108)、木管楽器による穏やかなコラールへと繋がれていく。
それはやがてスネアドラムの刻みを伴った決然とした歩みへと変わり、主題を前面に押し出した輝かしいフィナーレへと至る。力強く優雅に奏でられる旋律はリズミカルに膨れ上がっていき、すべての楽章による物語の終わりを高らかに告げる。
主な演奏団体(関連動画)
北宇治高等学校吹奏楽部(Kitauji High School Wind Music Club)/
洗足学園音楽大学フレッシュマン・ウインドアンサンブル(Senzoku Gakuen Collage of Music Freshman Wind Ensemble)
秋葉原区立すいそうがく団!(Wind Orchestra of AKIBA MUSIC)
映画『リズと青い鳥』メイキングVol.1 吹奏楽曲「リズと青い鳥」編(2018年4月)
関連タグ
響け!ユーフォニアム - 原作小説の2年生編『北宇治高校吹奏楽部、波乱の第二楽章』に登場。北宇治高校吹奏楽部のコンクール自由曲として登場する。
リズと青い鳥 - 作中に登場。北宇治高校吹奏楽部のコンクール自由曲として登場する。
誓いのフィナーレ - 作中に登場。北宇治高校吹奏楽部のコンクール自由曲として登場する。
外部リンク
参考文献
- 武田綾乃『響け!ユーフォニアム 北宇治高校吹奏楽部、波乱の第二楽章 前編』 宝島社 2017年8月26日発行
- 武田綾乃『響け!ユーフォニアム 北宇治高校吹奏楽部、波乱の第二楽章 後編』 宝島社 2017年10月5日発行
- 松田彬人(解説)『リズと青い鳥』公式パンフレット 『響け!』製作委員会 2018年4月21日発売 25ページ