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概要編集

マードックからの最後の手紙(The last letter from Murdoch)とは、樽屋雅徳(たるや まさのり)の作曲による吹奏楽曲。

20世紀の初頭に建造された豪華客船タイタニック号の一等航海士であるウィリアム・マクマスター・マードック(William McMaster Murdoch)と、彼が運行責任者になっていたタイタニック号の沈没事故をモチーフとして作曲されている。楽曲のグレードは3+。

2009年から、フォスター・ミュージック(Foster Music)がレンタル譜として取り扱っている。また、同年に出版された「現行版(通常版)」のほか、翌年の2010年に花咲徳栄高等学校吹奏楽部からの依頼を受けて特別に改訂した「特別版」(2011年出版)や、小編成版を望む声に応えて最低21人の編成で演奏できるようにオーケストレーションを見直した「小編成版」(2015年出版)、2021年に玉名女子高等学校吹奏楽部の委嘱(いしょく)によって加筆した「2021年版」など、これまでに多くのバリエーションが出版されている。


1912年4月、世界最大の豪華客船として、ニューヨークへ向け出航したタイタニック号は、その処女航海を終えることなく、海の底へと沈んでいきました。マードックは、タイタニック号に乗船していた1等航海士であり、船が沈む最後の瞬間まで勇敢に乗客の救出にあたった、乗組員の一人です。

彼は、航海中家族に手紙を書くのが日課であり、そこには自分の近況はもちろん、家族を気遣う思いが必ず綴られていました。そんなマードックからの「最後の手紙」には、乗客達で賑わう船上の様子や大西洋からの美しい眺め、そして事故を予感させるアクシデントについて、語られていたかもしれません。


曲はその手紙をアイリッシュ調のメロディーで綴っていきます。

マードックからの最後の手紙を「読む」ように聴いていただけたらと思います。

 

(作曲者自身による楽曲紹介より引用)


曲の構成(現行版)編集

冒頭編集

[プラモボックスアート]1/400 scale  タイタニック


Adagio ♩=50

バスクラリネットファゴットらの木管低音による緩やかなベースライン、そのなかへしっとりと流れ込むクラリネットの穏やかな歌い出しによって、曲は幕を開ける。

トライアングルの一打を経て、旋律はフルートオーボエをはじめとする高音楽器を加えてより厚みを増していき、バリトンサックスらのオブリガードとともに海への賛歌を歌い上げる。

やがて、リタルダンドの緩まりを挟んだ曲はテンポをほんの少しだけ巻き上げ(♩=60)、トランペットをはじめとする高音域の金管楽器サックスホルンらの中音域のフレーズが、これから始まるであろう航海に向けて大きな期待を寄せていく。


第2主題編集

マードックからの最後の手紙無題


Piu mosso ♩.=112 8分の6拍子

北大西洋を渡り、ニューヨークを目指して航海を続けるタイタニック号の船上での出来事を、一枚一枚の「手紙」のように綴(つづ)っていく。

タンバリンによって提示されるリズムとともに曲調はがらりと変化し、装飾音符を効かせた木管楽器とボーラン(アイルランドの打楽器)によって、軽快な北欧系の民族舞踊風のメロディが奏でられていく。ホルンらによる力強いオブリガードも流れ込んでさらなる盛り上がりを見せると、ピッコロなどの木管楽器が橋渡しを行いながら次第に静かな雰囲気へと切り替わっていく。

♩=72の穏やかなテンポの上で、ファゴットバスクラリネットのユニゾン、オーボエクラリネットをはじめとする木管楽器群がワルツ調のフレーズを歌い継ぎ、豪華客船の優雅な航海の様子を描きながら緩やかに終息を見せていく。


Adagio ♩=60

静まった雰囲気のなか、ホルンとアルトサックスのフレーズが柔らかく響き渡り、その余韻をたどるようにクラリネットが暖かみのある中音域で旋律を紡いでいく。

やがて旋律はピアノの伴奏を伴ったフルートのソロに移り、家族への気遣いや航海の安全を祈るマードックの優しさが垣間見えるような美しい調べを響かせていく。

シップスベルが打ち鳴らされ、航海が順調に進んでいくように思われていたその矢先、不穏と危難の兆候が終息の和音のなかから顔を覗かせる。


第3主題編集

Allegro ♩=144 4分の4拍子

金管楽器の不協和音とトランペットの激しいメロディにより、突然のアクシデントの発生と混迷する船内の様子を描く。

静寂を打ち破ったパニックは瞬く間に曲全体を支配し、タムのリズムとシンバルの強打に乗ってアップテンポのメロディが大混乱の様相を呈しながら襲いかかっていく。

やがて、態勢を整えたマードックをはじめとする乗組員は乗客たちの避難誘導を開始し、刻々と迫る沈没へのタイムリミットに駆られる様子を確固としたスネアドラムのリズムとクラリネットの正確無比なフレーズの掛け合い(Poco Meno Mosso ♩=136)によって表していく。

その流れがタムによる激しいリズムの提示を残していったん途切れると、スネアドラムを引き連れたホルンの力強いフレーズが代わって現れ、徐々に船尾を持ち上げながら沈み始めるタイタニック号の姿を示す。アッチェレランドの指示による目まぐるしい展開で緊張感はピークに達し、最後に残された低音楽器とフルートがタイタニック号の沈没によるすべての終焉(しゅうえん)を暗示する。


第4主題編集

終焉の先にあるもの


♩=60 4分の4拍子

ピアノのソロによる海の泡の描写、深く暗く沈み込んだムードのなかから、フルートクラリネットホルンらによる静かなフレーズが現れ、タイタニック号の悲劇に立ち会った人々の万感の想いを優しくかつ力強く込めて歌いだす。その時々にオーボエトランペット、アルトサックスなどのさまざまな楽器のソロを織り交ぜながら歌われるメロディは、去りし人々に対する哀悼(あいとう)、そしてそれを受け入れて前を向こうとする各々の想いの強さを秘めながら盛り上がっていく。

やがてクレッシェンドとともに冒頭の主題が再現され、高らかに響き渡るファンファーレ、大らかに力強く奏でられるメロディがマードックたちの”最後のメッセージ”を綴っていき、満ちあふれる想いを輝かしく放ちながらエンディングへと突き進んでいく。


主な演奏団体(関連動画)編集

現行版(通常版)編集

土気シビックウインドオーケストラ(Toke Civic Wind Orchestra)


フィルハーモニック・ウインズ大阪(Osakan Philharmonic Winds)


ウィッシュ・ウインドオーケストラ(WISH Wind Orchestra)


SHOBIアカデミーウインドオーケストラ(SHOBI Academy Wind Orchestra)


特別版編集

海上自衛隊東京音楽隊(JMSDF BAND, TOKYO)


小編成版編集

土気シビックウインドオーケストラ(Toke Civic Wind Orchestra)


2021年版編集

玉名女子高等学校吹奏楽部(Tamana Girls High School Wind Orchestra)


東京佼成ウインドオーケストラ(Tokyo Kosei Wind Orchestra)


関連タグ編集

音楽 吹奏楽

タイタニック 豪華客船 航海士 手紙便箋) 氷山 沈没

クラリネット フルート タンバリン

響け!ユーフォニアム - 原作小説の第3巻『響け!ユーフォニアム3 北宇治高校吹奏楽部、最大の危機』に登場。

京都駅の駅ビルコンサートに特別ゲストとして招かれた九州の強豪校、清良女子高校吹奏楽部のプログラム最後の曲として演奏される。


外部リンク編集


参考文献編集

  • 秋山紀夫『吹奏楽曲プログラム・ノート2』 株式会社ミュージックエイト 2014年5月14日発行 212ページ
  • 武田綾乃『響け!ユーフォニアム3 北宇治高校吹奏楽部、最大の危機』 宝島社 2015年4月18日発行 122~124ページ

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