エル・カミーノ・レアル
えるかみーのれある
エル・カミーノ・レアル(El Camino Real - A Latin Fantasy)とは、アメリカの作曲家アルフレッド・リード(Alfred Reed)の作曲による吹奏楽曲。
アメリカ合衆国ジョージア州ロビンズ空軍基地にある第581空軍バンドの委嘱(いしょく)を受けて1984年に作曲され、翌年の1985年4月15日にフロリダ州サラソタ空軍基地で開かれたコンサートで初演されている。楽曲のグレードは5。
曲名の「エル・カミーノ・レアル」とはスペイン語で「王道」を意味し、武力や権力に依(よ)らない、王や皇帝の”徳”による国家の統治を示している。また、18世紀ごろに当時のスペインの修道士たちが布教のための修道院を建てながら延ばしていった街道も「エル・カミーノ・レアル(王の道)」と呼ばれており、その道路は現在でもアメリカ合衆国の各地や中米諸国などに当時の名残として残されている。
曲の随所にスペインのフラメンコなどで用いられる「ホタ」や「ファンダンゴ」といった音楽様式が使われており、副題の「ラテン幻想曲」(A Latin Fantasy)そのままの熱狂的できらびやかなスパニッシュ・テーマが曲全体を通して登場するのが大きな特徴となっている。あわせて、作曲者であるリードは、かつて絶大なる力を背景に世界中に進出したスペインの歴史になぞらえて「国王の行列が街道を征(い)くような華やかさ」を曲の要素に盛り込んだことを語っている。
余談だが、同じ作曲者の作品である『吹奏楽のための第2組曲 ラティーノ・メキシカーナ(Second Suite for Band "Latino Mexicana")』(1980)の第4楽章「パソ・ドブレ」も、闘牛をテーマにしたラテン調のメロディが特徴となっている。
冒頭~前半部
Allegro brillante (♩=ca.132) ~ a tempo - con fuoco (♩=144) 4分の3拍子
金管楽器によるスペイン風のファンファーレで幕を開けた曲は、lungaの指示による一瞬の溜めのあと、燃え上がるような4分の3拍子の主題へと一気に雪崩れ込んでいく。
猛りを見せるホルン、次いでカスタネットの刻みを伴ったクラリネットによって示される舞曲風の第1主題、トランペットとユーフォニアムのかけ合いによって始まる第2主題により、聴く者を見る間に情熱的なラテンの世界へと惹き込んでいく。
鋭く唸(うな)る16分音符のパッセージを経て、ふたたびクラリネットとホルンらによる第1主題に戻った曲は、トランペットのファンファーレと木管楽器の連符の橋渡しを端として、次第に深く暗い響きのなかへと沈み込んでいく。
中間部
Slowly and languorously(♪=ca.92) 8分の7拍子
静寂のなか、憂いと切なさを秘めたオーボエのソロが現れ、コントラバスやハープの爪弾きを伴いながら儚(はかな)げな変拍子の旋律をしっとりと歌い上げる。
これに応えるようにクラリネットが代わって登場すると、木管楽器のアンサンブルによって曲調はにわかに熱情をはらんで盛り上がりを見せ、オーボエとクラリネットが互いに絡まりあいながら次の舞台へと移っていく。
quasi fandango,ma non troppo (a tempo ♪=ca.88) 8分の8拍子(3+2+3)
ホルンとタンバリンの後打ちによりファンダンゴのリズムが提示されると、サックスやクラリネットをはじめとする木管楽器が華やかなフレーズを緩やかに奏でていき、その下からテナーサックスやユーフォニアムが16分音符や6連符の流れで加わっていく。
コールアングレやアルトサックスらが高音域で昂(たかぶ)りながら舞曲をまとめ上げていき、それを継いだクラリネットが優しく締めくくりつつも新たな予感を匂わせる。
a tempo,meno mosso,cantando 8分の6拍子
解き放たれたテンポに乗って、サックスやフルートらの木管楽器、あとからホルンも加わりながら8分の6拍子による優雅で安らかな主題が流れていく。
コードの色彩も豊かに、情熱と美しさをまとったそのフレーズは、中間部のなかでもっとも大きな盛り上がりを見せながら収束していき、ユーフォニアムの叙情(じょじょう)的なソロを聴かせながらホルンとともに寂しく静かに消え去っていく。
後半部
Tempo Ⅰ - Allegro brillante
深い静けさのなかから躍動感を持ったスネアドラムとティンパニが突如として現れ、その後を追いかけるようにクラリネットとフルートが加わっていく。
ホルン、トランペット、チューバなどの金管楽器の面々も次第に加勢していき、盛り上がりの最高潮とともにトランペットが高らかにファンファーレを決めると、その勢いのもとにトランペットとトロンボーンが華やかに転調した第1主題を奏でていく。
やがて疾走するテンポに乗りながら中間部の主題が再現され、喜びの凱旋を歌い上げるサックスらの木管楽器にホルン、トランペットらの金管楽器が時に伸びやかに、時にきらびやかに絡んでいく構図となる。この主題は次第に金管楽器へと主導権を移していきながら、怒涛の高音域と音数を伴った熱狂的なエンディングへと突き進んでいく。
木管楽器・金管楽器・打楽器が渾然(こんぜん)一体となって熱情の鼓動を刻んでいき、その頂点を輝かしく飾り立てて終幕を迎える。
吹奏楽版
NHK交響楽団(NHK Symphony Orchestra Wind Section)
東京佼成ウインドオーケストラ(Tokyo Kosei Wind Orchestra)
洗足スペシャルウインドワールド(Senzoku Special Wind World)
シエナ・ウインドオーケストラ(SIENA Wind Orchestra)
大阪市音楽団(Osaka Municipal Symphonic Band)