概要
脚本はアラン・ブーブリル、作曲はクロード=ミシェル・シェーンベルク。
シェーンベルクが雑誌に掲載されていたベトナム人少女が元GI(アメリカ軍兵士)の父親の待つアメリカへ出発しようとしている写真から着想を得て創作された。
ジャコモ・プッチーニ作イタリア・オペラ『蝶々夫人』と、その着想のもととなったフランスのピエール・ロティの小説『お菊さん(Madame Chrysanthème)』をストーリーのベースにしている。
「蝶々夫人」の「明治時代の長崎で海軍士官と没落藩士の令嬢」が置き換えられ、ベトナム戦争末期のサイゴンの売春バーで働くベトナム人少女キムとアメリカ大使館で軍属運転手を務めるクリスの悲恋が描かれている。
ブーブリルとシェーンベルクは「レ・ミゼラブル」に引き続き大ヒット作を生み出すこととなった。
その魅力的な楽曲は、吹奏楽版アレンジやフィギュアスケートの演目としてもよく知られる。
一方でアジア人や女性に対する描き方には「白人の考えるアジア人」として上演当初から批判の声が寄せられている。
キム役は(ヒロインのため)大規模オーディションによって選抜されたが、同じアジア人であるエンジニアは白人のジョナサン・プライスが、トゥイは特におおきなオーディションは行われず抗議の声が相次いだ。
ストーリー
ベトナム戦争末期、両親を失った少女キムは陥落直前のサイゴン(現ホーチミン)でフランス系ベトナム人のエンジニアが経営するキャバレーでアメリカ兵クリスと出会い、恋に落ちる。
お互いに永遠の愛を誓いながらも、サイゴン陥落の混乱の中、米兵救出のヘリコプターの轟音は無情にも二人を引き裂いていく。
クリスはアメリカに帰国した後、エレンと結婚するが、キムを想い悪夢にうなされる日々が続いていた。一方、エンジニアと共に国境を越えてバンコクに逃れたキムはクリスとの子タムを育てながら、いつの日かクリスが迎えに来てくれることを信じ、懸命に生きていた。
そんな中、戦友ジョンからタムの存在を知らされたクリスは、エレンと共にバンコクに向かう。クリスが迎えに来てくれた−−−心弾ませホテルに向かったキムは、そこでエレンと出会う。
したたかに“アメリカン・ドリーム”を追い求めるエンジニアに運命の糸を操られ、彼らの想いは複雑に交錯する。そしてキムは、愛する息子タムのために、ある決意を固めるのだった−−−。
(ミュージカル「ミス・サイゴン」公式サイトより)
主な登場人物
- キム
本作のヒロイン。
南ベトナムの田舎の村に住んでいたが、ベトコンに家族を殺され、家を焼かれ、17歳にしてサイゴンに逃げ延び、エンジニアが経営するサイゴンの売春宿で働くことになる。そこでクリスと出会い、愛を誓う。
サイゴン陥落後にクリスとの息子・タムを産み、再びクリスに会える日を待ち望みながら一人タムを育てる。
- エンジニア
フランス系ベトナム人。サイゴンで売春宿を経営し、知り合ったアメリカ兵の力を借りてアメリカへ行く事を夢見ている。終盤で生い立ちが明かされるが、非常に複雑である。
本名は「チャン・ヴァン・ディン」であり、「エンジニア」とはニックネーム。英語で「うまく切り抜けていくやつ」「世渡り上手」というような意味がある。
- クリス
本名は「クリストファー・スコット」。
元々ベトナムに従軍していたが、帰国後に居場所を失い、軍属として大使館付きの運転手をしている。
戦争に意義が見いだせず何もかもが嫌になってしまっている。同僚のジョンに連れられ、気晴らしにやってきた売春宿でキムと出会い心惹かれるものの、サイゴン陥落によりキムを置いてアメリカに帰国することになってしまう。
サイゴンでの悪夢に魘され、本国でも白い目を向けられつらい日々を過ごしながらも、新しい生活を送ることを決意しエレンと結婚する。ところが...。
- ジョン
クリスのベトナムでの戦友。
クリスがキムに会うきっかけとなった売春宿へクリスを連れて行く。
アメリカに帰国後は、ブイドイ(孤児となったベトナム人女性とアメリカ兵の子供の総称。現地語で「犬の糞」を意味し、ベトナムでは母子共々迫害の対象だった)を救出するために活動する。
ちなみに欧米での公演では黒人の演者が採用される。それを踏まえると作中での行動に思うところもあるはず。
- エレン
クリスの妻。
ベトナムから帰国したクリスと結婚するが、クリスの心に潜む闇の部分に立ち入ることができないでいる。
- トゥイ
キムの従兄弟で許嫁。二人が13歳の時に、双方の両親が結婚を決めた(当時のベトナムでは親同士が子供の結婚相手を決めることが多く、現代でもその傾向は残っている)。
トゥイはその後、敵のはずのベトコンに寝返りキムの反感を買う。エンジニアの売春宿にキムを迎えに来るが、キムが敵国の兵士であるクリスと恋に落ちたと知って激昂。サイゴン陥落後は新政府のもと人民委員長にまで昇進し、キムを執拗に追い続ける。そして3年後...。
- ジジ
エンジニアの経営する売春宿で働くコールガールの一人で、キムの先輩にあたる。その売春宿でNo.1(「ミス・サイゴン」)となる。クリスと結ばれたキムに対し、「本当の”ミス・サイゴン”」として祝福する。
主な楽曲
- 序曲 ・・・ヘリコプターの音、重厚感のある低音部、軽快な高音部の組み合わせが印象的。オーボエによって奏でられる主旋律を聞いたことがある人も多いだろう。
- 我が心の夢 ・・・ジジの事実上のソロナンバー。ドリームランドで働くコールガールたちの悲哀を歌う。
- サン・アンド・ムーン ・・・キムとクリスが初めて出会った夜、恋に落ちた二人が歌うデュエット。
- 世界が終わる夜のように ・・・キムとクリスの二人が仮の結婚パーティーを開いた後、改めて愛を誓い合って歌うデュエット。だが...。
- 今も信じてるわ ・・・ベトナムでクリスを待ち続けるキム、アメリカでクリスと結婚したものの深いところに立ち入れないエレンが、それぞれ「いつかクリスが帰ってくる」「いつかクリスが心を開いてくれる」と信じて歌うデュエット。
- 命をあげよう ・・・一幕の終盤、息子・タムを抱えたキムが何があってもタムを守りぬくことを決意して歌う。日本初演のキム役・本田美奈子による歌唱が特に有名。その前にキムが起こしてしまった行動を見ると非常に意味深な曲である。
- アメリカン・ドリーム ・・・二幕の終盤、エンジニアがアメリカ行きの夢を歌い上げるビッグナンバー。エンジニアの思い描くアメリカでのきらびやかな生活が舞台上に現れるさまは実に豪華である。エンジニアの生い立ちが明かされるのもこのナンバー
関連イラスト
外部リンク