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中性子爆弾

ちゅうせいしばくだん

核兵器の一種。核反応による爆風を抑え、中性子線による生物の殺傷範囲を広くするように工夫がなされたもの。その性質から『沈黙の爆弾』とも呼ばれている。
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概要

正確には放射線強化兵器(ERW:Enhanced Radiation Weapon)の一種、または低減爆風/放射線強化兵器(RB/ER:Reduced Blast/Enhanced Radiation)のことを指す俗語である。開発したのはロスアラモス科学研究所の物理学者サミュエル・T・コーエン氏だと言われており、彼は中性子爆弾の父と呼ばれている。爆風を抑えることで市街の建造物やインフラを利用できるようにしつつ、中性子線による生物殺傷や、敵の核弾頭の無力化することに主点に置いている。また、放射性物質の残留も同程度の軍事的影響を与える核兵器より少なくなっている。サミュエル氏曰く「敵を殺害しながら民間構造物を守り、さらには市民をも守る兵器と考えるべきである」とのことである。技術的には、核出力を数キロトン程度に抑え、中性子を効率よく放出するように設計した熱核兵器であり、核兵器のくくりに入る。


なお、サミュエル氏はのちに回顧録”Shame: Confessions of the Father of the Neutron Bomb”(恥:中性子爆弾の父の懺悔)にて、自分の核開発(中性子爆弾のことか)は健康と栄養に変なこだわりのあった母の虐待から生まれたものだと主張しており、この回顧録の内容全体を含め人々の失笑を買った。

構造

実際の設計は当然機密だが、以下のような推測がされている。

熱核兵器は「プライマリ」と呼ばれる核分裂段階(原爆)と、そこから発生したX線によって爆縮される核融合段階(「セカンダリ」と呼ばれる)によってできている。熱核兵器が爆発するには、このX線を閉じ込める容器が必要だが、その容器に適しているのは中性子を反射しやすい重い元素である(丁度軽いボールを重いものに向かって投げると跳ね返るのと同じ)。しかし、目標の核出力が小さければ閉じ込めるX線の量を小さくでき、容器の厚さを薄くすることができる。すると、多くの中性子を反射させることなく外に放出できることになる。また、セカンダリの「タンパー」と呼ばれる部分に一般的に使われるウランを、放射性物質に変化しにくく核分裂もしない物質に置き換えておけば、威力と残留放射線が小さくなる。


実際に配備された放射線強化兵器であるW79-0/M753核砲弾は、放射線強化機能のオン/オフ切り替えができる可変出力兵器であり、取り外し可能な「トリチウムリザーバー」がこの機能の鍵ではないかと言われている。おそらくセカンダリの核融合燃料として三重水素と重水素の混合ガスを用いており、リザーバーを外すことで通常の原爆として利用できるようになっていると考えられる。


なお、そもそも低威力の核兵器は並べて放射線による人員の殺傷効果が高い。高威力の核兵器では熱線や爆風が広範囲に強く働き、致死量の放射線を浴びる人間は皆他の効果で死に至らしめることができる。一方低威力では熱線と爆風が弱い範囲でも致死量の放射線を浴びせることができ、放射線の効果が相対的に強くなる。(爆発に至らなくても人を殺せたデーモンコアの事件を想像すれば自明である。)つまり、「中性子爆弾」は低威力で初めて成立する存在なのである。


現状

配備したのはアメリカ合衆国のみ。性能維持のために大量の三重水素が必要となり、その三重水素の半減期が12.32年(≒12年4ヶ月)と短く、定期的に三重水素の交換が必要となるため維持に多額の費用がかかるので、冷戦終了に伴い1992年頃には運用は終了している(はずである)。

「中性子爆弾」の一覧

対弾道ミサイル用

  • W65:弾道迎撃ミサイル「スプリント」向けにカリフォルニア大学のローレンス放射線研究所が開発したが、下のW66が採用され開発中止。
  • W66:同じく「スプリント」向けにロスアラモス科学研究所が開発したW65の競争相手。配備されたもののすぐに廃止された。

弾道ミサイル用

  • W64:MGM-52「ランス」向けにロスアラモスが開発したが、ローレンス放射線研究所のW63との競争に敗北し中止。
  • W70 mod3:MGM-52「ランス」の弾頭として配備されたローレンス放射線研究所とその後継のローレンス・リバモア国立研究所が開発した熱核兵器。mod1と2は通常の熱核兵器だが、mod3は放射線強化兵器で反核運動家から中性子爆弾と呼ばれた。なおサミュエル氏は、「W70は『中性子爆弾』とは程遠いものだ。一般に人を殺し建物を残すタイプと思われる兵器ではなく、大規模な殺傷と破壊を両方行う兵器である。」と述べている。

砲弾用

  • W79 mod0:口径8インチ(208mm)用の核砲弾用弾頭。ER機能をオンオフできる。mod1にはER機能がなく、純粋な原爆としてのみ使用可能だった。ローレンス・リバモア国立研究所が開発し、1976年から1992年まで配備された
  • W82 mod0:口径155mmバージョンのW79。こちらもリバモアの作品だが、1982年に開発中止。その後ER機能のない原爆として開発を再開するも冷戦の終結で中止された。

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核兵器 水素爆弾 中性子線

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