概要
式典総監督を務めた演出家の宋承桓(ソンスンファン)氏は「人面鳥は平和の象徴。韓国の過去、現在、未来の三つの世代をつなぎたかった」「高句麗壁画古墳からアイデアを得た」と開会式の翌日に語っている。
氏が言及する高句麗壁画古墳とは「徳興里古墳」(現在北朝鮮の領土内にある)の壁画と考えられる。四神(青龍、白虎、朱雀、玄武)の後に登場し、朝鮮神話における人間の祖「熊女(ウンニョ)」に扮した女性が一緒にいた事、また演出者の発言から瑞鳥であることは確かである。
開会式の後、モチーフが中国の凶鳥・鳧徯(フケイ)とする言説が広まったが、演出家の発言、またモチーフの古墳壁画にその名が無い事からこの可能性は除外される。
中国の神話・伝説でも善の側の人面鳥は存在しており(九天玄女や句芒)、その意味でも鳧徯と決めつけるのはかなり無理がある。
モチーフの壁画
「千秋」と萬歳」は西側の壁画に描かれる。
「千秋」は獣の足、「萬歳」は鳥の足を持つ。中国古典『抱朴子』に「千秋の鳥、萬歳の禽」として言及され、その名の通り長命であるという。「鶴は千年亀は万年」的な対比である。
中国の後漢時代から、初唐時代の墓や副葬品にこの二匹の鳥のデザインが施されている。
「賀鳥」は北側の壁画に描かれる。
この古墳の「賀鳥」の図像には「学道不成 背負薬□」という句が添えられている。□部分は擦れて判別できないが、この鳥が背中に器らしきものを載せている事から薬を入れる容器と考えられる。
「学道不成」とは学道成らず、の意である。葬られた人物の経歴について語っているのか、この霊鳥の性質を述べているのかははっきりしない。
「学道不成」という語が付されている幻獣として「零陽」がある。こちらは四足歩行の獣であり、「頭生七□」とあり、頭に七つの何かが生えていると考えられるが、壁画の頭の部分はかすれてそれが何かは判然としない。
この獣は実在の動物「羚羊」の事と推察されている。日本語でもそうだが現代中国語でも同じ音で読める。漢方において羚羊の角には薬効があるとされた。
で、実際の反応はどうだったの?
このように、調べてみると神秘的な逸話を持つ人面鳥ではあるが、実際開会式を見た人は神々しさを感じるわけがなく、何とも言い難い造形とデカさのインパクトのほうが勝ってしまい、唖然とする人のほうが多かった。中には恐怖を感じた人もいたらしく、トラウマになったとか。
また、これの少し前にはメディアセンター前にあった謎の像がネタにされてたことも相まって同じくネタにされることも・・・
そして閉会式にも登場した。インパクトは相変わらずであった。
参考資料
図像構成からみた高句麗前期の壁画古墳の - 大阪文化財研究所(pdf注意。18~19ページに記載がある)