概要
1993年12月10日にメガCDにて発売され、後にセガ・ミュージック・ネットワークスにて2004年から約二年間ダウンロード配信された。
ゲームジャンルはバーチャルシネマ、アドベンチャーゲームに分類されている。当時のハードスペックなどの関係から、グラフィックは油絵調で粗く見えるが、一方でBGMも含めこのゲームの作風にマッチした幻想的な雰囲気と評価もされている。更に登場人物は全てフルボイスであり、現在でも人気・実力派の声優陣が揃っている。
フルムービーにフルボイスなど、容量の関係もあるからかゲーム全体としては些かボリューム不足という声も少なくはないが、上記の独特なグラフィックとストーリー性などでは好評価もあり、当時のゲーム雑誌等のレビューでは高得点を獲得していた事もあった他に、現在でも多くのファンからの支持を集めている模様。
その支持があったからなのか、メガドライブミニ2に収録されることが決定。
日本国内での発売から翌年には海外版も発表されており、タイトルは『Yumemi Mystery Mansion』(欧州版)や『Mansion Of Hidden Souls』(北米版)など。特に欧州版は日本国内版に比べ、タイトル名の字体やパッケージイラストが怖いのが特徴。
この『夢見館の物語』を皮切りに、セガサターンにて続編と外伝が発表されているが、本稿では主に処女作である『夢見館の物語』を解説していく。
ゲームシステム
主人公(プレイヤー)視点で舞台となる夢見館内を探索していく。特定の箇所を調べる際には移動と同じく方向キーを使い、入手したアイテムの確認や使用はその他のボタンで行なう。セーブ機能については、最序盤に館内で見つかるアイテム「日記帳」を使う必要がある。
また、シナリオを進めると重要アイテム「懐中時計」を入手出来るが、同時に時間制限モードが発動。最初は23時であるが移動や方向転換を行う事で時間が進み、針が24時を指すと時間切れで、妹と一緒に蝶の姿となりゲームオーバーとなるため、それまでに夢見館を脱出(ゲームクリア)しなくてはならない。
ストーリー
ある満月の晩、森の中で光る不思議な蝶を見つけた少年とその妹。
妹はその蝶に強い興味を抱くが、兄である少年は祖母から聞かされたこの森の伝説を思い出し、早急に帰ろうとする。
その伝説とは、『満月の晩、森の奥にある楡の木には怖い悪魔が住んでいるので、決して近づいてはいけない。光る蝶を見つけても追ってはいけない。もし追えば、自分も同じ蝶になってしまうから』というもの。(※)
ところが、妹は好奇心から森の奥へと蝶を追っていってしまい、少年は慌てて森の奥へと進むが、そこには昨日まで無かったはずの洋館が建っていた。どうして、でももしかすれば……不審と疑問を抱きつつ少年は扉を開け大広間に入ると、何処からか妹の声が聞こえてきた。同時に扉を閉じる音がしたが、それは妹が何処かの部屋に入ったための、否、今入ってきた扉のものかもしれない。何故なら、少年がたった今開けたはずの扉は固く閉ざされていたのだ―――。
(※)なお、この伝説は本ソフトの取扱説明書以外に、CD-DAを使用したおとぎ話調の短編ドラマとして本ソフトに収録されており、メガCDの音楽CD再生機能などを使って聴く事が出来る。
登場人物
※この項目以降、ネタバレ要素を含むので閲覧時には注意されたし
- 少年(主人公)・CV:折笠愛
本作の主人公である少年。満月の晩、偶然にも夢見館に迷い込んでしまった妹を助けるべく、館を探索していく。
エンディングでは妹を救出し館の脱出に成功するが、続編である『真説・夢見館』では意外な再登場を果たす事となる。
- 少女(妹)・CV:こおろぎさとみ
好奇心旺盛な主人公の妹。光る蝶を追って偶然にも夢見館に迷い込んでしまい、軽はずみで蝶になる事を望んだために、後述の狩人によって(まだ不完全な状態であったが)蝶にされてしまった。
エンディングでは、兄に救出され館を脱出し無事に人間に戻ったが、後日談でもある続編『真説・夢見館』では……。
- 画家・CV:松本保典
館二階北西側の画材や絵画が置かれている部屋に住む、元画家の青年。この部屋の内装や構造は、人間時代の彼が絵描きの勉強で訪れていた学舎と全く同じとの事。蝶となり館に住まう生活に不満は抱いていないが、蝶になる気の無い主人公への言葉から僅かながら後悔の念が垣間見えている。優しい性格の持ち主にして主人公に協力的な住人の一人で、アドバイス以外にも重要アイテムの「懐中時計」を授けてくれる。
時間制限モード突入(懐中時計を入手)後、23時15分以降に彼の部屋へ訪れると、“別れの言葉”を聞く事が出来る。これまでの彼の言葉や心情を察するに、後述の狩人が言っていた「己の才能に絶望した者」とは、恐らく彼を指しているものと思われる。
続編である『真説・夢見館』では既に館から姿を消しているが、この作品での住人の一人であるショーンという臆病な性格の少年と親しい真柄だった事が明かされた。特定の手順でシナリオを進めると、画家と出会う事が出来る。
- ピアニスト・CV:折笠愛(二役)
館一階東側の小さなステージが備えられている音楽室に住まう、元ピアニストであった女性。お淑やかな一方で、蝶になった事を後悔する発言が目立つなど何処か悲観的な面も多く見られる。主人公に協力的な住人の一人で特に彼を気遣う発言が多く、アドバイス以外にも重要アイテムの「燭台」を授けてくれる。
時間制限モード突入後、彼女の部屋で重要アイテムを入手し、かつ23時15分以降へ訪れると、“別れの言葉”を聞く事が出来る。この時の彼女の独白からすると、後述の狩人が言っていた「友に裏切られ、傷つけられ、そして疲れ果てた者」とは、間違い無く彼女を指しているものと見ていいだろう。
- 賭博師・CV:竹口安芸子
館二階東側のビリヤード台やダーツ、カクテルキャビネットなどが置かれた娯楽室かホームバーのような部屋に住まう、元賭博師であった女性。後述の人間時代の顔などから、恐らく60代前後かそれ以上の年齢と思われる。
些かトゲのある言葉も目立つが、なんだかんだで世話焼きな性格の持ち主。彼女もまた主人公に協力的な住人の一人で、アドバイス以外にも部屋に飾られている“黒い絵”によって数々の重要なヒントを授けてくれる。
彼女の部屋には、ゲーム上での攻略ヒントを得られるこの“黒い絵”が置かれている関係からか、住人の中では後述の令嬢と同じく“別れの言葉”が用意されていない。
続編である『真説・夢見館』では、館で一番古い住人として健在であり、この時に彼女の人間時代の顔と“ジョゼ”という本名が明らかになった。
不確定ではあるが、この続編での「ぬるま湯のような館の生活が気に入っていた」という彼女の言葉から、後述の狩人が言っていた「現世(うつしよ)を忌み嫌った者」とは彼女を指していると思われる。
- 令嬢・CV:こおろぎさとみ(二役)
館二階西側のピンクを基調とした内装と豪奢な調度品、ティーセットが置かれたテーブルなど、所謂“お金持ちのお嬢様”のような部屋に住んでいる女性。部屋の傾向や彼女の言葉遣いなどから、人間時代は20歳に満たない裕福な家庭の令嬢だったと思われる。
部屋を探索していると「レディの部屋を勝手に探り回らないで」といった素っ気無い態度が多いが、一方でティーセットとケーキがあるテーブルを調べた時に限りデレた反応を見せる事から、近年では動画サイトなどで“早過ぎたツンデレ”と萌え……評価されているようだ。
彼女の部屋には、ある重要アイテムが置かれている関係からか、住人の中では賭博師と同じく“別れの言葉”が用意されていない。ただ、人間の姿を捨てる動機として、大人になる事を激しく拒む様子が見られた。
- 蝶の蒐集家・CV:有本欽隆
館一階西側の数多くの蝶の標本が飾られた書斎に住む、元蝶の蒐集家の男。年齢は老年程、若くても中年以上と思われる。部屋の標本は人間時代の彼が集めたものらしい。蝶の存在に魅入られ、その“美しい姿を得た”事に心底満足している。故に温和な性格ながら人間という存在を見下しており、主人公に対しては蝶になるよう促す発言が多い。また、不完全ながら蝶になった主人公の妹を見て、彼女を連れ出した主人公を叱責しており、これらの要素から協力的な人物ではない。……のだが、この時に“妹が人間の姿に戻れる”というヒントを与えてしまっている。こいつもツンデ(ry
彼にも“別れの言葉”が用意されており、時間制限モード突入後、23時40~45分以降に彼の部屋へ訪れると聞く事が出来る。……やっぱりというか、他の二人とは違い全然悔いている様子が無いようだ。
余談であるが、外伝作品『月花霧幻譚〜TORICO〜』には、彼と共通点の多い“アントニー”という名の風変わりな性格をした人間の男性(担当声優も彼と同じ有本氏)が登場している。
- 狩人・CV:堀内賢雄
夢見館の主である人智を超えた存在。館の地下一階、転生の間(仮称)にて出会える。
狩人は本名ではなく、館の住人にいつしか呼ばれ始めた通称のようなもので、本人曰く“なかなか洒落た名前”と気に入っている模様。現世を捨てた館の住人達を蝶に変えた蝶……張本人であり、主人公の妹も半ば強引に蝶に変えた。主人公に対しては、物語の核心となる様々な事実を語った。
なお、登場時に「姿も見せずに恐縮だが……」と語った通り、僅かに人間の上半身の輪郭(?)が浮かんだ白い発光体として主人公の前に現れた。明確に姿を晒したのは、続編である『真説・夢見館』からである。
キーワードなど
- 夢見館
人間社会に絶望した者が蝶の姿を求めて訪れる、シリーズの舞台となる洋館。ただし、作中でこの名称を用いられる事はない。
四年に一度の満月の晩、“月の魔法”の力によって22時~24時の間だけ具現化する。発生場所は様々なようで具体的な条件は不明であるが、『夢見館の物語』では一部の地では伝承として語られているようであり、続編の『真説・夢見館』のように容易に人が立ち入れない特殊な場所が選定される事もある。
満月の晩以外、すなわち現実世界から解離されている間は館の内外は「無」の空間となっているが、蝶の蒐集家曰くこの状態でも人間が館内に留まる事は可能であり、ここと現実世界では時間の流れる早さも違うらしい。
- 蝶
夢見館に住まう、狩人によって姿を変えられた元人間たち。青い羽根を持つ蝶であり、外見上は見分けが付かない。ただし、何かしらの理由で人間として生きる事に絶望した世捨て人である事は共通している。
転生の間にて、狩人によって後述の月の魔法を掛けられる事で保護膜(転生の珠)に包まれて人間から蝶へと姿を変えるのだが、完全に蝶へと変化を遂げるには時間を要し、途上である月の魔法が掛かりきっていない“赤い羽根の蝶”の状態は極めて不安定であり、何らかの要因で人間に戻ってしまう事もある。完全に蝶となって以降も、声を発する事が可能で人間としての意識も保っているが、肉体そのものが変化した事でピアニストの発言から道具を使うなどは出来ない。
……と思われていたが、『真説・夢見館』では扉の開閉をこなしたり、明らかに体積以上の物品を持ち歩いたりしているので、全く出来ないわけではない様子。
また、館内にいる限りは不老のようで、ある住人によればこの蝶の姿は「半分は死んでいるも同然」の状態との事。ただし、蝶のまま館外に出ると、その瞬間から実際の蝶と同じ寿命となってしまう(人間としての意識などは保っている模様)。
- 月の魔法
夢見館の力の根源。館を現実世界に留める以外に、人間から蝶に変える際にも重要な役割を果たす。館の主である狩人が駆使する他に、彼と館に住まう者達は皆この魔法の恩恵を受けている。
なお、月の魔法の強弱には満月と密接な関わりがあり、作中では23時以降で満月が陰っていく(月の魔法が弱まっていく)と、館の一部の区画や部屋が「無」の空間に様変わりする。更に月の魔法が弱まらずとも、『真説・夢見館』にように部屋の主が死亡すると、その部屋が同じく「無」に閉ざされるようである。
- 水晶(クリスタル)
一見するとただの水晶だが、月の魔法を弾く力とその恩恵を受けた者を無力化させる力を持った相反存在。ゲーム中でのキーアイテムの一つでもあり、月の魔法で閉ざされた館の外へ出るために必要不可欠。
続編の『真説・夢見館』では、純粋な善の心を持った者も水晶と同様の力を発現させる事が可能であり、“聖域”と呼ばれる狩人がいる異次元空間に立ち入るための唯一の手段でもある事が判明。また、作中では発揮されなかったが、使い方によっては完全に蝶に変えられた者を元の人間の姿に戻したり、狩人と夢見館を諸共に消滅させる事も可能らしい。
余談
懐中時計獲得後に時間制限モードに突入、時間切れでゲームオーバーになる以外に、数こそ少ないがゲーム中では館の地下室へ訪れるのを皮切りに、即ゲームオーバーに直行する初見殺しな罠が存在する。狩人のいる転生の間に初入室直後に、知らずに進んで溺れたプレイヤーも多いのではないだろうか。
しかし、その前の地下室の廊下に設置されている椅子に腰掛けた石像(?)こそが、このゲーム最強の初見殺しにして最大のトラウマ。異論は認める。
階段を下りて地下室廊下に入ると、廊下の突き当たりにこの石像があるのだが、この時には調べようとしても反応が無い(ズームアップしようとしても、直後にフェードアウトして接近出来ない)。問題は狩人との会話イベントを終えて花壇のある部屋から廊下へ出た時である。
イベント後に部屋から廊下に出るとフロアBGMが変化しており、退室直後か一階に上がる階段がある扉の前まで移動した時に、石像のある方向に振り向くと……。
なお、振り向かずに地下室から脱出し再度地下室廊下に戻ると異変は収まっているが、やはり花壇のある部屋を退入出すると異変が再発してしまう。
続編とスピンオフ作品
- 『真説・夢見館 扉の奥に誰かが…』
1994年12月2日、セガサターンにて発売された続編。
- 『異説・夢見館』
1995年4月6日に発表された、前述の外伝作品。太田忠司(“霞田志郎”名義)著作のメタフィクション小説。
- 『月花霧幻譚〜TORICO〜』
1996年6月28日、セガサターンにて発売されたスピンオフ作品。
- 『月花霧幻譚〜TORICO〜外伝』
1996年10月24日に発表された、前述の外伝作品。福井健太著作のゲームノベルズ。