概要
『絵本小夜時雨』に掲載されている話であり、絵本なので挿絵も存在する。
大光寺という寺はある公家の祈祷所であった。ある時、田龍光雄(でんりゅうみつお)という武士が事情により大光寺に籠もることとなった。
初めての夜のころ、田龍が蚊帳を吊って寝ていた所、その蚊帳を持ち上げる者がいる。何者かと思って見てみると、背が高く真っ青な顔をした僧がこちらを食い入るように見つめているのだ。田龍は豪胆な武士であったために刀を抜いて二度三度切りつけたが全く効果がない。
翌朝、その事を寺の僧に話すと、「ああ、注意するのを忘れていましたな」といい、寺の書院の便所の扉を開けっ放しにしておくと、必ず夜になると出現するのだという。
田龍は「怪しいものを退散させるのは僧たちの得意とするところであろう」と言ったが、僧はどんな祈祷をしても効果が無かったと答えた。
その後も「それ」が何者なのか、どうして僧の姿なのかは分からなかったという。
…やってることはちょっと迷惑で、ひとたび出現すれば対処法はないが、事前に注意さえすれば出現を抑えられるという行動も出自もいかにも「よくわからない」という怪異らしい怪異である。挿絵では便所から出てきた獣のような異形の顔の化け物が蚊帳を持ち上げている。「僧」とあるのに髪の毛がある。
水木しげるは上記の怪異について、「やはりそれは『霊』と関係があるのだと思う。」としている。