概説
国造り神話の夫婦神・伊弉諾尊(イザナギ)と伊弉冉尊(イザナミ)由緒の剣。
伊弉諾尊が持つ十拳剣であり、日本神話の特異性を示唆する重要な神器でもある。
イザナミはイザナギとの間に幾人もの御子神を儲け、最後にカグツチを出産する。
しかしカグツチは生まれながらに炎を纏う「火の神」であり、出産に際してイザナミの女陰(産道)に酷い火傷を負わせてしまう。
火傷に苦しむ愛妻の姿にイザナギは頭に血が上り、怒りに任せてカグツチを剣で斬り殺してしまう。
この時、カグツチを屠ったこの剣に付着した血と、カグツチ自身の体から、幾柱もの神々が生まれている。(※カグツチの項を参照)
そしてこの剣も「神産み」と「神殺し(子殺し)」の両面を持つ神剣として、高い神格を得ている。
このため剣神「伊都之尾羽張神(いつのをはばりのかみ)」の別名を持っている。
伊都之尾羽張神としては、高天原の安河に陣取り、堰き止めて占領しているとされる。
イザナギの「黄泉下り」神話でも、約束を破られて激昂したイザナミが放った黄泉國の悪鬼を、イザナギが尾羽張で薙ぎ払う場面がある。
武甕槌命はこの「カグツチ殺し」で生まれた神であり、そこから『古事記』では「天之尾羽張の子」、『日本書紀』では「天之尾羽張から4代後の子孫」に位置付けてされている。
創作での「天之尾羽張」
同じ日本神話の刀剣として草薙剣(天叢雲剣)が圧倒的に知られるため、他の十拳剣同様になかなか登場の機会を得ない。
ただ「神殺し」にして「子殺し」であり「神産み」であるという、非常に複雑な神性を持つ「創造神の愛剣」で、かつ神格を得て独立していることも示唆されるため、想像の余地を大いに残した題材であることは間違いない。