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彦六伝

ひころくでん

「彦六伝」とは、林家木久扇(初代林家木久蔵)による新作落語の演目。
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概要

「芝居噺・怪談噺の大家」と謳われた8代目林家正蔵こと彦六が織り成す日常風景の姿を切り取り、弟子である木久蔵が経験した失敗談や体験談を交えつつ脚色を加えて編み出した滑稽噺。

この噺が出来たきっかけは、彦六が1982年に死去した際に、彦六の遺体が献体されたことである。ゆえに林家木久扇(当時は木久蔵名義)は彦六の遺体と対面することや、葬儀を行うことさえ出来なかった。その悔しさから「せめて師匠の名前と逸話だけでも後世に残したい」と思い出話をまくらで話したところこれが大受けし、内容を付け足しているうちに40分近い一席になった。

高血圧のために常に体が揺れ動く様子を「陽炎が座っている」、体の揺れを伴う独特の声色を「波動のある声」とイメージがつかみやすいように紹介した上で物真似を行っているが、この物真似は「笑点」でも行っており、司会の桂歌丸や春風亭昇太を含めたメンバーに「今の人は多分彦六師匠を知らない」「何なのそれは?」「ご苦労さまかなんか言いてえんだろ」)などと様々に突っ込まれ、座布団を没収されたりしている。

元ネタ

  • 彦六が「向かいの空き地に囲いができた。へぇー」という小噺を木久蔵に教えようとした時、「そっくりやるんだ」と促された木久蔵は彦六の姿そのものも含めて真似をすると勘違いしてしまう。木久蔵は得意の物真似で体の震えやヘナヘナの声色をそっくりそのままにやったものの「向かいの空き地に囲いができた。よかったよかった」としくじってしまい、オチの間違い以上にその奇妙な姿を訝しく思った彦六は「何でそんなに声が震えてるんだい? あたしみたいにちゃんと喋りな」と指摘し、再び小噺を演じて「やってみな」と木久蔵を促す。これに参った木久蔵はまたもや彦六の物真似をするが今度は力を入れすぎて「向かいの空き地に囲いができた。めぇー」としくじってしまい、これを聞いた彦六は「誰が山羊なんかやれっつった。てめぇなんざぁ破門だ!!」と怒鳴った。
  • 鏡開きの日、神棚に供えてあった鏡餅を割って水餅にしようと思った彦六は木久蔵を呼んで鏡餅を下ろさせる。しかし、神棚の下には長火鉢にかけられたやかんから常に湯気が立っており、その湯気に当たり続けていた鏡餅は表面が水気を帯びてカビが生えている酷い有様であったため、彦六は木久蔵にカビの生えた部分を小刀で削り取るように促す。手を滑らせないように注意して作業を続ける木久蔵の様子をぎこちないと感じた彦六は、「大怪我するといけない」という師匠心からその手元をじっと見つめていたが、当の木久蔵には刺さるような彦六の視線が耐えられない。そこで、どうにか間を持たせようと「師匠、どうして餅ってカビが生えるんでしょうかね?」と彦六に質問を投げ掛けると、彦六は即座に「ばぁかやろぉ、早く食わねぇからだよ!!」と答えて木久蔵を驚かせた。
  • 昭和36年頃、彦六がテレビでバスケットボールの試合をじっと見ている姿を目にした木久蔵は「明治生まれでもこうした時事もネタにしようとしているのか」と遠巻きに感心していたが、その矢先に彦六はテレビに向かって「誰か教えてやりゃあいいのに」と口走った。彦六の一言が理解できずに「どうなさったんです?」と聞いたところ、彦六は「テレビを見てみなよ。さっきから若ぇやつが球を拾っちゃ網ん中に入れてるが、底が無ぇのを知らねぇんだ」と言った。
  • 彦六が高座に上がって得意とする怪談噺を披露していた頃は、釣竿に吊るした綿玉に焼酎を染み込ませて点火したものを人魂として使う手法が残っており(現在は消防法により禁止)、それらの舞台演出は彦六門下の仕事の一つであった。鈴本演芸場での高座の際、兄弟子との会話の最中で気が緩んでいた木久蔵が舞台袖から彦六の側へ着火した綿玉を出すと勢い余って彦六の頭の上に乗ってしまい、ポマードで整えられていた髪に火がつき、燃える勢いが強くなりだした。「火事だ!!」と絶叫した観客の声に慌てた前座が消防署に電話をすると、応対した消防士から「すぐに行きますから、そのままにしておいて下さい!!」と言われた。
  • ある盛夏の日、彦六が出待ちの客から「これは暑気払いに大変良いものだからどうぞ晩酌の肴に」とキムチを貰ってきたところ、彦六の妻がキムチを全く知らなかったためにキムチ特有の匂いを酷く嫌がり、銭湯に行った彦六の目を盗んでキムチを丹念にすすいだ上に何度も水にくぐらせて晒し洗いしてしまった。やがて銭湯から帰ってきた彦六が「おいばぁさん、酒のつまみにいただいたお新香はどこだい?」と尋ねると、妻は「御膳の上に置いてありますよ」と言って小鉢に入った綺麗な白菜を指差した。それを見て目を丸くした彦六が妻に改めて尋ね、キムチを洗ったことを知るや「洗っ…た…って? おい、ばばぁ!てめぇは麻婆豆腐も洗うのか!」と怒鳴りつけた。
  • 孫弟子に当たる春風亭小朝が彦六の誕生日に祝いの品を携えて長屋に参じた日のこと。感謝もそこそこに彦六が包みを解いて箱を開けてみるとそこにはチョコレートが入っていたが、どれもがいびつな丸みを帯びた奇妙な形をしていたためにどう食べてよいものか思案に暮れ、とりあえず口中に入れてみた。なるほど確かにチョコレートだとしばらく口中で転がしていたが、程なくしてやけに硬くて歯が立たない何かが現れ、手に吐き出してみると楕円形をした茶色いものが出てきた。これは小朝による、高価なものをあまり好まない彦六への気遣いであったが、彦六は小朝に「このチョコレートにはタネがある」と言った。
  • 彦六83歳の時、台東区役所の依頼を受けて養老院(老人ホーム)への慰問演芸会に出演したが、自宅へ帰ってくると酷く不機嫌な様子であった。それを見て恐々としつつ木久蔵が「何かあったんですか?」と訪ねると「あたしゃ今日養老院へ慰問しに行ったがね、お客はみんなあたしより若えやつばっかりだったんだよ!」と怒り口調で応じ、木久蔵は己の師匠が老いてますます盛んであることを思い知った。
  • ある朝、木久蔵が朝食の準備で食パンを切っていたところ、彦六は「おい木久蔵。お前はパンの秘密を知っているかい?」と突如問いかけ、続いて「ロシアの捕虜収容所で出されるパンは、木屑が入っているみたいな堅いものが出される。収容されている班長はパンの柔らかい中身の部分を部下に与え、自分は堅くて不味い部分を食べる。部下からは人格者と思われるが、実際は柔らかい部分はすぐに消化されるからすぐに腹が減って死ぬ。堅い部分は消化されるまで一生懸命噛むから、なかなか腹が減らない。従って生き残るのは班長の方だ。パンを食べるなら耳だよ」と教える。

この話を聞いた木久蔵はパンの耳を積んだ皿を彦六に出すが、彦六に「俺は捕虜じゃねえ」と怒られた。

  • 生まれついての江戸っ子気質である彦六は、いわゆる「湯が喰い付く」熱い風呂を好んでいたが、その風呂をいただく彦六門下にはどうにも熱すぎて適わない。ある日、木久蔵が「師匠、風呂が熱いんですが…」と苦言を漏らしたが当の彦六は「馬鹿、熱いと思うから熱いんだ!!」と突っ撥ねてまるで相手にしなかった。改めて入り直したところで熱いのには変わりなく、再び木久蔵が「やっぱり熱いです…」と言うと彦六は「お前たちで『の』の字を書け!!(=熱いのならば自分たちの体でどうにか冷まして入りやすい温度に調節するようにしなさい)」と改めて突っ撥ね、水を差して湯温を下げれば済むだけの話をこじらせてはその度にいつもの調子で破門を言い渡された。
  • 珍しく大雪が降った翌日、彦六は「あちこちぬかるんでるから外に出るのは今日はお止めなさいよ」という妻の助言を無視し、用事のために木久蔵を連れて家を後にした。ぬかるみを避けようと高下駄を履き、さらに用心をして日陰の氷道を歩いていたが、氷の上で下駄の歯がツルツル滑って全く前に進まない。そうこうしているうちに氷に足を取られて転んでしまい、木久蔵の心配に「ああ大丈夫だ。自分で起き上がるから心配しなくていいよ」と答えて立ち上がったものの、数歩進むとまた転んでしまったが、今度はどうにも立ち上げる気配がない。よもやと思い木久蔵が「師匠、大丈夫ですか?!」と血相を変えて尋ねると、彦六は何食わぬ顔で「ああ大丈夫。さっき起きなきゃよかった」と返した。
  • 昼食に蕎麦の出前を取ったある日、食欲旺盛な若き日の木久蔵はおつゆ一滴すら残さずに平らげたが、彦六はおつゆをつけていない麺をすするだけであり、そのうちに彦六はおつゆの残った丼をそのままにして、用事のため外出した。用事を終えて彦六が帰宅してみると丼はすっかりと片付いており、「おい、汁はどうしたんだね?」と木久蔵に尋ねると「捨てました」と返されて「破門だ!!」と怒鳴った。

解説

余談だが、彦六による弟子への破門宣言はその場の勢いで行ってしまうだけで、実際に破門した例は殆ど無い。三遊亭好楽(彦六の病死に伴い三遊亭圓楽一門に移籍する前は「林家九蔵」名義)は23回も破門を宣告されているが、しっかり反省の意を見せることで「よし許す!」と失敗を許されている。

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