概要
『わたしの幸せな結婚』に登場する家門で、主人公・斎森美世の実家。
原作では異能の系統について特に言及はないが、実写映画版では風を操る異能を受け継ぐ家系とされている。
元は旧都にあった家で、維新の際に帝が今の帝都に移るのに伴い拠点を移した家の一つ(小説版7巻)。
帝都にある家屋の造りは純日本風の邸宅で斎森澄美が嫁いだ際に植えられた桜の木があったが、小説版1巻時点では既に切られていて切り株のみが存在する。
古くから異能者を輩出する名門だったが、ここ数代は落ち目であり、過去に築いた財産や地位でかろうじて名家の体裁を保っている没落寸前の状態だった。
これに対し、先代当主は自身の息子で次期当主・斎森真一の嫁として精神系の異能を操る薄刃家の娘・澄美を迎え入れることで再興を図ったが、
- その詳細を息子の真一に教える前に亡くなったこと
- 澄美が美世の強力な異能が悪用されることを懸念し封印を施していたこと
- 澄美から真一に美世の異能について打ち明けようとしたが、愛してもいない妻の言うことなど信じられないと真一が全く聞き入れなかったこと
- 真一が澄美の死後に後妻として元々恋仲だった香乃子を迎え入れ、彼女と次女・香耶のみを厚遇、美世をないがしろにしたこと
- 香乃子の美世への虐待を知りながら諌めなかった
- 美世と香耶とで態度を変えて接する等で結果的に姉妹仲を悪化させた
- 薄刃家の血脈の価値を知っていた辰石実が美世を辰石家に取り込むため、あえて美世の処遇を放置したこと
- 当主一家の間違った言動を諫める人間が家中にも外部にも不在だったこと
- 上記の理由で(幸次以外の)辰石家は不干渉
- 斎森家の使用人達は当主一家を恐れて見て見ぬ振り(過去、美世を庇った花が強引に解雇されたのも理由と考えられる)
以上の複数の要因が重なった結果、再興に失敗。小説版1巻終盤で斎森家はとある事件によって火災に見舞われ家屋敷及び家財道具は消失、美世を除く家族は全員離散し帝都を離れた。
その結果、斎森家は事実上の没落となっている(詳細は後述)
(小説版7巻)葉月が集めていた新聞記事の中に、清霞の結婚とその相手の美世のことが紹介されていた。美世に関する記述は少なかったが、その中に斎森家が火災に遭ったことが言及されており、世間にも斎森家の火災は知られている様子。
斎森家について
当主について
現当主は美世と香耶の父親でもある。
作中では世間に出て働いている描写がないため、職業は不明。
(但し、若いころは異能者として怪異に立ち向かっていたという描写があるのでその際に報酬等を得ていた可能性はある)
真一は落ちぶれていく家を当主として何とか盛り立てようと努力する様子は無く、また異能持ちの香耶の教育についても特別熱心に行っている様子も無い。
(小説版7巻にて、作中の世界の前提として女性は次世代に命を繋ぐことが重要視されるが故に異能か見鬼の才さえあれば良いとされ、術を使用できることまではさほど求められていない風潮があるのも理由と考えられる)
跡取り娘の香耶の婚約者に辰石幸次を選んだ理由として以下を挙げている。
・幸次との子供が異能を持つ可能性が高いこと
(伴侶となる相手に異能さえあればよく、異能の強さは考慮していないと思われる)
・辰石家が古くから付き合いがある家で気を回さずに済むことと面倒も無く、気兼ねせず香耶がのびのびと暮らせるから(概要)
(Twitter内 #キャラクター質問大募集 10より)
理由を簡単にまとめると、
「異能を持つ後継ぎが望める可能性がある相手で、更にこちらが余計な気を使わずに済む家の人間だから」ということだろうか。
※小説版3巻にて久堂芙由から見た斎森家は
・木っ端異能者の家
・(真一を指して)当主の頭もいかにも悪そう
(芙由の高慢な性格を差し引いても)惨憺たる評価をしている。
親族について
(小説版2巻より)美世と香耶から見て父方の祖父母(真一の父母)は既に亡くなっている。
(漫画版4巻より)更に2人の死因が真一の結婚後間もなく事故死していることが清霞の調査で判明している。
(小説版2巻より)斎森家に連なる親族(美世と香耶から見て父方の叔父叔母、従兄弟)がいることが判明している。彼らには異能が無いため斎森家と関わることなく遠方で慎ましく暮らしているとされている。美世は斎森家の親族にほとんど会ったことがないとのこと。
小説版2~8巻時点で斎森家の親族は登場しておらず、情報は一切不明。
(香耶が斎森家の親族に会ったことがあるかは特に言及がないため不明)
小説版2巻内の美世の回想では、香乃子側の親族は度々斎森家を訪れていたようで、香耶は母方の親族とは交流があったことが判明している。
(小説版5巻より)斎森夫妻は新年の挨拶回りには香耶だけを連れて行き、美世は斎森家に残った使用人達と留守番だったと述懐している。美世は斎森家の親類縁者と最低限度の交流をすることも無かった。
また、美世の実母・澄美の実家の薄刃家と最低限の親戚付き合いもなかったようで(小説版7巻では澄美の父・義浪は家の掟により澄美の葬儀に参列できなかったことが判明している)美世は薄刃家の存在を使用人伝に知ったほどだった。
使用人達について
斎森家の者が美世に虐待していたことは当然把握していた。
美世の境遇をとても可哀相だと感じていたが、当主の意向に逆らうことの出来ない立場でいたため、見て見ぬ振りしかできず、斎森家の目を盗んで最低限の手助けしか出来なかったことから美世に対し到底許されないことをしたと後悔していることが以下の回答で判明した。
また、元使用人の花は、美世のことを親身になって心配していた数少ない味方で、過去に香乃子が澄美の遺品を勝手に処分、それを咎めた美世を蔵に閉じ込めた際は美世を守ろうと香乃子を非難した。しかし、話を聞き入れるどころか香乃子は逆上し、花は強引に解雇されてしまい、以来花は斎森家に近付くことも出来なかった。
作中での動向
小説版1巻で起きた辰石実の起こした騒動がきっかけで帝都の斎森家の屋敷や家財道具は火事でほとんど焼失してしまった。
(小説版7巻にて、葉月が集めていた新聞記事の中に斎森家が火災に遭った旨が記載されていることから、火災のことは世間にも知られている様子)
更に、一連の騒動の責任を取るため(ほとんどが清霞主導で手配された)斎森家は業界から退くことで事実上没落している。清霞曰く「これまでとは比べものにならない貧しい暮らしになるだろう」と地方移住後の斎森夫妻はますます金銭的に困窮した生活になることが示唆されている。
また斎森家の跡取りである斎森香耶と辰石幸次の婚約は白紙にされていない。
小説版8巻時点での斎森家の人々の状況は、
- 斎森真一・香乃子の場合
上記の騒動の責任を取るため二人で地方の別邸に移住。その結果、業界から退くことで斎森家は事実上の没落となった。
- 斎森香耶の場合
(清霞の意向で)特別厳格と有名な家に女中奉公に行っている。
- 辰石幸次の場合
過去の自分と決別するために旧都で異能者として修行中。
小説版7巻にて、対異第二特務小隊の隊員として再登場を果たした。隊長の光明院からは異能の扱い方の筋の良さを評価されていた。
- 使用人達の場合
けが人はいなかったが大半が解雇された。
事実上の没落ということもあり、跡継ぎの香耶と幸次の成長によっては斎森家の再興の可能性はわずかに残っている状態である。
小説版6巻
斎森家の人間全員が清霞と美世の婚礼に招待されていないことが判明した(美世は斎森家の人々に婚礼に出席して欲しいとは内心思っておらず、そのことに安心していた)
小説版7巻
清霞と美世の婚礼が無事執り行われた。
(上記の理由により)斎森家の人間が婚礼に参加することはなかったが、清霞の計らいで元使用人の花が美世の結婚を祝福しに夫と共に披露宴に参加した。
また、幸次経由で香耶から美世に宛てた手紙が送られている(美世は香耶の性格から手紙を送ってきたこと自体に驚いていた)香耶からの手紙は当たり障りない結婚を祝福する言葉に始まり「自分のほうが平穏で、満足な、何倍もましな暮らしをしている」といった皮肉の詰まった文面と、最後に美世の幸せを祈る言葉で締め括るという内容であった。手紙を読んだ美世からは「刺々しいけど、やけに楽しそうなお手紙」と昔の香耶にあったいやらしさや歪みが手紙からほとんど伝わってこないと感じていた。
美世は一生かかっても、香耶のしたことを笑って許す気になれるかわからない、また父や継母に奪われた歳月を惜しく思い、憤りを覚えることもあると絶縁から1年近く経った時点でも斎森家の人々に対して複雑な心境を抱いている。
それでも彼らの暴挙に屈するだけだった過去の自分よりは前に進んでいると自身の変化と成長を感じていた。
考察
斎森家の末路については以前より没落するだけの理由が揃っていたと考えられる。
そうなるに至った前提として以下の現状があった。
小説版1巻時点の斎森家の現状
- 家自体が真一が当主になる前から落ちぶれかかっていたこと
- ただし、没落寸前だったことは前提であり、直接の原因ではない。現に同様の状況にあった辰石家は異能者の家として存続している
- 美世の持つ薄刃の血筋の特殊性を斎森家の誰も正しく理解していないこと
- 澄美が真一に美世の異能について打ち明けようとしたが、真一は全く聞き入れなかった
- 真一が異能の有る無しで娘達への態度を分け隔て、姉妹仲を悪化させたこと
- 他人の意見を聞かない傲慢さや権力を盾に下の立場の者達への横暴な言動があったこと
- 雇用主に苦言を呈する使用人(花など)を正当な理由無く強引に解雇した
- 他家の都合や意向を尊重せず、それどころか面子を潰すような身勝手な行動を平然と行っていたこと
- 美世の粗末な嫁入り支度で久堂家の面子を潰す
- 以前より辰石家から縁談の打診があったのを一方的に破棄する
- 真一が異能持ちの香耶に対し異能の訓練も跡継ぎとしての教育も熱心に行っている様子がない
- 香耶自身が後継ぎとしての自覚や覚悟が薄いこと、婚約者の幸次に対して好意も尊敬の念もなく、常に侮って見下している言動がある
- 当主夫妻の間で家の運営方針について明確な目標が無いだけでなく、家中の運営についての意思疎通がほぼできていないこと
- 当主の真一の了承もないどころか、久堂家に事前の申出もないまま香乃子の独断で美世の縁談を一方的に破談にしようとした
上記の理由から遅かれ早かれ斎森家はいずれ没落していたのではないかと考えられる。
斎森家の火災は単に没落が明確になった切っ掛けに過ぎない(斎森家火災時に香乃子の言う「(美世を指して)あの娘のせいだ!」は紛れもなく言い掛かりと思い込みである)
よって、元から斎森家の没落は免れなかったと思われる。
久堂家との政略結婚について
また真一自身当主としての力量不足があったのも原因と考えられる。
その最たる例が久堂家との婚姻である。
そもそも久堂家と斎森家の婚姻は、表向きは政略結婚である。
政略結婚とは、双方の家に発生する何らかの利益が一致することではじめて成立する。よって、婚姻の背景には何らかの組織的利害関係が絡むものである。それ故に、嫁がせる娘も嫁家に相応しい出自や教養、知性、両家の利害を考慮した立ち回りが出来る度胸と胆力、後継ぎを産み育てることができる健康な身体、娘自身の覚悟が必須と言える。
(真一と澄美の婚姻の場合、斎森家は薄刃家由来の異能の血筋を得ることで強い異能を持つ後継を持てる見込みがあったこと、薄刃家は金銭的困窮から資金援助を得ることで成立した政略結婚である)
作中のモデルである明治・大正時代は、福祉関係の法整備が現代より貧弱であった。婚姻も個人間の意思ではなく各々の家の得意分野を生かしそれらを補完し合うことで家同士の互助を強める意味が大きい。そのため、必然的に価値観や金銭感覚の相違が少ない同格の家門同士で婚姻関係を結ぶケースが多かった。よって家格の違いすぎる家同士での婚姻は、余程の事情が無い限り成立自体が難しいと言える。
今回の縁談の場合、斎森家は以前より落ちぶれかかっており金銭的にも困窮していた。もし、国内でも指折りの資産家で爵位も有する久堂家との縁談が成立すれば御家再興の足掛かりを掴める上に金銭援助も見込める。普通に考えるならば、どんな手を使ってでも縁談を成立させなければならない、弱小の異能の家には勿体ない程の良縁と言えたが、前述した通り、斎森家は異能者の名門ではあるが縁談が持ち上がった当時は没落寸前で久堂家の弱みを補完できるものはほぼ無い。異能者の家系の中でも最上位クラスの久堂家と没落寸前の斎森家とでは格差が大きすぎた。場合によっては斎森家が無理難題を押し付けられる可能性もあり得たため、遥か格上の家との縁談を承諾すること自体が相当勇気ある行動であった。
(※美世の場合、辰石家からも縁談があったので久堂家しか嫁ぎ先が無かった訳ではない。斎森家側としては久堂家との縁談を断って辰石家か他家との縁談を進めるか、もしくは香耶を久堂家に嫁がせる選択もできた)
だが、斎森家が婚約者候補にと送り出したのは異能を持たない(と思われていた)上に令嬢としての教育も満足に受けさせていない美世だった。しかも、新品の着物一着のみを着せただけの粗末な嫁入り支度と付添人無しで一人で向かわせるという久堂家の面目を潰すような無礼な仕打ちをしている。
(小説版3巻で清霞の父・正清は、斎森家に対し美世か香耶、どちらとでも取れる表現で縁談を人伝に持ち込んでいたことを明かしている。そのため、どちらを婚約者候補に寄越すかは斎森家の判断に任せていたので、誰が来るかはある意味賭けのようなものだったと証言している。とはいえ仮に斎森家が香耶を婚約者候補に寄越していたとしても、傲慢な女性を嫌う清霞が香耶を選ぶとは考えにくいので、歴代の婚約者候補同様破談になっていた可能性が非常に高い)
上記の状況から判断するに、斎森家は格上の久堂家に気を遣うどころか侮辱するようなことまでしている。格上の家に嫁がせる選択をしたにもかかわらず、縁談が成立するように配慮しなかったのは真一の当主としての才覚の無さと父親としての愛情の無さがうかがえる。また、斎森家全員が久堂家との婚姻に至る結果がどうなるかを甘く見ていたかもわかる。
(斎森家との縁談を清霞が受けた理由について、原作者のマシュマロにて清霞自身、結婚相手が異能者であることにはこだわっていなかった、異能者の血を受け継ぐ相手であればそれに越したことはないと考えていたこと。また没落しかけの家=力の弱い家なので縁ができても地位や権力、財産などで揉めたりなど面倒ごとがない(久堂家の力である程度抑えられる)と考えたから(要約)と回答している)
久堂家の力である程度抑えられる、ということは言い方を変えれば指先一つでどうとでもできる家扱いだったということに、縁談を受けた斎森家は気づいていたのだろうか。
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