辰石幸次
たついしこうじ
辰石家の次男で、美世と香耶の幼馴染み。美世よりやや年上。
短い黒髪にそばかすの優しげな雰囲気の青年。
念動力(手を触れずに物を動かす)の異能を持つ(父の実曰く動かせる重量は椅子一脚程度)
誰にでも優しい性格で、斎森家での美世の扱いに度々抗議したりしていた。
だが父親の辰石実から「人様の家のことに口を出すな」と叱られてからは表だって美世を守る行動は出来なかったが、時折斎森家を訪れては何かと美世のことを気にかけていた。
幸次の存在は、斎森家で味方の居なかった美世にとって唯一にして最大の救いであった。
前述にもある通り、幸次の誰にでも優しい性格は長所でもあり短所でもあることから、美世曰く「彼は臆病だ。優しすぎるがゆえに」と評されている。
兄・一志曰く「どうしようもない甘ちゃんだが、女を見る目は確か」(小説版6巻)
家同士の取り決めにより、斎森香耶の婚約者となる。
元々美世のことが好きだった幸次にとって、この婚約は不本意なものだった。
斎森家も辰石家も美世を道具のように見ていることを内心忌々しく思っている。
香耶のことも美世を虐げていたのを知っているので、香耶に対して特に好意は抱いていない。それでも香耶との婚約を了承したのは、縁談相手に美世を選んだ場合に自尊心の高い香乃子・香耶母娘の矛先が美世に向いてしまうことを恐れ、誰よりも近くで見張ることが出来る斎森家次期当主の立場を選んだから。全ては美世のためだった。
ある日、香耶の買い物に付き添っていた幸次は、偶然美世と再会する。美世を貶す香耶を窘めるが効果は無かった。香耶の素行を咎める幸次に内心香耶は「気が利かない」「結婚を考え直したほうがいいかもしれない」と悪態をつく。
後日、香耶から美世との婚約の交換を提案されるも(香耶の性格を知った上でいつもの我が儘が出たと相手にしていなかった節がある)拒絶した幸次だが(作中での時代の結婚は家同士の繋がりを強めるいう側面が強いため、婚約を決める当主の意向が無い限り当人の意思での婚約破棄等は出来ない。美世のことを好きな幸次が提案に乗らなかったのも「家長の許しがない」という作中の時代における一般常識からである。また、前述した通り香耶のいつもの我が儘と気に留めていなかった可能性もある)香耶が幸次の父に話をすると頑なだったため、不審に思った幸次は付いていく。そこで実と香耶との間で交わされる相談があまりにも美世の意思を無視したものであったこと、そして美世の薄刃の血筋を欲する余りをわざと斎森家で孤立させるように仕向けた父親の非道な仕打ちに激怒、怒りにまかせて異能を暴走させるも(異能の訓練を熱心に行っていなかったので不完全なものだった)父親に押さえつけられ、実家に監禁されてしまう。
監禁されている間、幸次は自身の優柔不断さ、臆病さ、意気地のない自身の弱さを独り悔やむ。それでも美世を助けたいという思いから兄・一志の手助けもあり、単身清霞の元を訪れ、美世が辰石家に攫われたことを伝えに行った。
美世を救出しに行く間、もし清霞が美世を見捨てたら(美世に安らぎを与える方法として)美世も殺して自身も死ぬつもりで考えていた。
だが清霞の美世への想いと、美世を奪われた怒りは幸次の想像以上に凄まじく、異能者としても男としても格上であることを一連の騒動の中で思い知らされることになった。
清霞が美世を斎森家の蔵から救出した後、幸次も香乃子と香耶を連れ出そうとする。
清霞に冷たく拒絶されたことが納得いかないままでいる香耶に「私は間違ってないわ!」と激昂され、更には「幸次さんはおねえさまが好きなのでしょう!?私のことなんて構わずに、さっさと逃げればいいじゃない!」と突き放された挙げ句「こんな女をどうして助けなければならないのか」と内心苛つき、(火災という非常事態も相まって)完全に頭に血が上っていたこともあり
「ああ、そうさ!君の言う通り、僕が一等大事なのは美世だよ。
当たり前じゃないか、でもね、君なんかでも、死んだら美世は悲しむ。
また傷を増やすことになるんだ!君の、君たち家族のせいで!」
上記の台詞を香耶に言い放ち、普段温厚な彼には珍しく激しい怒りを露わにした。
屑同然の家族に傷つけられて泣きそうな美世を二度と見たくない、美世の心の平穏に繋がるためなら嫌いな人間だって助けようという思いから、一人美世のせいだと騒ぐ香乃子と幸次の怒りに沈黙した香耶を強引に救出した。
斎森家での騒動が一段落した後、幸次は美世に何も出来なかった自分に対する後悔から旧都で異能者として修行することにしたことを伝える。
修行の間も香耶との婚約は白紙にはならず、斎森家の次期当主の立場はそのままである。
清霞曰く「今後の成長次第では、斎森家の再興もありうる」とのこと。
上記の美世とのやり取りで、彼なりに美世への想いに決着を付けた様子。
小説版2~6巻まで幸次のその後の動向は一切不明だったが…
(詳細は小説版7巻の見出しを参照)
小説版7巻
清霞と美世の婚礼の日に現れた幸次は対異特務第二小隊の新人隊員として加入していることが判明した。
美世から見た幸次は「柔和な面差しやおっとりとした口調は、以前と変わっていない」と本来の優しさを感じながら「しっかりとしたその佇まいに、昔のような頼りなさは鳴りをひそめ、代わりに凛々しさのような雰囲気が漂い、軍服も様になっていた」と1年前から大きく成長した幸次の変化を感じていた。
陣之内薫子によると、薫子が五道の代理として一時的に帝都に来るちょっと前に第二小隊に入隊したとのこと(小説版3~4巻の間の出来事と思われる)
現在は先輩隊員に厳しくしごかれていると明かされ、彼らのやり取りから幸次が隊で上手くやっていけているのが窺えた。
幸次によると異能は相変わらず弱いが、それを戦いで生かす技術を身に付けている最中とのことで、隊長の光明院からは「(幸次を指して)お前はへっぴり腰だが、筋は悪くねぇ」と悪くない評価をされている。
現在も香耶とは婚約関係を続けており(将来どうなるかは未定とのことだが)彼女とはごくたまに文通する仲とのこと。
香耶から美世に宛てた手紙を預かっており、婚礼後に美世に手渡した。
幸次の存在は斎森家で味方のいなかった美世にとって最大にして唯一の救いであった。
しかし幸次自身は美世側についていながらも、大局的には周りに流されるままになっており、その曖昧ではっきりしない態度が結果的に美世を苦しめることになった。そのことから幸次もある意味では美世への加害者と言えるかも知れない。しかし、幸次がいなければ美世は斎森家で生きる気力を無くしていただろうこと、幸次の迅速な働きが無ければ斎森家に囚われた美世を救出できなかったことから、幸次は清霞にとっては美世に出会うまで彼女の命をこの世に繋ぎ止めてくれた恩人とも言える。
小説1巻のクライマックスでは、美世を想いながらもあと一歩を踏み出せずにいた幸次と、美世のために即断即行し、その手を汚すことすら厭わなかった清霞との対比が描かれた形となった。
それでも終盤に初めて香耶に向けた強い態度や、自ら変わろうと(旧都での修行)行動を起こした点から、小説1巻は彼自身の成長の兆しも窺える結末になっている。優しさだけでは誰かを救うことは出来ないということを身を以て読者に伝えたキャラクターだろう。
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