概要
超音速がマッハ1以上の速度を指す事に対して、極超音速はマッハ5以上の速度を指す概念である。つまり秒速約1.7km、時速6120km以上で飛ぶミサイルが極超音速ミサイルとされる。
そういった意味では、既存の弾道ミサイルには終末速度がマッハ20を超えるものもあり、ICBMやMRBMといった多くの弾道ミサイルは極超音速ミサイルであるといえる。
しかし、単に極超音速ミサイルと言った場合には、主に次に挙げる2種類のミサイルを指す事が一般的である。
- 極超音速滑空弾
弾道ミサイルの弾頭を、操舵翼を備えた物にしたり、紙飛行機のような形状の滑空体にすることで、既存の弾道ミサイルより低い高度(概ね100km以下)をグライダーのように変則的な軌道で跳躍飛翔させ目標を攻撃するミサイル。
- 極超音速巡航ミサイル
マッハ5以上の速度で飛翔する巡航ミサイル。通常の巡航ミサイルは数十m以下の低高度を飛翔しレーダーによる探知を難しくする事が可能であるが、極超音速巡航ミサイルは大気による影響を大きく受ける事から、現在のところ20~50km程度の高高度を飛翔するため、探知自体は既存の巡航ミサイルよりも容易といえる。
どちらにしても既存の弾道ミサイルよりは低い高度を、変則的な軌道を描き高速で飛翔することから、目標の飛翔経路を予測し迎撃体を送り込むSM-3やGBIなどを用いる既存の長距離迎撃システムでは対処が困難である。
また、SM-3やGBI、THAADなどには最低迎撃高度が存在し、数十km以下の高度の目標とは交戦出来ない。
それに対して、PAC-3などを用いる近距離迎撃システムは防衛地点付近に布陣し、終末段階の向かってくる弾道ミサイルの迎撃が可能なシステムであり、極超音速弾であっても終末時の目標に向かう段階であれば弾道ミサイルと概ね同様の特性であるため対処できる可能性がある。
極超音速ミサイルの欠点としては、大気圏内を高速度で飛翔するため圧縮断熱によって弾体が超高温になり、レーダーや赤外線などのセンサーの使用を困難にする事から、艦船などの移動目標に対する射撃は非常に高い技術的なハードルがあるとされる。
近年、ゲームチェンジャーと持て囃され、中国、ロシア、北朝鮮、米国、日本などの多くの国が開発に取り組んでいるとされるが、極超音速ミサイルも弾薬の投射手段のひとつに過ぎず、それだけで戦争の行く末を決定する魔法のような兵器ではない。
ロシアによって開発されたキンジャールは、航空機から発射可能な極超音速ミサイルであると喧伝されているが、単なる空中発射弾道ミサイルであるとの指摘もある。もっとも、極超音速ミサイルという概念はやや曖昧なものであるため弾道ミサイル(特に機動可能な弾頭を備えたもの)との区別は難しく、お前がそう思うんならそうなんだろうという事で良いだろう。
なおキンジャールはウクライナ侵攻において実戦使用されたが、PAC-3によって迎撃されている。