石川ストック
いしかわやづつ
武士として正々堂々戦うか、守るために誉れを捨て手段を選ばず戦うか。
ハーン様は常に冥人めにその二択を突きつけ戦意を削ぎ続けていらっしゃいました。そのような本作でございます故、此度の戦において対馬の弓取は戦場の主役にあらず。闇討と死合が流行る対馬にて一歩引いた位置に置かれることを余儀なくされました。
なぜなら、ハーン様率いる蒙古の大軍勢を前に、矢の所持数は最大強化してもあまりにも抑えめなのでございました。
戻矢の護符なるものを装備すれば一定確率で矢を回収できるようではありますが、回収前に矢が尽きるは必然。
開世界の欧米遊戯なる地より現れた冥人共は三人称射衆・主観射衆なる百発百中の弓取と聞き及びますが、弓そのものが無力たる対馬の地にて奴らは物の数ではない。ハーン様はそう断じられました。
しかし、卑劣なる冥人共は呟之文における密議の末、悍ましき策を閃いたのでございます。
「味方に刺さった矢は暫し身体に残る。これは矢筒として使える…(声:中井和哉)」
奴らはすぐさまその策を実行に移し、弓取として名高い石川先生の額を躊躇なく矢筒としたのでございます。何たる卑劣。これが武士のやることでありましょうか、いやある筈がございません。
頭髪のごとく矢を頭に生やした石川先生が姿を現した際には、ハーン様も唖然とし、あの小生意気な境井仁すらも肝を冷やしておるようでした。
- 頭を射抜かれつつも泰然自若としなさる石川先生。
- あの境井めの呆然とする姿。
- 何食わぬ顔で作業を続ける女子。
- 堂々と表示される「仁之道」。
地獄絵図を体現したかのようなこの電信絵巻は呟之文を席巻し、瞬く間に新たな冥人共を増やしたのでございます。
ああ、もはやこの対馬に誉れはないのでしょうか。
しかし、すぐに自らを取り戻したハーン様はこうおっしゃいました。
あの男は我が軍にて「屑先生」「圧力先生」「自然的屑」と呼ばれている、と。
斥候の報告によれば、冥人一味ですら皆一様に石川の人格には辛辣な評価を下しているとのこと。「若い頃は傲慢で無情だった」と述懐しつつも今なおその本質は変わっていない、故にこの男の弟子を我が方に引き入れることができたと。
矢筒として石川が選ばれたのは、冥人共にとっても必然だったのでございます。
撃っても心が傷まぬ男。
境井に与する誉れなき者にはふさわしい仕打ちといえましょう。
何とおぞましき事に、冥人共は石川だけでは飽き足らず、対馬の民、果てにはハーン様をも矢筒の標的にしたのでございます。
民を救うと喚いていたあの冥人が、救うべき民に何の躊躇いも無く矢を突き刺したのでございます。
何たる外道。これが人間のやる事でございましょうか、いやある筈がございません。かつての武士の面影は一欠片も無い、誉れを完全に捨てた非道な鬼へと化したとも言えましょう。
高麗を蹂躙し尽くしたハーン様や島で暴虐の限りを尽くす他の蒙古でさえも、この所業には閉口せざるを得ないご様子でした。
ああ、この対馬はもはや穢れた地となってしまったのでしょうか。この誉れなき者の犠牲となった民に、御仏のお救いがあらん事を。
Ghost_of_Tsushima 石川先生 Sensei_Ishikawa
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