曖昧さ回避
以下、全て本記事内で解説する。
- 改正新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づいて日本政府や都道府県が発するもの。
- 警察法で、内閣総理大臣が国家公安委員会の勧告に基づき、全国または一部の地域について発するもの。布告後は、内閣総理大臣が一時的に警察を統制する。
- 災害対策基本法で、内閣総理大臣が閣議にかけて、全国または一部の地域について発するもの。
改正新型インフルエンザ等対策特別措置法の緊急事態宣言
正式名称は「新型インフルエンザ等緊急事態宣言」。
新型インフルエンザなどの感染拡大で国民の生命・健康や生活・経済に甚大な影響が出ると判断した場合に、感染症専門家などによる諮問委員会の意見聴取を経て、首相が期間・区域を決めて発令する。
対象となる都道府県の知事は、外出自粛、施設の使用制限、イベントの開催制限などの要請・指示のほか、臨時医療施設開設のための土地・建物の使用や医薬品・マスクなどの売り渡しに関する命令を行うことが可能になる。
2020年4月、当時流行っていた「COVID-19」の感染拡大を受け、日本政府は改正前の特措法も含めて初となる緊急事態宣言を発令。東京都など7都府県を対象に(後に全国に拡大)、約1カ月間の実施期間が設けられた。同年5月25日に全国で解除されたが、徐々に感染者が増え第二波が来る可能性がある。そして2021年1月7日に再び東京、神奈川、千葉、埼玉に2度目の緊急事態宣言発令される事が決定した。
それから4月25日に3度目、7月12日に4度目の緊急事態宣言が発令されるも一向に収束する気配がないCOVID-19の感染拡大に自粛疲れも合わさり、さらに東京オリンピック開催による人流の増加も重なった事で次第に緊急事態宣言の効果が薄れている事を指摘する声が増えていた。
その後、コロナワクチンの効果もあって次第に感染者数も減少した事で9月30日をもって4度目の緊急事態宣言は解除されたが2021年は9月時点まで緊急事態宣言がない日数は1月最初の1週間と3月下旬から4月上旬までの1ヶ月も満たない事態となっている。
警察法の緊急事態宣言
警察法における緊急事態布告は上記のものと異なる。
大規模な災害・騒乱・その他の緊急事態に際し、治安維持のため特に必要があると認められる場合、国家公安委員会の勧告に基いた上で、首相が期間・区域・事態の概要を決めて発令する。
例えばデモや暴動で治安が崩壊しかけた際に発令されるものとなっている。
布告がもたらす主な効力は、都道府県警察を一時的に中央統制下に置き、職務執行体制を強化すること。布告が行われると首相や警察庁長官は暴動が起きた地域に対し、全国の都道府県警察の警官を応援部隊として自由に投入することが出来る。
……言ってしまえば、これだけである。
警察官の権限が強化されるとか、警察官が自由に拳銃を撃ったり自由に逮捕できるようになったりとか、戒厳令が如く自衛隊が街に展開して武力統制を敷くとか、そういうことは一切ない。
布告で出来ることは警察組織の一時的統制強化と応援投入の簡便化だけであり、あくまで騒乱発生地域へ警察官を集中投入できるようになるだけである。それでも平時には応援投入に必要な複雑な手続きが一切合切省略できる、という利点はあるが。
なお、現在までに警察法における緊急事態布告が行われたことはない。
災害対策基本法の緊急事態宣言
災害対策基本法における緊急事態布告もまた上記のものと異なる。
正式には「災害緊急事態の布告」。
国の経済・公共福祉に重大な影響を及ぼすレベルの異常かつ激甚な非常災害が起きた際、国の経済の秩序を維持し、災害に係る重要な課題に対応するため、閣議にかけた上で首相が期間・区域を決めて発令する。
1995年の阪神淡路大震災の経験に基づいて制定された。
布告されると、主に日本経済の崩壊を防ぐため、物流や物価の統制、債務の支払い延期といった経済的な緊急措置が可能となる。
また、いくつかの条件を満たしていれば、緊急措置のために内閣が独自で政令を制定できるようになる(ただし、制定できるのは生活必需品の供給や配給、物価統制、先に述べた債務支払い延期などに関連した政令に限られる)。
それだけでなく、政令違反者に対して刑罰を科すことも可能。
また、緊急災害対策本部が設置され、災害関連の問題に対処する。
災害緊急事態が布告されるのは、言ってしまえば国の経済が崩壊するレベルの大災害が起きた時であり、現在までに布告されたことはない。
2011年の東日本大震災でも布告されることがなかった、まさしく伝家の宝刀なのである。