概要
『クレタ人のパラドクス』『嘘つきのパラドクス』として広く認知されている原始的矛盾の1つ。
自己言及を前提とした構造体の文章に対して2つの古典的真理値(真偽)のどちらかを当てはめようとすると、逆説の無限連鎖を繰り返してしまう矛盾を引き起こす現象を指す。
構造
一般的な通念による真偽で結論を導き出そうとすると矛盾が生じる文章構造であり、下記の
「『自分は嘘をついている』と言う彼の発言は嘘か真か?」
のように文法や意味論の規則に従いつつ、真偽では結論が得られない文章の構築を可能とする。
解釈
上記の質問に対して真理値を当てはめて考えると、以下の2つの結論が導き出される。
- この文章を真と考えた場合、彼は嘘をついているのでこの文章は真実を示している。
- この文章を偽と考えた場合、彼は真実を述べているのでこの文章は嘘を示している。
つまり、
- 「自分は嘘をついている」の文章が真ならば内容は偽である。
- 「自分は嘘をついている」の文章が偽ならば内容は真である。
となり、どちらを当てはめても『真であり偽』という真理値の矛盾を導き出し、明確な答えを得られない状態に至る。
ただし、ごく簡単に言えば「その問いに対して『YES or NO?』」の二択を迫られた場合に発生する矛盾であるため、第三の選択肢がある場合に限り「どちらも存在し得る『both YES and NO』」の回答で矛盾を即座に解消出来る。
応用
童話『裸の王様』における「嘘つきには見えない服」や「『貼り紙お断り』と書かれた貼り紙」など、同種のパラドクスを含む話題は数多く存在し、それを形として非常に解りやすく表したものにラーメンズのシニカルコント『QA』の一節がある。
「『はい』か「『いいえ』で答えなさい。貴方が次に発する言葉は『いいえ』である。」
- 「はい」の回答は質問に対して肯定の生理を含むが、同時に「いいえ」の発言を意味する。
- 「いいえ」の回答は質問に対して否定の生理を含むが、同時に「はい」の発言を意味する。
つまり、
・「はい」の回答によって次の発言が「いいえ」である事実を示している。
・「いいえ」の回答によって質問に対して「はい」である事実を示している。
となり、真偽を得ようとすると「はい」が「いいえ」になり「いいえ」が「はい」になるという無限連鎖を繰り返す矛盾が発生してしまい、「はい」と「いいえ」のどちらで答えても「いいえ」の発言を回避できなくなる結論を導き出し、最終的には「はい」とも「いいえ」とも答えられない状況に陥る。