概要
「語り(ナラティブ)」とは、語ることや物語ることを全般的に指す語である。類義語として「物語(ストーリー)」があるが、「語り(ナラティブ)」はそれよりも非常に意味が広い。ナラティブセオリー(語り理論)では、
- 日常会話、コミュニケーション
- フィクション、芸術、文化
- 報道、ルポルタージュ、ノンフィクション
- 神話、言い伝え、宗教
- 歴史、ヒストリア(=historia 歴史・物語・探求)、公式発表
- 自己紹介、自己認識、自己同一性(アイデンティティー)
- クライアント(=client 依頼人・顧客・患者)からの話
- 科学的・医学的説明
等といったものも、語り手(ナレーター)によって語られたり記述されたりする限りは、全て「語り(ナラティブ)」と見なされる。
家族療法士・臨床心理学者の国重浩一によると、「ナラティヴ=語り、物語、ストーリー、お話」である。
(プレゼンテーション「ナラティヴ・セラピーの会話術ワークショップ 20141025」から引用)
社会学者や文化研究者によると、人間は「文化・社会的文脈、歴史的文脈、生態的文脈」の中で生きており、その中でも特に強力な常識や、広く受け入れられている考え方は、「支配的語り」(マスター・ナラティブ)と呼ばれる。
(灘光洋子・浅井亜紀子・小柳志津「質的研究方法について考える」(2014年)75ページから引用)
語り(ナラティブ)と物語(ストーリー)の違い
"narrative"は、「語り」や「ナラティブ」と訳される他に、「物語」と訳されることもある。しかし"narrative"(語り)と"story"(物語)は、厳密には語義が異なる。
言葉の原義を踏まえて細かく区別すれば、
- 物語(story ストーリー):歴史的性質がある。語源は"historia"(=歴史・物語)。
- 語り(narrative ナラティブ):歴史的性質に限らない。語源は"gna"(=知ること・伝えること)。
という違いがある。
例
臨床心理学者の磯邉聡は、次のように解説している。
> storyの語源はラテン語のhistoriaであり,このhistoriaは同時に歴史を意味するhistoryの語源にもなっている。つまり,storyとhistoryは共通した要素を含んでいる。
> いっぽう,「語る」という行為を重視する立場では,narrativeという語が使用され,storyとの訳し分けがなされることもある。
(「臨床において『ものがたり』を読むということ」(2010年)43ページから引用)
また、語り(ナラティブ)の語源を調べると、「知ること」および「伝えること」を両方意味する"gna"が原義であると考えられている。
(川端祐一郎・藤井聡「ナラティブ型コミュニケーションの性質と公共政策におけるその活用可能性の研究」(2013年)4ページから引用)
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